COLUMN

カマシ・ワシントン、ロベルト・フォンセカ、クリスチャン・スコットら新世代ジャズ・アクトが来襲―秋の注目公演を柳樂光隆(JTNC)が徹底解説

秋の新世代ジャズ来日特集(後編)

【クリスチャン・スコット・アトゥンデ・アジュアー】
日時/会場
10月7日(水)~9日(金) BLUE NOTE TOKYO (公演詳細はこちら

 

 

ジャズの伝統を背負いながら斬新なアプローチでも注目を集め、新世代をリードするカリスマ・トランペッターもBLUE NOTE TOKYOにやってくる。

「彼はジャズ発祥の地、ニューオーリンズの出身。ウィントン・マルサリスニコラス・ペイトンテレンス・ブランチャードなどの大御所を輩出した高校の出身で、そのあとは名門バークリー音大でジャズの正統な教育も受けている。そして高校の偉大なる先輩たちと同様に、オールド・スタイルなジャズの技術も磨きながら、ジャンルの隔てなく様々な音楽を吸収し、最先端のセンスを取り入れています。プリンスモス・デフソランジュなどとも共演歴を持つほか、レディオヘッドを尊敬していて、アトムス・フォー・ピースと同じステージに立ち、トム・ヨークの曲もカヴァーしている。そういう背景もあるからか、そのサウンドにはポスト・ロックにも通じるものがありますね。まさに、現代ジャズ・ミュージシャンのお手本みたいな人。グラスパーがヒップホップ/R&Bを取り入れて新しいページを切り拓いたように、クリスチャン・スコットはロック的な手法を導入してプログレッシヴな未来を描いているように思います」

自身の名をタイトルに冠し、2枚組の大作となった2012年の前作『Christian Atunde Adjuah』も堂々たる出来栄えだった。

「彼はマルディグラ・インディアンの家系で、そういう自身のルーツをテーマにしたアルバム。地元を襲ったハリケーン、カトリーナでの被害に対する政府の対応を非難したりメッセージ性も強い一方で、プリペアード・ピアノを駆使したり、ミュートしたピッチのおかしいドラムを使ってみたり、斬新なサウンドにもトライしている」


そして9月リリースの新作『Stretch Music』は、今年発表されたジャズ・アルバムのなかでも群を抜いて革新的な一枚に仕上がっているという。日本盤のライナーノーツは柳樂氏が執筆した。

「ストレッチ、要するに〈拡張〉ですよね。いろんな音要素を取り込むことで、ジャズのポテンシャルを拡張するというのがコンセプトで、唯一無二の音像とグルーヴを獲得しています。前作まではエリマージジャマイア・ウィリアムスがドラムを叩いていて、彼も新世代ドラマーの筆頭格といえる存在ですけど、新作ではもっと若手にチェンジしていて。今年7月に来日したジャズ・オルガンの大家、ドクター・ロニー・スミスのバンドにも参加していたゴスペル出身のジョー・ダイソンと、〈グラスパー以降〉の新しいジャズ・ファンクを体現するブッチャー・ブラウンというバンドのコーリー・フォンヴィル。この2人を併用し、サンプリングのドラム・パッドを叩かせたりしながらリズムを構築している。これは誰が聴いても驚くと思います」
 

 

ジョー・ダイソンは今回の来日にも参加するので、期待は高まるばかりだ。バンドは8人編成で、主役であるクリスチャン・スコットの沈鬱で抒情的なトランペットがやはり鍵を握る。

「かつてディジー・ガレスピーが愛用したような、上向きに曲げたトランペットが彼のトレードマーク。ガレスピーの角度が45度で、クリスチャンのものは23度らしいです。改造トランペットには譜面を見やすくするとか、観客に顔を向けて演奏できるといったメリットがあるんですが、彼の場合は改造トランペットでひたすら特殊な音を出すための練習に没頭した結果、コルネットやフリューゲルホルンみたいな音を吹けるようになったそうで。ダークな音色を出せるから、従来のジャズとは違う表現ができると話しています。そういった既存の奏法とまったく違うコンセプトに挑む姿も、実に現代ジャズ的ですよね。クリスチャン・スコットは他のジャズ・ミュージシャンと違って客演が少ないのに、自分が作品をつくるときは優秀な人たちが次々と集まってくる。その事実が、なにより実力を物語っていると思います」

 

次ページLAジャズの伝説を受け継ぐ巨星―カマシ・ワシントン
プレイリスト
pagetop