あらためて名画には名曲ありきということを再認識させてくれるアルバム

 映画に用いられたテーマ音楽をなんらかの楽器をフロントにたて、アルバムとする。映画をみたときに、ああ、これっていいよな、とおもうことがある。映画をみたあと、映像から切り離して音楽だけを想いだしたりする。独立したものとして聴く。サウンドトラック盤とはまた違ったかたちで、こうした名曲集はなかなかにオツなものじゃないか。

RENAUD CAPUÇON 『すぎ去りし日の…(シネマ2)』 Erato/ワーナー(2024)

 ヴァイオリニスト、ルノー・カピュソンは2019年に『シネマに捧ぐ』をつくっていて、“ニュー・シネマ・パラダイス”“バグダッド・カフェ”“ゴッドファーザー”といった楽曲をとりあげていたが、今回の『すぎ去りし日の…(シネマ2)』はその第2弾。

 これはどの映画?と、おもわず資料を手にとりなおすことが何度もあった。その意味では、隠れた名曲集、になっているんじゃないか。褒めすぎ? いやいや。

 タイトルはほとんど記憶にある。みたものも、みていないものもある。それでいて、音楽の記憶が稀薄なものが、かなり。こんなにいい曲があった?とおもうこともあれば、どんな場面でなっていたのか、というのも。逆に、部分的な映像だけしかおぼえていないもの、ストーリーはわかるけど映像がうかばないもの、などなど、さまざまなケースがあるが、いずれにしろ、こうした映画音楽を集めたものにしては、馴染みがうすいかも。そこにまた発見のよろこびが。

 フランス映画――フランス系の作曲家――が中心だというのもあるだろう。極東の列島には映画そのものが配給されていなかったりするものがあるのだし。それにしても、ジョルジュ・ドルリューなんて、やはり、もうすこし知られてもいいんじゃないか、とあらためておもう。

 全体は、あたかも、ヴァイオリン協奏曲のゆっくりした楽章を集めたよう。オーケストラのアレンジがまた良い。

 あらためて、映画そのものをみなくては、とか、みたい!とおもわせてくれ、どこかしら音楽そのものが世のなかに過剰で辟易したり飽いたりしているものにも、また、あらたな好奇心をかきたててくれさえする――そんなアルバム。

 


収録曲
1. ジョルジュ・ドルリュー:映画「ベストフレンズ」
2. ミシェル・ルグラン:風のささやき~映画「華麗なる賭け」
3. ジョルジュ・ドルリュー:別れのコンチェルト~映画「愛と戦火の大地」
4. ジョゼフ・コズマ:枯葉~映画「夜の門」
5. ジャン=クロ-ド・プティ:映画「愛と宿命の泉」
6. ジョルジュ・ドルリュー:映画「終電車」
7. フィリップ・サルド:エレ-ヌの歌~映画「すぎ去りし日の…」
8. フランソワ・ド・ルーベ:クララ1939~映画「追想」
9. ジョルジュ・ドルリュー:「ラジオスコピー」番組テーマ
10. ジョルジュ・ドルリュー:映画「メモリーズ・オブ・ミー」
11. ガブリエル・ヤレド:アズ・ファー・アズ・フローレンス ~映画「イングリッシュ・ペイシェント」
12. ジョルジュ・ドルリュー:映画「サン・スーシの女」
13. フィリップ・サルド:映画「フォート・サガン」
14. フランシス・レイ:映画「ある愛の詩」
15. フィリップ・ロンビ:無のテーマ~映画「戦場のアリア」(ロンビ編)
16. ジョルジュ・ドルリュー:映画「親愛なるルイーズ」
17. アレクサンドル・デスプラ:映画「シェイプ・オブ・ウォーター』
18. モーリス・ジャール:映画「アラビアのロレンス』
19. ウラジミール・コスマ:映画「ニューヨーク←→パリ大冒険』(コスマ編)