兵庫・宝塚出身、現在は東京を拠点にしているシンガー・ソングライター、みらん。彼女が活動を始めたのは2017年頃、最初は神戸のライヴハウスで弾き語りをしていたという。

 「いまも好きなんですけど、藤原さくら、石崎ひゅーいあたりに影響されてフォークっぽい歌を歌っていました。当時はけっこう暗めの歌が多かったですね(笑)。自分の気持ちを重たいまま出していた。そこでいろいろなバンドを観ることで、多様な表現方法を学んでいったんです」。

 みらんの音楽は、澄んだ青色だったり、淡い桃色だったりと曲によってさまざまな色味を帯びる歌声や、晴れた日の心地良さにも似た感覚を与えてくれるメロディーがなによりも魅力。宅録で制作された2020年のファースト・アルバム『帆風』、爽やかでドライヴィンなバンド・アレンジを中心に据えた2022年のセカンド・アルバム『Ducky』と順調にリリースしてきた彼女だが、作品を重ねるごとにポップセンスに磨きがかかかっているように感じられる。

 「小沢健二とシャムキャッツからの影響は大きいです。2021年のEP『モモイロペリカンと遊んだ日』を作ったときはシャムキャッツをすごく聴いていましたね。『Ducky』はかなりオザケンかな」。

みらん 『WATASHIBOSHI』 NOTT/NiEW(2023)

 このたびリリースされたサード・アルバム『WATASHIBOSHI』は、前作にも増して、90年代の小沢健二的なサウンドに接近した作品だ。ソウルやジャズの要素を含みながら、実にカラフルなポップソング集に仕上げられた本作は、みらん流ポップの完成形と言えるだろう。

 「そこはプロデューサーの久米さん(久米雄介:Special Favorite Music)ががんばってくれました。彼はキラキラした音楽を作るのが得意だし、私が弾き語りのデモを送ると、すごい作り込まれたものになって返ってくるんです。デモとのギャップに戸惑うくらいの(笑)。久米さんは楽曲にリズムを与えてくれますね」。

 オールディーズの香りが漂う“与えられる夜”で幕を開ける『WATASHIBOSHI』は、以降も映画「違う惑星の変な恋人」の主題歌に起用されたニューウェイヴ・ポップ“恋をして”、ジャズ・ボッサな“私のハート”、ドゥワップ~ハワイアン調の“好きなように”など、序盤はとりわけポップさの際立つ楽曲を揃えている。そしてファンカラティーナ的なネオアコ“夏の僕にも”などを挟み、終盤の2曲――“海になる”“天使のキス”はブリット・ポップやグランジを彷彿とさせるロックだ。

 「最後の2曲はギターの久米さん、ベースの澤井くん(澤井悠人:猫戦)、ドラムの岡田くん(岡田優佑:BROTHER SUN SISTER MOON)といういまのライヴ・メンバーで演奏しているんですけど、これからも一緒にやっていきたい4人なので、彼らとの〈これから〉を見据えた楽曲で作品を締めたいなと。この2曲はアレンジを詰めすぎず、メンバー各人から出てきた演奏を大事にしました」。

 サウンドの多彩さは、歌詞で描かれる世界も広げた。

 「前作までは、〈君〉がいて、それを想う〈僕〉がいるという恋愛的な2人の関係性を歌った曲ばかりだったんですけど、今回のアルバムで最初に作った“夏の僕にも”が出来たとき、その表現は完結した気がしたんです。もっと広い世界を歌いたいと思ったし、それから自分の頭の中にある風景も多くなってきました」。

 アルバム・タイトルには、みらんの〈さまざまな人の心を動かす音楽でありたい〉という気持ちが込められている。つまり、ポップスへの愛に貫かれた作品ということだろう。

 「星野源や小沢健二を聴くと、やっぱりこういうのが好き!と思うんです。今回は〈私/渡し〉と〈星〉がキーワードになっていて、夜空に浮かぶ星のように、考え方や生き方の面ではバラバラな人たちがそれぞれの場所で見上げられるような音楽をめざしました。見つけてくれるといいなと思います」。

 


みらん
99年生まれのシンガー・ソングライター。 2021年のEP『モモイロペリカンと遊んだ日』が話題を集め、2022年には映画「愛なのに」の主題歌“低い飛行機”を発表。同年、セカンド・アルバム『Ducky』をリリース。以降は配信で楽曲を発表しつつ、小原晩との連載〈窓辺に頬杖つきながら〉をNiEWにて執筆。俳優と挿入歌の提供を務めた映画「違う惑星の変な恋人」の公開を控えるなか、このたびサード・アルバム『WATASHIBOSHI』(NOTT/NiEW)をリリースしたばかり。