辿り着いた境地は、才能豊かな個の表現がさまざまな個と影響し合って生まれた、他にない唯一無二の歌世界。迷いを越えた先に彼女の新しい物語が始まる……

やりたいことを取り戻していった

 2011年に弱冠15歳でsupercellのゲスト・ヴォーカリストとしてデビューしてから10年、現在はシンガー・ソングライターとして活動するこゑだが、待望のファースト・アルバム『Individuality』を完成させた。2015年にryo(supercell)をサウンド・プロデューサーに迎えた『Nice to meet you.』、2017年には次作『モンシロチョウ』と2枚のミニ・アルバムを発表してきた彼女。その全曲の作詞/作曲をみずから手掛け、物語性を感じさせるヴァラエティー豊かな楽曲を持ち前のエモーショナルな歌声と共に届けてきたわけだが、そこからアルバムに至るまでに3年半もの間が空いたのには理由があった。

 「その頃の私は、自分のやりたいことがあっても、失敗することや否定的な意見が怖くて、自分が本当にやりたいことが見えなくなったり、思い悩むことが多くて。でも、2019年頃にその意識がスッと変わったんです。別に失敗したとて何かがなくなるわけではないし、自分の中で考えてるだけでは何も変わらない。だから自分がいま本当にやりたいもの、大元にある〈歌を歌いたい〉という気持ちを少しずつでも体現していこうと思って、デビュー前にやっていた〈歌ってみた〉動画をまた始めたり、自主制作で作品を発表したり、一緒にやってみたい方に自分から声をかけてみるようになって。そのなかで音楽を楽しむ気持ち、自分がやりたいことを取り戻していったという感覚でした」。

こゑだ 『Individuality』 BeanZoo(2021)

 そういった意識の変化を経て作り上げられた『Individuality』は、〈個性〉を意味するタイトルが象徴する通り、こゑだと錚々たるアーティストの個性がぶつかり合うアルバムとなった。過去作では、前述のryoやbuzzG、和田たけあきなどボカロ界隈の人脈が目立っていたが、本作では「いままで怖くてあまり冒険できなかったけど、今回は新しいことに足を踏み入れたくて」とアレンジャー陣を一新。最多となる4曲を手掛けたヤマモトシンタロウ(LEGO BIG MORL)と阪井一生(flumpool)のコンビをはじめ、かねてから交流のあった黒木渚、1975などに通じるモダンなミクスチャー感覚で注目を集めるthe McFaddinら初顔合わせの面々が多数参加している。そのLEGO BIG MORL、黒木渚、the McFaddinからは詞曲の提供も受けたほか、情熱的なバラード“ふたりで”を桐嶋ノドカと共作しているのも大きな変化だ。

 「『モンシロチョウ』までは自分の作詞作曲したものでいろんなカラーを表現していたんですけど、それだと結局自分の世界の中だけのものになってしまって。他の方に楽曲提供していただくとまったく違う世界になるし、例えば私が書いた“パープル”はヒーローを肯定的に書いてるけど、LEGO BIG MORLに提供してもらった“ピーポーピーポー”には〈ヒーローなんてなれなくっていい〉という歌詞があったり、逆のことを自分の歌で表現できるのが楽しくて、〈私が本来やりたかったのはこういうことだったんだ〉と感じました」。