INTERVIEW

近藤譲 『線の音楽』/「線の音楽」

『線の音楽』、初CD化! そして書籍が同時期に待望の復刊!!

近藤譲 『線の音楽』/「線の音楽」

近藤譲の『線の音楽』は、かつてLPレコードとしてリリースされ、さらに書籍として刊行された。おなじタイトルでありつつ、一方は音楽作品の録音であり、もう一方はその当時の作曲についての思考を言語化したものである。この列島の音楽界に、音楽そのものとして、また音楽について思考することについて、二つの『線の音楽』は大きな衝撃を与えた。

 

re-issue(s)
あらためて世に出る『線の音楽』

――コジマ録音アルテスパブリッシングから、これまであまりおこなわなかったようなかたちで、CDと本が、あらためて世にでます。30数年ぶり、になりますか。

 「本が35年でレコード/CDが40年。もちろん昔やった仕事に未だに関心を持ってもらえるのは嬉しいです。でも一方で、いま通用するのかな、っていう不安がなくもない。特に本はひじょうに若いときに書いたものですし。いま読むと、これは乱暴じゃないか、とか、ここはこう言い切っちゃうのはちょっと、とかはあるんです。ただ、いましている仕事の基になっている、というか、つながりがないわけではない、と。あの段階で、最初の方向性が決まったということがありますし。出発点みたいなところと、いまのものを(併せて)みてくれれば、何をやりたいと思い、どうやってきたかがわかってくれるかな、と思います」

VARIOUS ARTISTS 近藤譲:線の音楽 ALM Records/コジマ録音(2014)

――モノとして、かつてはLPだったものがCDになり、書籍のかたち(判型その他)も変わっています。

 「モノの形が違うとずいぶんイメージが違いますね。特に本の最初のヴァージョンはエピステーメー叢書の1冊です。『エピステーメー』という雑誌/叢書が発行されていたのは、たとえ読者がいなくても、思想をめぐって本をたくさん出し、とにかく勢いをつけようという時代のものです。だから、『線の音楽』という本が単独で出た、というイメージより、エピステーメー叢書が作っていた思想的な空気のなかの、動きのなかのひとつ、というイメージがすごくあるんです。違った装幀で新しく出てくると、今度は単体で出てくるってことになります。ずいぶんコンテクストが違う、と感じられますね」

――エピステーメー叢書には音楽の本が多くなかったですし。

 「エピステーメー叢書は、雑誌の『エピステーメー』がもとになっています。この編集長だった中野幹隆さんは、思想を哲学の世界のなかに閉じこめるのではなく、あらゆる人がクリティカルなものの考え方になじんでほしい、との意図を持っていましたよね。ですから、思想の人、学者だけじゃなくて、作曲家にも執筆依頼したし、雑誌でも音楽の特集を二度やっています」

近藤譲 線の音楽 アルテスパブリッシング(2014)

――わたし自身は、もう時効だから明かしてしまいますが、本そのものはなかなか買い求めずに長らく、雑誌のコピーを自己製本していました。そしてLP『線の音楽』も持っていなくて、知人にカセットにダビングしてもらったものでした。どちらも“複製”(笑)。手持ちのカセットはレコードと曲順が違うのです。そのため、いまあらためてCDを聴くと、奇妙な感覚があります。

 「LPとCDの違いっていうのは面白いですね。LPってほとんど抵抗なく頭から聴くんです。もちろんA面だけ聴くとかB面だけとかはあるけれども。CDにはA面、B面がないし、頭からかならずしも聴かない、っていうことは大きいですね」

――「何曲めが、何楽章が聴きたいな」と思っていても、最初から聴いたりするのがLP。すごくリニアな、あるいは、アナログ的な側面です。逆に、いまのネットからダウンロードというようなことになると、(曲順の持つ)コンテクストがなくなってしまう。このあたり、現在の聴取の問題とかかわってきます。

 「CDを作るときはまだLPの癖が残っている――というか、どういう順番でどう聴いてもらうか、っていうのをすごく真剣に考えている。A面、B面はないにしろ、ね。で、ダウンロードになるとCDのそういうものさえない。だから、単体で聴く、っていうのは、もちろんそれが単独の作品なのだから当たり前なんだけれど、音楽って聴くコンテクストにかならず影響されるでしょ、聴く方の。そうすると、ある順番で聴くとか、すくなくともCDはそういう風に並んでいるので、全部聴かないにせよ、何かの前にあるとか後にあるとかっていうのと、単体だけダウンロードして聴く、というのは、全然体験が違ってきますよね」

――聴く側もそうですし、弾く側も同様に。

 「今回久しぶりに聴いてみて、復刻されたものに入っている曲のほとんどは、アンサンブル・ノマドの演奏でCDに収められている。するとね、ほかのCDで聴くのと全然印象が違うんです。演奏が違うというのはある。でも、それだけじゃなく、あれをまとめてああいう順番でとおして聴く。そうすると1曲のイメージじゃなく、全体としてこういう音楽、とのイメージがひじょうに強くなる。こういう形で復刻する意味があるな、と思ったのはそういうところにもあります」

