立ち止まる時間が動き出そうとしてる。神戸から世界へ風が吹き抜け、冷や奴も湯豆腐へと移ろう紅葉の季節、ノンストップな昂揚はいよいよ時代を包む!!
何を作っても大丈夫
エルヴィスでもエヴァでもグラスパーでも何でもいいが、結果的に時代や世代の変わり目を作り出すような存在がいる。実際にそういった区分が妥当かどうかは別として、〈tofubeats以降〉という形容がすんなり伝わるくらい、何かの区切りを象徴するエポックメイカーとして彼の名前も(雑な言い方をすれば)重宝がられているのは確かだろう。とはいえ、〈インターネット世代〉〈シティー・ポップ感〉〈現代カルチャーの申し子〉といった過剰な記号化や世代を背負わされることに対する当人の本音はこうだ。
「ありがたいですけどカテゴライズされるのはちょっと面倒臭いですよね(笑)。そうなりたくないから音楽やってるのに。まあ、喋るの好きだから喋っちゃうんですけど(笑)、〈インターネット時代の~〉とか言われるけど、Maltine以前からネット・レーベルはいっぱいあったわけですし、自分らの島のことは話せますけど、通ってきてないことは言及できない。僕らの周りがすべてだと勘違いされつつある感じはどうにかしなきゃと思ってますし、ずっと丁寧に自分たちのことをやってきたSugar’s Campaignのような人たちまで全部同じ枠に放り込まれるのには〈十把一絡げにしないでほしいな〉みたいに思ってます(笑)」。
もちろん、その活動を追ってきているリスナーなら、現在の彼が〈出自の目新しさ〉でのみ語られるような季節をとっくに過ぎていることは承知のはずだ。初のフィジカル・アルバムとなる昨年の傑作『lost decade』とリミックス仕事集『University of Remix』を〈卒業制作〉に残してメジャー・デビューしたtofubeats、年男の年の豆腐の日に世に問うニュー・アルバムは『First Album』と題されている。
そのざっくりしたネーミングの意図は「これまでもいろいろやってるんで仕切り直しっていう意味と、あと去年秋ぐらいから宇多田ヒカルさんの『First Love』を聴きすぎてたことと、あと納期がタイトだったことへの皮肉という3つです(笑)」とのことだが、求められるスピードやタイム感は、当然ながら自主で出した前作の制作時とは比べ物にならなかったそうだ。
「3倍速ぐらいでやってますね。前作の時は、当時のブログに〈制作期間が3~4か月しかない〉って書いてたんですけど。今回は7月上旬に〆切を知らされて、青天の霹靂ですよね。〈無理です〉って言って結局お盆ぐらいまで伸ばしてもらって、それでも収録曲の半分ぐらいは1か月半ぐらいの間に作ったものです」。
アルバムに先駆けては、昨年の『Don’t Stop The Music』、今年春の『ディスコの神様』というキャッチーなEP2枚も届けられていたわけだが、それらもアルバムの青写真に沿って作っていたものではないという。
「ただ、基本的に僕のやり方として、『lost decade』もそうだったんですけど、その期間に自分が作ったものの集まりだと考えたら、古い曲さえ入れなければ何を作ってもまとまるはずだと思ってて。『lost decade』の時にコンセプト的なところで悩んでたら、マネージャーに〈何も考えずに作っていったほうがいいから〉って言われて、すごい勉強になったというか、自分にはそっちのほうが合ってるわって気付いたんですね。だから心配はしてなくて、自分で足りてない要素があると思ったら自分でそういう曲を作るやろうし、そこは大丈夫やと思ってました」。