ファン・エイクの笛のディミュニーション奏法を現代に伝えるマエストロの響き。

 ヤコブ・ファン・エイク(1590年頃~1657)は、オランダで活躍した盲目のオルガニストでカリヨン奏者。リコーダーの達人でもあり、教会の中庭で流行曲を演奏し話題に。楽譜“Der Fluyten Lust-hof”=“笛の楽園”は、世界中のリコーダー愛好家の聖典として今も愛され続けている。

 濱田芳通は、古の音楽を笛の音色に乗せて現代に届けるリコーダー/コルネット奏者、指揮者として、古楽アンサンブル・アントネッロを主宰し活躍。2021年には“メサイア”公演を指揮し、サントリー音楽賞を受賞。

濱田芳通 『ファン・エイク:「笛の楽園」より Vol.2』 キングインターナショナル(2023)

 今回の新譜『笛の楽園』で、濱田は、ファン・エイク奏法の特徴である細やかなディミュニーション技法を究め、のびやかな世界観を表現。「ディミュニーションとは、〈分割〉という意味で、装飾や即興演奏のフレーズのことです」。濵田芳通著「歌の心を究むべし」によると、「『笛の楽園』は、クラシック的にいえばファン・エイクが変奏曲を作曲、ジャズ的にいえばアムステルダムの楽譜屋がファン・エイクの即興演奏を耳コピして〈アドリブ・コピー譜〉を作成」。150曲の中から選んだ収録曲は多種多様。イタリア歌曲や、リュート曲、舞踏曲や宗教的な詩節、酒飲み歌、謎めいた題名や、艶っぽいフレーズもある。

 「中期バロックの古楽曲には、隠語やダブルミーニングがあり、欧州のおじいちゃんたちの前で演奏すると、裏の意味がわかり大爆笑。お座敷小唄ですね」。

 ファン・エイクの装飾即興フレーズは身体に浸透しているというマエストロの感性は自由自在。白昼夢からインスピレーションを得ることもあるそうだ。

 出島にも伝わった南蛮渡来の音楽。日本のわらべうたにある異国調の響き。濵田のライフワークである天正少年遣欧使節団の演奏会を思い起こす。「ESOPONO FABLAS」(「イソップ物語」)の音楽劇は脚本演出も手がける。

 古楽を究める音楽一家の4代目は、笛を携え時空を超える響きを伝え続ける。

 「リコーダーの語源は、レコーダーと同義語とされています。鳥の声を再現するために笛を吹いたという説も」。『笛の楽園』も耳を澄ますと鳥や犬の鳴き声がピースフル♪「ルネサンスから中世の作曲家は、音楽の神様によってつくらされていたそうです。基本的に、音楽の神様は、一般的な神様より偉いです(笑)」

 『ファン・エイク「笛の楽園」よりVol.1&Vol.2』を瞳を閉じて聴いてみると、その深意がわかるだろう。

 


LIVE INFORMATION
濱田芳通(指揮・リコーダー)&アントネッロ第16回定期公演
C.モンテヴェルディ「聖母マリアの夕べの祈り」

2024年1月5日(金)川口総合文化センター・リリア 音楽ホール
開場/開演:18:15/19:00
出演:濱田芳通(指揮・リコーダー)
管弦楽:アントネッロ 他
https://www.anthonello.com/schedule/detail/?id=79