著者ファブリーニはミケランジェリ、ブレンデル、ポリーニといった大ピアニストの演奏会のためにピアノを収集し、調整し、演奏旅行先に貸し出して現地調律まで請け負うという、単なる調律師を超えた存在である。彼が調律したピアノにはメーカー名とは別に、誇りをもって〈Fabbrini〉のロゴが加えられた。この回想録には、大メーカーが牛耳るピアノ業界に腕一つで斬り込み、〈それぞれの楽器は一点物〉を信念とした仕事で演奏家の信頼を集め、誰もが認める存在となるまでが描かれている。演奏家の思い出話もたいへん面白く、中でも〈完璧主義者〉ミケランジェリとの〈らしさ〉満載の逸話の数々はファン必読である。