〈彼女の名前を覚えておきなさい。美しいポップ・ミュージックをクリエイトするから〉。BBC Radio 6がそう紹介したシンガーのティリー・ヴァレンタインが、初めてのアルバム『Body Language』を発表した。最近ではXinUの“罠”でいっそう注目度が高まった南ロンドンのプロデューサー、エドブラックの代表曲“Table For Two”や“Symmetry”にフィーチャーされ、心地いい美声で注目された彼女は、英オックスフォード近くの小さな町の出身。16歳でロンドンに引っ越した。アデル、エイミー・ワインハウス、FKAツイッグスらを輩出した名門ブリット・スクールに通うためだ。

TILLY VALENTINE 『Body Language』 Pヴァイン(2023)

 「幼少の頃から音楽は自分の大部分を占め、毎日何時間も曲を書いたり歌ったりしていました。そんな私が南ロンドンに移住したことと、ブリット・スクールで学べたことは、とても幸運だったし、変革的とも言える経験でした。やがて私はフォークからトリップ・ホップまで幅広いジャンルの音楽に没頭しながら、デジタル上でのコラボレーションをいろいろとするようになったんです。それらのどの経験も、創造性と私のサウンドを形成するうえで重要だったと思います」。

 影響を受けたミュージシャンを訊いてみると、「デビュー・アルバムを聴いてソウルフルな歌声とヴィブラート・コントロールに感動したリアン・ラ・ハヴァス、さまざまな人とコラボレーションすることでダイナミクスを生み出していくホンネ、タブーとされる主題にも怯まず取り組むシンガー・ソングライターのレイ(彼女もブリット・スクール出身だ)」と3組を挙げる。そんなティリー・ヴァレンタインのアルバム『Body Language』は、2019年以降に発表したシングルとEP収録曲から厳選してまとめたもの。挨拶代わりであると同時に、これまでの集大成的な作品でもある。

 「この4年ちょっとの間に環境の変化と自分自身の進化がありました。初期段階ではSoundCloudに公開されているビートにメロディーや歌詞を乗せる作り方をしていたけれど、いまはすべての工程に携わり、プロデューサーと一緒にゼロからサウンドを作り上げています。改めてこのアルバムを通して聴くと、この数年のさまざまな瞬間を捉えた楽曲のコレクションであると同時に、自伝のようにも感じます。私の感情面での成長と音楽的な成長の両方がここにあるから」。

  “Retail Therapy”“Brick By Brick”の2曲は、エドブラックとの共同プロデュースによるものだ。

 「エドブラックのプロジェクトが始まった当初、私たちはエドのアパートで“Table For Two”を書きました。それがシングルでリリースされると、驚いたことに400万回以上の再生回数を記録した。彼とのワークはいつも素晴らしく、共通する創造性を感じることができます。“Retail Therapy”も“Brick By Brick”も誇れる楽曲。でも私たちのコラボレーションのハイライトはライヴなんですよ。ライヴで彼の演奏に乗せて歌い、観客が私の歌詞を口ずさんでくれているのを聴くのは、言葉にならないくらいの喜びなんです」。

 メロウなR&Bにもポップな味付けにも個性が表れ、アルバムは歌唱と共にサウンドの麗しさにも引き込まれる楽曲揃い。そんななかで、2022年発表の“Birthdays & Funeral”も「自分にとって重要な1曲」だと言う。

 「この曲には私が愛する人たちと共有した特別な瞬間が記録されている。とても感傷的で、ノスタルジックな内容なんです。ストリングス・アレンジの美しさも気に入っています」。

 聴く人にとって、このアルバムはどういうものであってほしいか。そう訊くと、彼女はこう答えた。

 「〈コーヒーにもパーティーにも合う風変りな音楽〉というのが私の気に入っている言葉で、今作をよく捉えていると思う。そうあってほしいですね」。

 


TILLY VALENTINE
英オックスフォードシャー出身のシンガー・ソングライター。ロンドンの芸術学校、ブリット・スクールで音楽を学び、2018年の“Coins”を皮切りに配信で楽曲を発表。ラジオ局やメディアから高評価を得る。2020年の『Nothing Left To Say』、2021年の『The Way To Heal』、2022年の『Half Full/Half Empty』と定期的にEPを発表。エドブラックの楽曲ヘの参加でも話題を集めるなか、このたびファースト・アルバム『Body Language』(Pヴァイン)をリリースしたばかり。