「ラブひな」「フルーツバスケット」などのアニメや、声優アーティストへの楽曲提供で知られる岡崎律子と、meg rockこと日向めぐみによって結成された、伝説のヴォーカル・ユニット、メロキュア。2004年3月に発表されたアルバム『メロディック・ハード・キュア』より11年、2005年7月リリースのシングル“ホーム&アウェイ”からも10年の時を経て、過去に発表された全楽曲に加え、リアレンジやリミックス、新録カヴァー、新曲を2枚組にまとめた新たなアルバム『メロディック・スーパー・ハード・キュア』がリリースされることとなった。いまも変わらぬ輝きを放つ〈ふたりのせかい〉の魅力を、日向本人と、今回の企画の立役者でもあるクラムボンのミトのふたりに語ってもらった。
どこにいたって聞こえる
――今回メロキュアが10年ぶりにCDをリリースされるに至った経緯は?
日向「ここに至る流れはミトさんが作り出したといっても過言ではないです。ライヴでの共演や、プライヴェートでのやり取りを通じて、そういう空気を演出していってくださったというか(笑)」
ミト「え、そうなんですか(笑)。5年くらい前にめぐさんとたまたまご縁があってお会いして。その後、メロキュアのレコーディング時のデータがコロムビア内でみつからないという話を聞いて、そこからいちファンとしてデータを探してもらえるように働きかけたのは確かですけど」
日向「私のライヴにミトさんが初めて出てくださった時に、そこでメロキュアの“Agape”を演奏したいとなって、そんな話になったんですよね」
ミト「“Agape”の元データは、律子さんとめぐさんのふたりぶんのヴォーカル・トラックだけで、60トラックもあるんですよね。2002年頃の、プロトゥールスがまだそんなに普及していないような時期に、あれだけの数のヴォーカル・トラックをまとめたのは、至難の業だと思いますよ。(今回リミックスするにあたって)最初にデータをいただいたとき、めまいがしました(笑)。いま見ても、あのデータの組み方はすごいですよ。いまのミュージシャンの子たちは、普通やらないことだと思います。エンジニア的なスペックとかどうでもいい、やりたいことに付き合ってもらう感じ。ちょっと胸焼けするくらいの気持ちを感じますね。でも、そうじゃないと音楽っておもしろくないんだなと思いました」
――ある種の過剰さから生まれるのがメロキュアの魅力だったのかと。
ミト「とてもスウィートでしたよね。身構えて聴かないと、飲み込まれるくらい。まさにアルバム・タイトルの〈ハード・キュア(荒療治)〉感があったと思います。その当時、逆に音楽シーン全体からは、そういう過剰さがなくなりつつあった。もっと自然に聴かせよう、みたいな音楽が溢れていたんですよね。それがすべて悪かったわけではなく、僕はどちらも好きでしたけれど。で、そんな形で“Agape”をやらせてもらったライヴの打ち上げの時に、〈メロキュアとしての活動をもっとやったほうがいいですよ!〉とか言ってましたかね。それくらいしか働きかけたことはないんじゃないですか?」
日向「いやいや、打ち上げだけじゃなくて、もっといろんなところで、世界中に向けておっしゃってました(笑)。そのライヴの後にミトさんがTwitterで、いろいろ書いてくださっていたなかで、(歌う限り)〈どこにいたって聞こえる〉って“Agape”の歌詞を引用してくださっていて。それがとても印象的だったんです。その言葉にすごく背中を押していただいたというか。自分のライヴではいつもメロキュア曲も歌っているのですが、もっといろいろな機会を作れたらいいなと」
ミト「メロキュアの音楽に流れていた世界観や空気感、メロディーの強さみたいなものって、全然色褪せてませんからね。いちファンとして聴いていた時も思っていましたし、演奏させてもらって、さらにその思いは強くなった。むしろ〈いまこそ必要なものなのでは〉という気持ちすらしました。いつ出してもその魅力は変わらないのであれば、あとはタイミングを探すだけだよな、と思っていて。それで今回の流れが生まれたということですかね」
〈やり散らかし続ける〉ことが責任
――ミトさんもまさにそうですが、昔から業界内でのファンが多い印象があります。
日向「お会いする方から〈聴いていた〉とおっしゃっていただくことが多いですね。いま、ご一緒しているスタッフの方でも、中学生の頃に聴いていたなんて方が」
