何ものにも縛られない開放的な歌声が魅力の新進シンガー

 誰かに似ているような気がして記憶をゆっくりと辿り始めたものの、どこを探しても、これだ、という対象が見つけられず、あちこち行ったり来たりを繰り返した末にふと我に返ると、その歌声に魅了されてすっかりくつろいでいる自分がおり、ま、そんなことどうでもいいか、って独りごちながらふたたび再生ボタンをプッシュする。

後藤杏奈 『Departure』 Happiness(2023)

 このたびHappiness Recordsからリリースされた後藤杏奈のデビュー作『Departure』は、そんな迂回路を辿ることもまた楽しみ方のひとつだったりする。1996年東京生まれの彼女は、大学時代に世界各国の若者たちと船上生活を送った経験が幼い頃からつねに近くにあった音楽と向き合い直すきっかけになったという。卒業後も通訳として世界一周の船旅に出て、そこで人前で歌う機会を得ることになり……というプロフィールからも彼女のなかで音楽と旅が密接につながっていることを容易に想像できるが、歌の端々から立ち上る、何ものにも縛られない開放的な空気感がこのシンガーの得難い魅力を形成しているのは間違いない。

 そんなヴォーカルの特性を引き立たせるべくアコースティック・テイストのシンプルなバッキングが施された7曲(すべてカヴァー曲)を収めた本作。アイズレー・ブラザーズの“For the Love of You”やブラック・プーマズの“Colors”などソウルフルなナンバーでは、時折ふっとよぎる儚げな表情もチャームポイント。ナチュラルなファルセットの響きを堪能させてくれるのは、ビージーズの“How Deep Is Your Love”やクランベリーズの“Dreams”といったあたり。どこか郷愁を誘わずにおかない声質の魅力を感じ取るには唯一の日本語曲である大橋トリオの“青月浮く海”が最適だし、歌の端々からほのかに潮の香りが感じとれるマイラ・アンドラーデ“Mana”もユニークな個性を伝えてくれる。ともあれ、どの場面でもこちらの気持ちをホッコリさせる彼女の人懐っこい笑顔が浮かんで見えるところこそいちばんの魅力だと思わずにいられない。

 


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