NHORHM……ん? 〈わかる人〉はNWOBHM(ニューウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィー・メタル)と空目してしまうだろうが、こちらは〈New Heritage Of Real Heavy Metal〉=NHORHMだ。トリオのparallaxやベーシスト・安ヵ川大樹とのデュオなどで活動するジャズ・ピアニスト、西山瞳が率いる新たなトリオで、その名が表すように往年のメタル(ハード・ロックなども含む)名曲のカヴァーに挑むプロジェクトとして立ち上がった。西山が従えるのは、みずからのバンド=miDに加えて畠山美由紀やけものなどの作品に参加してきたフレットレス・ベース奏者の織原良次と、ソロ・パフォーマンスや自身のトリオでの活動にコシミハル作品のサポートなどもこなすドラマーの橋本学――この3人で完成に至ったアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』、丹精込めて練られたアレンジには原曲へのリスペクトが多分に感じられ、ゲストが参加した楽曲が鮮やかなスパイスとなって彩りを与えていたりと、非常に興味深いナンバーが揃っている。
もちろん、ただ〈ジャズに寄せた〉作品ではない。取り上げた楽曲の本質を損なうことなく彼らの作法で新たに組み上げ、生まれ変わった名曲の数々は実に新鮮な聴き心地でリスナーの耳を刺激するはずだ。今回はNHORHMの3人にお集まりいただき、『New Heritage Of Real Heavy Metal』の成り立ちから収録曲の解説、この作品に込めた思いを語ってもらった。
同じ世代の人とやりたかった
――メタルだけというよりはハード・ロックも含めた名曲を取り上げていますよね。もともと西山さんはそのあたりの音楽もよく聴いていたそうですが、今回このカヴァー・アルバムを企画された経緯を教えていただけますか?
西山瞳「このアルバムのディレクターとアニソン・カヴァーの話をしていたんです。アニソンのカヴァーはいっぱいあるものの、いくら演奏が良くても意外と印象に残っていなかったりするのですが、なかでもアニメタルUSAはインパクトがあって良かったなって話をしたら、〈メタル(のカヴァーを)やらない?〉という話になって。その時から、〈ベースは織原君〉とはずっと言ってたんです」
――それはどういう理由で?
西山「同じ世代の人とやりたかったんです。聴いてきたものが近いというか。ちょっと上の世代の人でロックを演奏できる人はいっぱいいるんですけど、ジャズ・ミュージシャンでも聴いてるものが違うと価値観が違うかなというのがあって。わりとインテリジェンスな作品が出てきた時からのメタルやプログレを通ってる人じゃないとたぶん一緒にできないなと」
――なるほど。時代的には今回カヴァーされているパンテラやアングラあたりの80年代~90年代あたりになるんでしょうか?
西山「そうですね、90年代です」
――織原さんと橋本さんもだいたいそのくらいのハード・ロック~メタルを通ってきたと。
織原良次「僕は楽器を始めたきっかけが90年代のハード・ロックだったんです。ミスター・ビッグとかが人気のあった頃に始めて、その頃は『BURRN!』を読んだりしてましたね。完全に懐かしい感じです」
橋本学「厳密に言うと(西山、織原より)3~4歳ぐらい上なんですけど、楽器を初めて2、3年経った頃にミスター・ビッグが出てきて、そのコピー・バンドをやったりしましたね。個人的にはフュージョンばっかり聴いてたんですけど、周りは90年代のハード・ロックとか人気が出はじめていたニルヴァーナを聴いていました」
織原「ミスター・ビッグとかエクストリームは橋本さんの世代がど真ん中だと思うんですよ。メガデスにしても、3つ4つ下の僕らの世代だと物凄く流行っていたわけではなかった」
橋本「ジェネレーション・ギャップが(笑)」
織原「僕らだと学校で目立つ人はハイスタを聴いてたりとか」
西山「あー、なるほどね」
織原「髪の毛の長い人は静かに『BURRN!』を読む、みたいな」
――パンクVSメタル的な。
織原「そうそうそう」
橋本「僕らが楽器を始めた頃はそれよりももうちょっと前で、ボン・ジョヴィとかガンズ(・アンド・ローゼズ)、モトリー・クルーが全盛期で、そのへんはひとしきりコピー・バンドをやりました」

――やっぱり学生の頃の3~4歳の差は結構大きいので、微妙なギャップが(笑)。何はともあれ楽器に目覚めた頃に聴いていたものが近いと。
西山「楽器を始めた時の興奮みたいなものが、情報がいっぱいあるいまとはちょっと違うと思うんですよね。だから、カセットテープに曲をダビングして、そこから耳コピしてた時代の人たちでやりたかった」
織原「教則ビデオを擦り切れるまで観る、みたいな」
――選曲はすべて西山さんでやってらっしゃるんですよね? これはどういうポイントで?
