1等賞だけを目指し続けた男が頂に達するまで

中川祐介 『沢田研二』 朝日新書(2023)

 〈沢田研二〉なるシンプルなタイトルで500ページ超の新書。というリリース情報をネットで見ただけで書評しようと即決したわけだが、現物をざっとななめ読みした時に〈しくじったかな……〉とちょっと後悔したのは事実。なぜなら、本書には1978年大晦日までのことしか書かれていなかったから。

 80年代半ば以降、ジュリーは別格の国民的大スターではなくなり、メディアでの露出も徐々に減っていった。が、そうした状況の変化を逆手にとるように、あらゆる意味でのインディペンデント性を強化してゆき、誰にも真似できない孤高のロック・シンガー像を築いていった。だからこそ、広く知られている70年代までのことよりも、80年代以降の軌跡とその音楽史的意義について私は読みたかったのである。

 てな感じでブツクサ言いながら改めて精読していったわけだが……いやー、詳しい! ジュリー関係の本はいろいろ読んできたが、ここまで細かい情報が網羅されたものはこれまでなかったのではないか。著者はジュリー本人へのインタヴューはおろか、関係者への取材もすることなく、膨大な数の書籍や雑誌記事などを元にジュリーの足跡を根気強くたどってゆく。八方に散乱する発言やデータを突き合わせ、接合し、物語を構築してゆく偏執的手さばきには、剛腕検事が真犯人を追い詰めてゆくような趣もある。

 特に後半、ソロ・シンガーとしての人気と地位を確立し、悲願のレコード大賞を目指して突進してゆく70年代半ば以降はレコードの売り上げ枚数やチャート順位などのデータ(数字)がぎゅうぎゅう詰め(●年●月にはオリコンで●位になり、その時競っていたのは誰々の何という曲……)で、読んでいて疲れるのだが、著者は敢えてデータの冷徹な解析と集積によってリアリティに肉付けを施してゆく。そういえば、前書きにはこう記されていた。〈本書は「沢田研二の素顔」の追求でも「芸能界の裏舞台の真実」の究明でもなく、「音楽」に魅せられた青年が魑魅魍魎跋扈する世界へ迷い込みながらも、自分を見失わずに生きていった歳月の「さまざまな場面」の表層を描く〉と。著者のヴィジョンは最初から明快であり、一貫しているのだ。

 ジュリーは77年、“勝手にしやがれ”で遂にレコード大賞を獲得し、翌78年の紅白歌合戦では大トリを務めた。ひたすら〈1等賞〉だけを目指し続けた男の物語は、こうして完結するわけだが、冒頭に書いたように、80年代半ば以降にはまた別の物語が続いてゆく。剛腕検事の著者には、次はぜひともそのヤマに手をつけていただきたいと切に願う。かなり難しいヤマだが。