COLUMN

ブラック・ミディ『Schlagenheim』と日本文化の奇妙でイビツな親和性

ゲーム、オルタナ、和ジャズと呼応するサウンド

Photo by Anthrox Studio

ロンドンから現れた若き4人組、ブラック・ミディ。ロンドン・ロック・シーンの中心地と目されているブリクストンのヴェニュー〈Windmill〉などでのライヴで話題を集め、名門ブリット・スクール出身の19~20歳、という話題性と共に、2018年にはもっとも注目すべきバンドと噂された。かくして彼らはラフ・トレードと電撃契約。2019年に届けられたデビュー・アルバム『Schlagenheim』は、すでに今年のベスト・アルバムとの呼び声も高い。

マス・ロック、ポスト・ロック、ノイズ・ロック、ポスト・パンクなどがマッシュアップされた異形のサウンドでロックの新たな地平を切り開かんとする勢いに満ちたブラック・ミディに、Mikikiは全2回の特集で迫る。まずは、BOREDOMSなどを影響元に挙げる彼らと日本のカルチャーとの関係性を紐解いてみよう。 *Mikiki編集部

BLACK MIDI Schlagenheim Rough Trade/BEAT(2019)

 

〈black midi〉と〈Black MIDI〉

名は体を表す――ブラック・ミディほどそれを感じさせるバンドもいない。

ブラック・ミディ(表記は小文字で〈black midi〉)というバンド名の由来は、2000年代末、日本のインターネットの深部で突発的に生まれた音楽ジャンル〈Black MIDI〉だ。〈黒楽譜〉とも呼ばれるBlack MIDIの音楽は、読んで字のごとく楽譜やMIDIファイルが大量の音符で真っ黒く埋め尽くされている。

東方Projectの人気曲“上海紅茶館 ~ Chinese Tea”の〈音符数300万〉ヴァージョンをゲーム〈Synthesia〉で映像化したもの

東方Projectとニコニコ動画に端を発することからもわかるとおり、Black MIDIは弾幕系シューティング・ゲームから発想されたもの。上掲動画や、〈Black MIDI〉〈黒楽譜〉でYouTubeで検索していただければ、音楽の形態そのものがゲームのヴィジュアルのアナロジーにもなっていることに気付くはずだ。

※90年代に生まれた2Dスクロール・シューティング・ゲームの一ジャンル。大量かつ低速の弾を敵が撃つ中、プレイヤーはその隙間を縫って回避する。その様子から戦争・軍事用語を使って〈弾幕〉と呼ばれた

極めて現代日本的かつインターネット的なこの音楽についてはメンバーももちろん承知で、NYのメディア〈The Outline〉による取材では、その由来をきちんと説明しているのがおもしろい(弾幕系シューティングを英語で〈bullet hell games〉と言うことは、この記事で初めて知った)。Black MIDIというジャンルについてジョーディ・グリープ(ギター/ヴォーカル)は〈エイリアンが襲ってくるような作品〉〈まるで自身を解体してしまうアート作品みたい〉と表現しているが、これはそのまま彼らの音楽にも当てはまるだろう。

 

弾幕系ロック

モーガン・シンプソン(ドラムス)の手数の多いプレイに象徴される、リミットを超えてバーストするような演奏、情報量の多いサウンド、そして複雑な楽曲構造は、〈弾幕系ロック(bullet hell rock)〉と呼んでもいいかもしれない。彼らの音楽を聴いて、目がチカチカするようなエフェクトだらけのゲーム画面や、コメントで埋め尽くされたニコ動のスクリーンを想起するのはたやすい。

『Schlagenheim』収録曲“Ducter”

上記のエピソードだけでなく、とにかくこのバンドのメンバーたちは、日本のものに限らずゲーム好きだ。バンド名にしてもそうだが、ゲームに言及していないインタヴューのほうが少ないくらいで、3Dのポリゴンで描かれたなんとも奇妙なアーティスト写真(アヴァター画像?)も90~2000年代のレーシング・ゲームなどを連想させる。先のインタヴューでキャメロン・ピクトン(ベース/ヴォーカル)は〈僕らはゲームの美学が好きなんだ〉と発言しており、ゲームが彼らの音楽性そのものに与えている影響は確実に大きい。

 

ダモ鈴木、BOREDOMS、和ジャズ……日本の音楽との関係性

日本との関係性で言えば、この国のヒッピーの代表とも言えるカンの元ヴォーカリスト、ダモ鈴木との即興的なライヴ・アルバムをリリースしていることは特筆すべきことだろう。さらにグリープのFacebookを覗いてみれば、日本のオルタナティヴ・ロックや、いわゆるノイズ・ロックからの影響が顕著なことが窺い知れる。

