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人気オペラ演出家が手がける、この秋注目のオペラ「子供と魔法」と「ショパン」の見どころとは?

 東京文化会館小ホールといえば主にリサイタルや室内楽公演の会場だ。しかし東京文化会館は、この空間での室内オペラの可能性にチャレンジするさまざまな試みを行なっている。今年の秋冬シーズンも、ラヴェル「子供と魔法」(9月25日)とジャコモ・オレーフィチェ「ショパン」(12月17日)を上演する。

 演出は2公演とも、引っ張りだこのオペラ演出家・岩田達宗。このホールでも過去に何度も、独創的な舞台を生んできた。大規模な舞台装置を組めないうえに、独特の雰囲気を持つ小ホール。たとえばステージ背後にそびえる特徴的な銀の音響反射板を隠すのは難しい。しかし岩田曰く、「制約があったほうが楽しい」。東京外国語大学卒業後、鴻上尚史率いる第三舞台に舞台スタッフとして参加。小劇場の芝居作りの経験が、逆境に対する免疫力をつけたのかもしれない。

 「役者が手を挙げたら照明にぶつかっちゃうような芝居小屋でやってましたから。じゃあ役者に照明を持たせちゃえ!とかね。最新の舞台機構も一流のスタッフも揃って自由にやっていいと言われると、逆にやりづらい。何か制約ないの? 予算がありません。それだ!みたいな(笑)」(岩田=以下同)

 ラヴェルの「子供と魔法」は、子供が主人公のファンタジー。

 「〈子供向け〉というと、現代では、子供に合わせてちょっとレベルを下げたもののようなニュアンスがありますけれども、19世紀から20世紀のヨーロッパは、より豊かな未来を作るために積極的に子供を対象にし始めた時代なんです。大人向けの作品を、より研ぎ澄まして子供にも見せる。『子供と魔法』は、その先鞭をつけた作品だと思っています」

 一方の「ショパン」(1901年初演)はかなりレア作品だ。作曲者のオレーフィチェ(1865~1922)はヴィチェンツァ生まれのイタリアの作曲家。 9曲のオペラを残した中で最大の成功作が「ショパン」だった。主人公は、もちろん“ピアノの詩人”ショパン。その生涯を追った伝記のような筋立てながら、ショパン以外はすべて架空の登場人物であることでわかるように、人間ショパンを象徴的に描いたフィクションである。

 このオペラでオレーフィチェは、ショパンのさまざまな作品を抜き出し、コラージュのように貼り合わせた。つまり器楽パートはすべてショパンの音楽。オペラ原曲はそれを管弦楽に編曲しているのだが、今回はピアノ版で演奏する(ただしヴァイオリンとチェロが加わる)。

 「もちろん、作曲家が書いたとおりにオーケストラで上演すべきだというのは大前提です。でも今回僕らが使うピアノ譜が優れていて、オーケストラ・パートをピアノに戻す時に、よりショパンらしくしようとした意図を感じるんです。オケ版よりもショパンの音楽がよくわかる。ただ、ほとんどの曲が移調されているので、ピアニストによっては拒絶反応を示す方もいらっしゃるのですが……」

 ちなみに今回は、先述の「子供と魔法」もピアノ伴奏による上演(2台ピアノ)だ。岩田はその利点を強調する。

 「通常、オーケストラとリハーサルできるのは直前の数日間だけ。するとどうしても約束事を確認するみたいなことで終わってしまうんですね。ピアノ伴奏なら、音楽稽古の最初から2~3ヶ月かけて一緒にできる。そうすると音楽面も演出面も、歌とピアノが互いに自由に反応できるようになるんです。ジャズの即興のようでもあるし、僕は大学時代に体育会のラグビー部だったんですけど、ラグビーもそう。ラグビーって普段はひたすらフォーメーションの練習ばかりするのですが、試合でフォーメーション通りになることなんかほとんどない。その時にどう反応できるか。それを楽しんで笑ってプレイできるチームが必ず勝つんです。今回はそんなことができると思います。ワクワクしますね」

 室内楽ホールでのピアノ伴奏によるオペラ上演が、オーケストラ・ピットを備えた大劇場上演の縮小版や代替品ではないことを証明してくれそうだ。大いに期待したい。

 


岩田達宗(Tatsuji Iwata)
舞台監督集団「ザ・スタッフ」に参加。1991年より栗山昌良氏に演出助手として師事。1996年五島記念文化賞オペラ新人賞を受賞。オペラ演出家として全国のオペラ・プロダクションで作品を発表し、高い評価を得る。最近の主な演出作品は、藤原歌劇団「ラ・ボエーム」、「ラ・ジョコンダ」「トラヴィアータ」、東京文化会館開館50周年記念公演「古事記」、新国立劇場「夜叉ケ池」(台本共著)など。

 


LIVE INFORMATION
東京文化会館オペラBOXオペラ『子供と魔法』
2022年9月25日(日)東京・上野 東京文化会館 小ホール
開演:15:00

第1部 オープニングトーク&セッション

■曲目
ドビュッシー:組曲『子供の領分』より
フォーレ:組曲『ドリー』Op.56より

■出演
お話:柴田真郁/岩田達宗
朝岡聡(ナビゲーター)/黒岩航紀(ピアノ)

第2部 オペラ『子供と魔法』
作曲:モーリス・ラヴェル
指揮・音楽統括:柴田真郁
演出:岩田達宗

■出演
子供:富岡明子/母親・中国茶碗・トンボ:八木寿子/安楽椅子・羊飼いの娘・リス:盛田麻央/火・ウグイス:中江早希/羊飼いの男・雌猫:高橋華子/お姫様・コウモリ・フクロウ:種谷典子/肘掛け椅子・木:奥秋大樹/大時計:寺田功治/ティーポット・雨蛙:工藤和真/小さな老人:小堀勇介/雄猫:岡昭宏/オペラBOX合唱団、プティ・レネット(児童合唱)/髙橋裕子、巨瀬励起(ピアノ)

シアター・デビュー・プログラム
オペラ『ショパン』

2022年12月17日(土)東京・上野 東京文化会館 小ホール
開演:14:00
作曲:ジャコモ・オレーフィチェ
指揮:園田隆一郎
演出:岩田達宗

■出演
ショパン:山本康寛/ステッラ:佐藤美枝子/フローラ:迫田美帆/エリオ:寺田功治/修道士:田中大揮
藤原歌劇団合唱部/松本和将(ピアノ)/篠原悠那(ヴァイオリン)/上村文乃(ヴィオラ)

https://www.t-bunka.jp/