©Hiroyuki Seo

拡散するNYの新世代ジャズの地図――ブルーノートがサインした初の邦人アーティスト

 「中学に入ったときにジャズのビッグバンドに引っ張られて、トランペットを吹いたのがきっかけです。いきなり吹かされたんですが、ふっと出した瞬間に気に入ってしまって、それから毎日ですね」

 1980年生まれの黒田卓也のその後の人生はジャズ漬けだった。「それが素直にかっこいいと思っていた」と言い切る新世代のトランペッターは、当然のようにNYに行き、ロバート・グラスパーら同世代の優れたプレイヤーが集うニュースクール大学で学んだ。

 「アットホームな雰囲気も良かったんですが、夜な夜な同い年かちょっと下ぐらいの連中がジャム・セッションしているのを見て触発されたのも大 きいです。全員ニュースクールにいたんです。グラスパーもホセ(・ジェイムズ)もジャミア(・ウイリアムズ)もいたし、いま活躍している連中があの当時あそこにたくさんいたなと思います」

 こうして、黒田卓也は2000年以降のNYの最も刺激的なジャズ・シーンに入り込んだ。大学卒業後もNYで暮らし、自身のバンドを持ち、セルフ・プロデュースでアルバムの3枚目を制作した頃、大きな転機が訪れた。大学の同級生のリサイタルでホセと黒田が一緒にプレイしたことから 仲が深まり、録音中のホセのアルバム『Blackmagic』に参加したのだ。「そこでどうやるかのやりとりがお互いを尊敬しあうきっかけになった。それから、彼がNYで何かやるときは必ず呼ばれるようになったんです」

 そして、ホセは黒田をBlue Noteに紹介し、ホセのプロデュースでアルバムの制作が決まる。ドラムのネイト・スミス、ベースのソロモン・ドーシー、ピアノのクリス・バワーズ、トロンボーンのコーリー・キングらホセのバンドの面々が脇を固めた。

 「ホセの中では、ローの強い、ヒップホップやR&Bのビートが全編に流れる、70年代のソウル・ジャズの現代版のイメージがあって、 そのコンセプトを伝えられて曲を書きました」

黒田卓也 『Rising Son』 Blue Note/ユニバーサル(2014)

 確かにこれまでの黒田のアルバムのストレートなジャズとは違い、黒いビートが全面に出ている。しかし、その中でもトランペットは新しい響きを与えている。「前のアルバムのときに、もう新世代のジャズに入り込んでいた意識はありました」という前作のセクステット名義でのアルバム『Six Aces』の鮮やかな印象を更新している。最後にBlue Noteについて尋ねたが、その言葉には秘めた自信と責任感を感じた。

 「Blue Noteの、自分のオリジナルの曲で行けと言ってくれる、その姿勢に尊敬の念を感じるし、スタンダードも入れないといけないとか、クリスマスにはクリスマスソングをとか、ジャズでよくあるチマチマしたところを見せない彼らの大きな音楽性に対して、期待に応えたいと思います」