さあ、船出の時が来た! キャリアはバラバラながら腕自慢の船員5名を新たに加え、新大陸の発見を夢見るキャプテン高樹の視線はアルカディアの遙か先へ……

味わったことのない手応え

 キリンジからKIRINJIへ──カタカナからローマ字へと表記を変えたバンドは、2013年の暮れも押し迫った日、新たな船出となるコンサートを開いた。その年の4月に行われたステージを最後に、17年余り活動を共にした堀込高樹(兄)と泰行(弟)が袂を分かち、夏にはKIRINJIの暖簾を引き継いだ高樹と新メンバー5人による6人編成でのリスタートを発表。いくつかのフェス出演を経ての、この日が初のワンマンであった。

 「4月のライヴから日が経ってないといえば経ってなかったし、どうなるのかな?って気持ちで観に来た人も多かったと思うんですけど、演奏してくうちにね、初めは不安そうだったお客さんがだんだんとあったまっていく様子がわかって、演奏もどんどんノッてきたし……ああいう手応えっていうのは、これまで味わったことなかったですね」(堀込高樹、ヴォーカル/ギター)。

KIRINJI 『11』 Verve/ユニバーサル(2014)

 ナイーヴな人々の心配もまったくの無用、見どころある〈船出〉をまずは終えたKIRINJI。高樹船長と共にこの船に乗り込むクルーは、田村玄一(ペダル・スティール/スティールパン/ギター/ヴォーカル)、楠均(ドラムス/パーカッション/ヴォーカル)、千ヶ崎学(ベース/シンセ・ベース/ヴォーカル)といったキリンジの頃からレコーディング、ステージにおいて好サポートをしてきた面々だ。

 「ステージもレコーディングも、サポートっていう姿勢でなく、僕は〈バンド〉っていう意識でずっとやってきましたんで、やることは、まあそんなに変わらないんですよ。違うことといえばリズム録りの時からスタジオにいたっていうことぐらいで(笑)。それはメンバーとして当然だと思いますし、それを聴いたうえで自分が鳴らす音をイメージするので、レコーディングも早いというか……」(田村)。

 「サポートの時は、弾いたらその後はお任せ、ベースの音決めにしてもあとから口を挟むことはなかったんですけど、それが今回はミックスやマスタリングまで立ち会って、自分がどういうサウンドを意識してこういう音色にしてこういう弾き方をしたからこういうミックスにしてほしいって、最後まで関わったのがいちばんの違いですね。だから、ベースの音色に関してはいままでとは全然、意識からして違いますよ」(千ヶ崎)。

 「僕はいろんなアーティストのサポートをやってきましたけど、キリンジは変わっていて、すごくバンドっぽかったというか、スタジオ・ミュージシャンの集まりというより、もっと親密な感じがあるなってずっと思ってたんですね。ただ、やっぱり正式メンバーとして参加するとなったら意識が違って、これはちゃんとやんなきゃなって(笑)、責任感は増しました。高樹くんのデザイナーとしてのおもしろさも、この編成になって改めて感じてますね」(楠)。

 さらに、高樹が「普通のシンガー・ソングライターとは違って、ピアノも弾いてアレンジもする人なので、この人なら何でもできそう」と思って誘ったコトリンゴ(ヴォーカル/ピアノ/キーボード)と、「以前、いっしょに仕事をしたことがあって、ああいうコがステージでバリバリ弾いてたらおもしろいかも」と声を掛けた弓木英梨乃(ヴォーカル/ギター/ヴァイオリン)の女性2名。

 「周りの人もびっくりするぐらいすぐに決めて。あとは打ち解けられるか……最近になって参加したことの嬉しさとか楽しさとか、じわじわきてます(笑)。キリンジの曲は、すごく有名な曲は知ってたんですが……でも、前から知っていて、すごく大好きっていう人の前だったら、たぶんビクビクしちゃう。怖いモノ知らずじゃないですけど、何も考えず飛び込めたのが良かったなあって」(コトリンゴ)。

 「すごくびっくりのひと言というか、いまでもまだ実感が湧かない(笑)。ギターはずっと弾いてましたけど、KIRINJIはいままで弾いたことのないような曲ばかりだから、全部新鮮ですね。KIRINJIだから変わったことやらなきゃって思ったり(笑)、高樹さんにOKもらえるようなものをって考えて、すごく苦しくなるかなあと思ったんですけど、すごく楽しくて」(弓木)。