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キース・ジャレットのスタンダーズ・トリオの衣鉢を継承し、さらなる高みを目指すノア・ハイドゥ

 前作『Slowly:Song For Keith Jarrett』で、キース・ジャレット(ピアノ)への深い敬愛を示し、好評を博したノア・ハイドゥ(ピアノ)。彼は、キース・ジャレット、ゲイリー・ピーコック(ベース)、ジャック・ディジョネット(ドラムス)によるスタンダーズ・トリオの結成40周年に当たる本年に、スタンダード曲をテーマに、この唯一無二のトリオへのトリビュートを捧げた。

 前作のレコーディングの終わりに、スタンダード・チューンの“Georgia on My Mind”と“But Beautiful”を録音した時、バスター・ウィリアムス(ベース)は「素晴らしいプレイだ。私たちは、もっとスタンダードを演奏すべきだ」と提案したという。「スタンダードをプレイすると、自分の全てを曝け出している気持ちになる」と考えていたハイドゥは、前作のリリース・ツアーを、ウィリアムス、ルイス・ナッシュ(ドラムス)と巡るうちに「それもまた貴重な経験」と捉えるようになった。そして、このトリオに、ベースが数曲、ピーター・ワシントンに代わり、3曲にスティーヴ・ウィルソン(アルト・サックス/ソプラノ・サックス)が参加し、本作が完成した。

NOAH HAIDU 『Standards』 SUNNYSIDE(2023)

 〈愛する人との別れ〉をテーマにしたスタンダード曲が多く取り上げられ、2017年に逝去した最大の理解者だった父を思い、ハイドゥはプレイしたという。“Ana Maria”は、今年3月に世を去ったウェイン・ショーター(テナー・サックス/ソプラノ・サックス)に捧げられている。エンディングの“Last Dance I”、“Last Dance II”は、ハイドゥも聴いた、2014年のニューアークのニュージャージー・パフォーミング・アーツ・センターでの、スタンダーズ・トリオの最後のコンサートに想いを馳せて作曲した。スタンダード・ジャズの演奏表現を極限まで追求したキース・ジャレットのスタンダーズ・トリオは、ゲイリー・ピーコック(ベース)の死、ジャレットの脳梗塞の発症で、再結成は現実的に不可能だろう。その衣鉢を、ノア・ハイドゥは継承し、スタンダーズ・トリオの未踏の領域を目指す。