東京スカパラダイスオーケストラがデビュー30周年を迎えた。これまでにも多くのアーティストとコラボした〈歌モノ〉楽曲を披露してきたが、デビュー30周年を記念した〈リボン〉と題されたこのシングルは、桜井和寿(Mr.Children)とのコラボ。発表と同時に大きな反響となったこの楽曲の魅力をほどいてみよう。

東京スカパラダイスオーケストラ 『リボン feat. 桜井和寿(Mr.Children)』 cutting edge/JUSTA RECORD(2019)

7月上旬、〈東京スカパラダイスオーケストラのデビュー30周年記念「歌モノ」シングル、ゲストヴォーカリストはMr.Childrenの桜井和寿!〉というニュースが発表されると、SNS上に日本中の音楽ファンからの〈ついに来た!〉という喜びの声が溢れた。『リボン feat. 桜井和寿(Mr.Children)』とタイトルされたこの曲は、NARGO(トランペット)が作曲、谷中敦(バリトン・サックス)が作詞を担当。谷中は「とっても桜井くんで、物凄くスカパラな曲に仕上がってます」とコメントし、この曲を心待ちにしているリスナーの期待値をさらに上げまくった。

この貴重なコラボレーションのきっかけは、いまから1年前の夏に行われた〈ap bank fes2018」だった。初めてこのフェスに参加したスカパラのステージに桜井が参加、“美しく燃える森”をセッションしたのだ。筆者はこのステージを目の当たりにしたのだが、ピンクのスーツ姿の桜井が登場した瞬間の凄まじい歓声、そして、スカパラのメンバーとアイコンタクトを交わしながら躍動し、エモーショナルなヴォーカルを響かせた桜井のステージングは(とんでもなく暑かった現場の空気とともに)いまもはっきりと刻み込まれている。

その後、スカパラが桜井にゲストヴォーカルのオファーをした際、桜井から「スカパラ30周年のために何かさせて欲しい」という返事があり、今回のコラボが実現。スカパラのメンバーは「今回の楽曲は頑張って音楽を続けてきて良かったと、心の底から思える制作過程でした」(谷中)、「未来を照らす様なパワフルで明るい曲が出来ました」(NARGO)とこの楽曲に対する思いを表現。桜井も「スカパラさんだから説得力がある音と言葉。そこに自分の声で、身体ごと飛び込んでいけた! 最高」と共作できたことの喜びを言葉にしている。

“リボン feat. 桜井和寿(Mr.Children)”は、華やかで情熱的なホーンのフレーズから始まる。軽快なスカ・ビートを軸にした生々しいバンドサウンドに乗るのは、そう、桜井の歌。内に秘めた思いをサビに入った瞬間に解放されるメロディを桜井は、しなやかさと力強さを共存させたヴォーカルによってどこまでも気持ちよく表現している。スカパラ特有のスピード感、まるでライヴのような揺れを感じさせるアンサンブルをナチュラルに掴み取るカンの良さと躍動感は、〈さすが!〉のひと言だ。

〈祈るように待つのはもうやめた/哀しみはデタラメに塗り潰せ〉に象徴される、圧倒的なポジティヴ感に満ちた歌詞も心に残る。このリリックを谷中は「〈贈られたリボンをほどいて感謝したあとは、また誰かのためにリボンを結びたい〉」というテーマで制作したという。社会が急激に変化するなか、自分たちが享受してきてきた幸せを、音楽を通して下の世代の人たちに受け継いでもらいたい――圧倒的な高揚感に溢れた〈リボン〉の根底には、どこまでも真摯で切実なメッセージが宿っているのだ。そこから伝わってくる奥深い優しさ、すべてのリスナーに対するオープンな姿勢こそが、この楽曲の本質なのだろう。

振り返ってみるとスカパラの〈歌モノ〉シリーズは、一貫して〈つながる〉、〈継承する〉がテーマだった。“めくれたオレンジ feat. 田島貴男”、“美しく燃える森 feat. 奥田民生”、“星降る夜に feat. 甲本ヒロト”、“爆音ラヴソング feat. 尾崎世界観”、“嘘をつく唇 feat. 片平里菜”、“道なき道、反骨の。 feat. Ken Yokoyama”、“白と黒のモントゥーノ feat. 斎藤宏介(UNISON SQUARE GARDEN)”。これらの楽曲に共通しているのは、魅力と才能に溢れたシンガーとつながることによって、ジャンルと世代を超えた音楽を生み出し、すべてのリスナーとコネクトすることだ。もちろん今回の“リボン feat. 桜井和寿(Mr.Children)”もそう。スカパラと桜井和寿から贈られた素晴らしいプレゼントを多くの音楽ファンとともに共有し、つなげていく。そんな前向きな機会を与えてもらったことに心から感謝したい。