ロバート・グラスパーを中心に、ここ数年活況が続いている新世代のジャズ・シーン。その盛り上がりを反映するように、この秋は旬のミュージシャン/バンドの来日公演が続々とアナウンスされており、注目のステージが目白押しだ。監修を手掛けたムック「Jazz The New Chapter 3(以下JTNC3)」が刊行されたばかりの音楽評論家・柳樂光隆が、その見どころを前編/後編の2回に分けて解説する。
後編ではLAジャズの巨星カマシ・ワシントンを筆頭に、ロベルト・フォンセカ、クリスチャン・スコット、挾間美帆、ケンドリック・スコットと注目アーティストが続々とやってくる10~11月の公演を一挙紹介。さらに、ジャズ・クラブを気軽に楽しむためのアドバイスも最後に伝授してもらった。〈グラスパー以降〉のシーンにおける群雄割拠の充実ぶりを、その肌で直接体感してみてほしい。
【ロベルト・フォンセカ】
日時/会場
10月4日(日)~5日(月) BLUE NOTE TOKYO (公演詳細はこちら)
〈キューバのグラスパー〉という異名をもつ、若手屈指のジャズ・ピアニストが再来日を果たす。
「彼が2013年に発表したアルバム『Yo』は、ラテン・ジャズのマナーを継承しながら、ヒップホップやエレクトロの要素を採取り入れ、ハービー・ハンコック~グラスパー的なピアノを思い切りアピールしてみせるエポックメイキングな作品でした。ジャイルス・ピーターソンが2009年に編纂した『Havana Cultura - New Cuba Sound』というキューバ音楽の新世代を紹介するコンピレーションでも大活躍しているし、マーラによるダブステップの名作『Mala In Cuba』(2012年)にキューバのエッセンスを注ぎ込んだ張本人でもあります」
さらに今年は、マリの歌姫ファトゥマタ・ジャワラとの共演ライヴ盤『At Home - Live In Marciac』を発表して話題となった。(レビューはこちら)
「これまでのキューバン・ジャズも、アフリカ音楽やクラシックを採り入れようとする動きはあったけど、ここまで思い切った才能はいなかった。キューバといえばブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブが日本でも大ヒットしましたが、フォンセカはそこにも参加して名を上げて、さらにその先まで突き進もうとしている」
〈JTNC3〉では、現在進行形のラテン・ジャズについても大きく誌面を割いて特集している。
「ある時期から、ラテン・ジャズの世界で新しい才能が突然変異的に増えだしたんですよ。アメリカとキューバの国交関係が良好化して、アメリカのジャズやポップ・ミュージックを取り入れる動きが増えたというのと、NYにいるキューバやプエルトリカンに若い世代が増えてきて、自分たちの血筋に拘束されすぎない、自由な感性を持ったミュージシャンが台頭しているのが大きいんだと思います。つまり英米のジャズ・シーンと同様に、ラテン圏でもジャズのハイブリット化が進んでいる。フォンセカがその流れの象徴でしょう」
となると、ライヴも目が離せなさそうだ。
「もとはクラシック出身だから、ピアノの鳴りからしてまったく違う。というか、キューバには基本的にバカテク・プレイヤーしかいないので(笑)、見どころの連続だと思います。単純に演奏スキルが優れているのと、サルサやルンバ、クラーベなどで培ったリズム感覚が、複雑な構成を伴う今日のジャズにすごく活かされている。〈JTNC3〉で執筆者の吉本秀純さんも言及されているとおり、大物グループのサイドメンとしてラテン系ミュージシャンが活躍する事例が増える一方だし、フォンセカのほかにも注目すべき才能が続々と現れている。この動きは今後ますます見逃せなくなるはずです」