©Nicolas Brodard/ECM Records

理想のブラームス作品像を追い求めて――古楽オーケストラを弾き振りし、最高の形で挑んだ録音

 ちょっとした意外性の積み重ねが、共鳴して大きなヨロコビを巻き起こす。まず、クラリネット・ソナタに続き、ピアノ協奏曲を録音するという、シフのブラームスへのこだわり。彼が弾く楽器は、1850年代製のブリュートナーときた。しかも、ピリオド系オーケストラを弾き振りだ。そのエイジ・オブ・インライトゥメント管弦楽団だって、ブラームス録音は珍しく、90年代にリュビモフとのライヴ録音があったくらい。

ANDRAS SCHIFF, ORCHESTRA OF THE AGE OF ENLIGHTENMENT 『ブラームス:ピアノ協奏曲 第1番&第2番』 ECM New Series/ユニバーサル(2021)

 ピアノとオーケストラの響きの融合が、のけぞってしまうほどに、すばらしい。たとえば、ピアノの上行するパッセージが同じ動きの弦楽器とらせん状に絡み合い、そこに管楽器のモチーフがぴったりくっついて聴こえる、といった具合に。

 さすが、ブラームスがピアノ協奏曲第1番を初演された頃に作られたピアノの威力。重すぎず、カッチリしすぎず、ふわりとした明るさがある。泡が弾けるようなトリルもいい。

 そもそも、ブラームスは、いかにも協奏曲っぽい、イケイケな独奏楽器がオーケストラをバックダンサーのように従えるスタイルを嫌った。協奏曲にも交響曲と同じように構成感、一体感を求めたのだ。この演奏の両者が溶け合うような響きは待ち望まれていたといってよい。思えば、ブラームスのこの曲で、ピリオド楽器による演奏はまだまだ希少なのだ(あのアーノンクールだってモダンでの録音だった)。

 第1番はよりカラフルに聴こえ、第2番は逆に派手にならないような音色が実現されている。慎重かつ大胆なシフならではの采配だ。

 オーケストラも、しなやかで立体的。フルートのベズノシウク、ホルンにモンゴメリーといった名手も揃える。第2番の冒頭楽章、カデンツァ直後の管弦楽提示部で、第2主題の柔らかいポルタメントの弦に、ふわっとクラリネットが乗る。ロマンティシズムが止まんねぇ。