――リアレンジ曲のゲスト陣からもその感触が伝わってきます。UNISON SQUARE GARDENの田淵(智也)さんとか、まさにリアルタイムで聴いていた世代ですよね。
日向「そうですね。今回、末光篤さんや、kz(livetune)くん、REVALCYのTakeshiくんなど、普段から仲良くしていただいている皆さんにも多数参加していただいたのですが、なかでも、田淵さんは当時、インストア・イヴェントに来てくださっていたそうなんですよ。昨年末の私のワンマン・ライヴにも、すでに知り合っているのにも関わらず、わざわざプライヴェートで来てくださって」
――kzさんも田淵さんに世代が近い。
ミト「そうですね。〈ちょっと恐れ多いです〉なんて言ってましたよ(笑)」
――以前のファンの方にも、新規のファンの方にも届くのが楽しみですよね。
ミト「昔の曲のリマスターも本当に良いですからね。以前のミックスの、良い意味でタイトな音もいいんですけど、いまはもうちょっと余裕のある音像がちゃんと聴ける時代で、そこに合ったものになっています。昔聴いていた人が聴き直す意味で手にするとしたら、すごく新鮮で、喜べるものになっていると思います」
――〈アニサマ〉へのご出演もありますし。
ミト「ここ数年の流れを見ていると、UNDER17が出演したりしていて、2000年代初頭の尖っていた、いまのアニソンのルーツにあたるような人たちの音楽を、〈アニサマ〉で新しい層に聴いてもらう流れが生まれていると思うんです。それはもう、メロキュアも出ていただくしかないだろうと。ほかの出演者も盛り上がると思いますしね。クリエイター・サイドの熱量は、お客さんにも絶対に伝播すると思うんです」
日向「当時からずっと聴いてくださっている方ももちろん、動画サイトなんかでなんとなく曲を耳にしてくださっている方にも、改めて〈メロキュアってこんな感じです〉というのを、知っていただける機会になればいいなと。自分たちが、夢中で世に出した楽曲が、誰かの人生のなかで何らかの意味を持てているのであれば、それに対しての責任は取らなきゃいけないなという気持ちもあって。メロキュアというのは、ふたりのその瞬間をパッケージした、ある意味で〈やり散らかしてる〉ユニットだと思っているんですが、それなら〈やり散らかし続ける〉ということが、責任を取るということなのかなと。あの頃より私もちょっと大人になって、そんなことを思うようになってきました」
ミト「それ、〈大人になったから、めちゃくちゃする〉ってことですよね。タチ悪くないですか(笑)」
日向「(笑)。でも、いまなんか、そんな気分なんです。ライヴもやりたいし、とにかく歌いたい」
ミト(クラムボン)
クラムボンのバンド・マスターで、ベース/ギター/キーボードなどを担当。ソロとしても、FOSSA MAGNA、dot i/o、micromicrophoneといったプロジェクトを展開するほか、2011年にはmito名義によるアルバム『DAWNS』を発表(meg rockも作詞で参加)。近年はアニメ音楽周りの仕事も多く、豊崎愛生や花澤香菜ら声優シンガーや〈物語〉シリーズ、「アイドルマスター」「アイカツ!」 といった作品への楽曲提供に加え、ミュージシャン/アレンジャーとしても、みみめめMIMIやnano.RIPE、内田真礼、fhana、竹達彩奈、寺島 拓篤らの作品に関与。9月公開の映画「心が叫びたがってるんだ。」では劇伴を担当している。また、牛尾憲輔(agraph/LAMA)とのアニソンDJユニット=2 ANIMEny DJsとしても活動しており、こちらでは「ひだまりスケッチ×ハニカム」のキャラソンなどを制作。
日向めぐみ(meg rock)
メロキュアのメンバーで、作詞/作曲家としても活躍するシンガー・ソングライター。98年にグミ名義で歌った 「カードキャプターさくら」のオープニング曲“Catch You Catch Me”にて歌手デビュー。プロデューサーの本間昭光とのプロジェクト=g.e.m.での活動を経て、2002年にメロキュアを結成する。2005年に日向めぐみ名義で“夏の向こう側”“ちいさなうた”を発表(両曲とも『メロディック・スーパー・ハード・キュア』に収録)。現在は主にmeg rock名義で活動しており、最新作は自身のレーベルより〈マイクロアルバム〉と銘打ち発表した2011年作『slight fever』。作詞家としても、中川翔子をはじめ、水樹奈々、ClariS、LiSA、藍井エイル、綾野ましろ、でんぱ組.incなど提供曲は多数。