日本におけるソウルミュージック研究の第一人者、鈴木啓志が10年ぶりに書き下ろした「メンフィス・アンリミテッド――暴かれる南部ソウルの真実」。米南部ディープソウルの中心、メンフィスソウルの奥深い世界を解き明かした一冊だ。そんな本書について、音楽ブロガーのアボかどがヒップホップ視点で綴った。というのも、同地はヒップホップにおける重要な場所でもあるからだ。メンフィスソウルからメンフィスラップへ、音楽の豊かな系譜を追う。 *Mikiki編集部

鈴木啓志 『メンフィス・アンリミテッド――暴かれる南部ソウルの真実』 ele-king books(2024)

 

優れた奏者が集まったメンフィスソウルの魅力

メンフィスという地の魅力は奥深い。メンフィスブルース、メンフィスソウル、メンフィスラップ……と、地名を冠した音楽をいくつも生み出したこの地は、アメリカの音楽史における最も重要な地と言えるだろう。現代のヒップホップにおいても、先日新たなミックステープ『Ehhthang Ehhthang』をリリースしたグロリラや、サンプリングソースとして人気を集めるスリー・6・マフィアなど、メンフィス出身のアーティストは多く活躍している。

「メンフィス・アンリミテッド――暴かれる南部ソウルの真実」は、そんなメンフィスが生んだ偉大な音楽、メンフィスソウルの底なしの魅力をたっぷりと味わう一冊だ。O.V.ライトとオーティス・レディングの2つのバージョンが存在する“That’s How Strong Love Is”の謎、ウィリー・ミッチェルの周りに集まった素晴らしいミュージシャンたち、アフリカンアメリカンと白人が共に音楽を鳴らしたシーン、ゴールドワックスやハイといった重要レーベルなど、メンフィスを舞台としたいくつかのトピックを膨大なリサーチによって語っている。インタビューでの発言を参照しつつも資料と照らし合わせてミュージシャンの記憶違いも指摘していき、事実を徹底的に検証しようとするその語り口には一種の謎解きのような感覚もある。そこからはメンフィスソウルの奥深い魅力と同時に、それにのめり込む著者の熱狂ぶりも感じることができる。

本書では、先述したO.V.ライトやオーティス・レディング、ジェイムス・カーやアル・グリーンといったシンガーにも当然言及しているが、それ以上にアル・ジャクソンやハワード・グライムスなどのプレイヤーへの言及が目立つ。〈このドラマーは誰なのか?〉という謎の解明にも注力しており、多くの魅力的なミュージシャンの存在が語られている。そして、その素晴らしいミュージシャンの尽力によりソウルミュージックの聖地となったメンフィスに、また素晴らしいミュージシャンが集結していく。メンフィスという地の底なしの魅力の源は、こうやって生まれていったのだと感じさせられる。

本書の終盤ではヒップホップにおける地域性の薄さが指摘されている。しかし、凄腕ミュージシャンが集まるメンフィスでは、ヒップホップはその地ならではの形で独自に発展してきた。そこでここからは、本書の内容を踏まえながら、メンフィスのヒップホップの特殊性を語っていく。