――ジャケットの見え方というのもあります。(コンドウ)マサコさんの大きな作品がほとんど美術作品のようにばーんと30センチ四方でみえるのと、CDとでは全然見え方は違います。

 

 

LP→CD
現在の文脈で

 「あらためて出たものに対して、僕は興味がある――そんな言い方をしたらヘンかもしれないんだけれど。昔のものがもう一度出た、事実としてはそうですよね。そのうえで、いまのものとして出て、聴いたときにどうなのか、とか、本もそうですけど、いまどれほど有効なのか。生きている人間なので、いまのものとしてどう聴こえるんだろう、ということに興味があるわけです。それを自分なりにCDで聴いてみたとき、たとえばこのCDは昔のライナーノーツをそのまま載せているのですが、ものすごく気張った訳のわからない文章なわけですよね。だけど当時まわりで起こっている音楽とは別の方向に行きたいんだ、という意欲だけはものすごく見えるような文章なわけなんです。それで、いま聴いても、結局40年前に思ったことと同じことをいまでも思えるな、と思う。つまり、当時起こっていた音楽に対して批判的な目で見ていたけど、その批判的な目で見ていた音楽の方がいわゆる主流というか、ヨーロッパ音楽がそっちの方向に行っている。そこで、僕は考えていたようなこと、あるいは考えているようなことは、いまだにそれに対する批判としての機能は失っていないというような気がして。だから、昔のものをもう一度懐かしく聴いた、ということじゃなくて、残念ながら世の中変わっていないな、という風なことを思ったんですけどね」

――近藤さんの本は、近藤譲の音楽作品についてのみならず、ほかの音楽についての見方を示してくれるものとして読んできました。

 「『線の音楽』は自分の音楽について語っている典型的な本です。それからあとの本って、僕はそんなに自分の音楽について、って語っていないのですよ。でも、それはスタンスをかえたというつもりは全然ないんです。同時に復刻された『線の音楽』だけど、LPが先で、本が後です。自分がやったことを材料に、自分が音楽について考えていることを論じた。この材料は、当時だから自分の音楽を材料にするしかできなかったし、それ以上の能力がなかったわけだけれど、自分の音楽を材料にする必要は必ずしもないわけですね。他の人の音楽を材料にして論じてもいい。その意味ではあとになって書いたものは、自分の考えを述べるのに自分の作品を扱わなくてもいいじゃないか、という風に思って書いているのです。その意味では、このLPと本とは僕にとっては随分別のものなんですよ」

 

 

Critic
作曲家が本を書く

 「音楽についてたくさんの書物が出ていろんな人がいろんな考えを言う。でもなかなかクリティカルな視点で音楽について論じる、という伝統が日本にないんです。どうしても、言葉を情緒的に扱うということですませようというところがある。作曲家だろうが音楽評論家だろうが演奏家だろうが聴衆だろうが、音楽に対してクリティカルな視点でみる、ということをみんな少しでもしてほしい。そうしないと、音楽というのがいつまでたっても 文化の辺境地になってしまう。

 たとえば、思想というのがあって、音楽というのは感情的な何かで、思想にくらべると、なにか変った連中が訳のわからないことを共感しながらやっている別の租界地みたいな世界というようなところがあると思うんですよ。で、僕は長い間総合大学で教えていたので、どうしてもそのなかで、学者ならまだいいのかもしれないけど、実技専門の作曲家というのは『あれは何か俺たちにはわからないことをやっている別の人間で』というのがどうしてもあるわけです。そのなかで暮らしていると、音楽というのがある意味で、良い・悪いは別として、ある種の文化的疎外を受けてくるという面がある。それはおもしろくないんですよ。だからこう、さかんに本を書く(笑)」

 【関連動画】近藤譲の『線の音楽』に関するインタヴュー映像

 

 

近藤譲(こんどう・じょう) 

作曲家。1947年東京生まれ。1972年東京藝術大学音楽学部作曲科卒業。在学中からその作品が注目を浴びた。1970年代初頭に、自ら「線の音楽」と名づけた独特の作曲法論を提唱し、以後国際的に活躍。欧米の多くの主要機関や音楽家から委嘱を受け、特集演奏会が組まれている。ほぼ全作品の楽譜がイギリスのUYMPから出版され、CD録音も多い。2012年、アメリカ芸術・文学アカデミーの外国人名誉会長に選ばれた。国内外の多くの大学で教鞭をとり、講演をおこなっている。主な著書に『聴く人(homo audience)』(アルテスパブリッシング)、『音を投げる』『〈音楽〉という謎』(以上春秋社)、『耳の思考』(青土社)など。

 

LIVE INFORMATION

近藤譲作品演奏予定

「ケージーその先に ~渡辺俊哉プロデュース~」
9/5(金)19:00開演
会場:津田ホール
出演:ボッツィーニ・クァルテット
近藤譲:羊歯 (1991) 、Oneiric Prosody(2007,日本初演)

「Radical Simplicity 究極の“シンプル”を求めて」
9/7(日) 18:00開演
会場:サロン・テッセラ
出演:ボッツィー二・クァルテット
近藤譲:ブルームフィールド氏の間化(1976)、ヒプソトニー(1989/日本初演)

okamura-co.com/ja/events/quartour-bozzini2014/

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