たびたびその影響を口にしているBOREDOMSと山塚アイの他、彼がお気に入りに挙げているのは、灰野敬二と不失者、toe、少年ナイフ、非常階段、中村としまる、Masayoshi Fujita、Merzbow、武満徹、上原ひろみ(!)、MONO、あふりらんぽ、にせんねんもんだい、OOIOO、MELT-BANANA、POLYSICS、BORISなどなど……(ちなみに、アニメ「STEINS;GATE」とゲーム「メタルギアソリッド3 スネークイーター」もフェイヴァリットとしている)。いずれも海外で評価の高いアーティストたちとはいえ、ele-kingのインタヴューでは〈大友良英のグラウンド・ゼロもいいね〉と語っており、日本の音楽や文化に特別興味がないとここまで掘れないのではないだろうか。

ブラック・ミディ&ダモ鈴木の2018年作『damo suzuki live at the windmill brixton with 'sound carriers' black midi』

もう一歩踏み込んでみよう。

イギリスの音楽メディア・The Quietusは、ブラック・ミディのデビュー・アルバム『Schlagenheim』のレヴューを佐藤允彦とサウンド・ブレイカーズの71年作『アマルガメイション/恍惚の昭和元禄』への言及から始めている。レア盤として知られており、カルト的人気を誇る同作では、同時代のロックからの影響とフリー・ジャズ的な演奏、和楽器、アフロ/ラテン・パーカッション、サウンド・エフェクトなどが混然一体となった音が聴ける。

 確かに、インプロヴィゼーションを重視するブラック・ミディの音楽には、異様な熱気に満ちていた日本の60~70年代のジャズと通じるものがある。フリー・ジャズ的な爆発力や切迫性と、楽曲の構成を重視する性格とが、緊張感を持って同居しているのだ。海外から常に評価が高い(そして、いま国内では忘れ去られてしまったかのように無風な)本邦ジャズ史の特異点のような作品群を2019年に改めて見つめ直し、『Schlagenheim』と聴き比べてみることは意味のあることだと感じる。

 

ブラック・ミディは異形な日本文化と呼応する

Black MIDIというインターネット・ミュージックにしろ、日本のオルタナティヴやジャズにしろ、ブラック・ミディの音楽と関係しているのは、この国の文化のなかでも基準や枠から外れる過剰性や異物感を伴ったものだと言える。〈日本人は礼儀正しい〉〈日本人は真面目〉〈日本人は綺麗好き〉といった表面的なステレオタイプの皮を一枚めくって剥がしてみれば、その裏側にはエクストリームで異形の文化がある。未知のロック・ミュージックを探究するブラック・ミディの意志や魂は、この国の文化の狂気や歪みと呼応している――そう感じてならない。

 


LIVE INFORMATION
black midi live in japan

2019年9月5日(木)東京・代官山 UNIT
開場/開演:18:00/19:00
前売り:5,500円(税込/ドリンク代別)
※オールスタンディング
※未就学児童入場不可
お問い合わせ(Beatink):03-5768-1277 https://www.beatink.com/
イープラス:https://eplus.jp/blackmidi
ローソンチケット(L:75591):https://l-tike.com/blackmidi
チケットぴあ(P:154-969):http://t.pia.jp
Beatink:https://beatink.zaiko.io/_buy/1jTd:Rx:5d80b
iFLYER:https://iflyer.tv/

2019年9月6日(金)大阪・心斎橋 CONPASS
開場/開演:19:00/19:30
前売り:5,500円(税込/ドリンク代別)
※オールスタンディング
※未就学児童入場不可
お問い合わせ(CONPASS):06-6243-1666 http://www.conpass.jp
イープラス:https://eplus.jp/blackmidi
ローソンチケット:https://l-tike.com/blackmidi
チケットぴあ:http://t.pia.jp
Beatink:https://beatink.zaiko.io/_buy/1jUy:403:8f9c8

2019年9月7日(土)京都 METRO
開場/開演:17:30/18:00
前売り:5,500円(税込/ドリンク代別)
※オールスタンディング
※未就学児童入場不可
お問い合わせ(METRO):075-752-2787 info@metro.ne.jp
イープラス :https://eplus.jp/sf/detail/2979250001-P0030001
ローソン(L:52912):https://l-tike.com/blackmidi
ぴあ(P:154-620):http://t.pia.jp

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