西山「レインボーは意識的に選んだんですが、90年代の楽曲だけだと狭いものになっちゃうので、なるべく古いものから新しいものまで幅広くしようとは思ってたんです。日本のメタルも1曲入れたいなとか、ざっくりとは思っていましたが、基本的にはメロディーが綺麗なものという観点で選んでますね」
――なるほど。そういう意味だとパンテラはちょっと意外性のあるチョイスですね。
西山「そうそう。でもパンテラは最初の段階から(収録したら)おもしろいかなって話してた」
織原「ぶっちゃけ、このアーティストの名前がいちばん大事だったんじゃないですか? 曲ももちろんですけど」
西山「そうそう(笑)」
――レインボーは……?
西山「メタルの元祖的なバンドということで、やっぱり入れておきたいなと。レインボーかブラック・サバスは入れようと思っていたんですが、個人的にレインボーのほうが好きなので。もともと私がメタルを聴くようになったのがイングヴェイ・マルムスティーンからというのもあって、そこから(イングヴェイが憧れたギタリストの)リッチー・ブラックモアを辿って聴いていったりしたから」
――そうなんですね。でもイングヴェイのナンバーは入れようと思わなかったんですか?
西山「録音したけど並べたら(バランス的に)上手く入らなかったんです」
――候補には挙がっていたんですね。
西山「でも、イングヴェイがカヴァーしていたからU.K.“In The Dead Of Night”を入れているんです」
――なるほど、そういうことでしたか! 勉強不足でした。なんでプログレのU.K.が入ってるのかな……と思ってたんですよ。
西山「1発目からメタルじゃない。私がイングヴェイにどハマリしていた時にイングヴェイがメタルのカヴァー・アルバム(96年作『Inspiration』)を出して、その作品に入っていた2曲を取り上げたんです」
――もう1曲はディープ・パープルの“Demon’s Eye”ですね。ほほー、イングヴェイのエキスがこういう形で入っているとは。
橋本「イングヴェイのファンが聴いたらわかる」
西山「SNSを通じて何人かに指摘されました」
――いやいやイングヴェイ事情に疎くてすみません。ディープ・パープルとレインボーが入っているから、単純にリッチー・ブラックモアが好きなんだな~としか思っていなかったです……。わかる人が見るとちょっとニヤリとしてしまうような仕掛けだったと。
西山「まあそうですね」
――全体的に、アレンジをする際に意識したことはありますか?
西山「私はメンバーが決まらないとアレンジできないところがあるので、このメンバーでやることを念頭に置いて……というのはありますね。あとは、なるべく各曲で毛色の違うものにできたらなというのと、1曲はベースでテーマを取るものも入れたいとか、そういうことですね」
――このアルバムで驚かされたのは、わかりやすいものもあるんですが、しばらく聴いていても原曲がわからないような楽曲もあったり、その美しい改編ぶりでした。
西山「(原曲とは楽器の)編成が全然違うし、パワーや速さでは勝てないので、別のアプローチでできたらなと。なのでメロディーがきれいなものを多く選んだんです。なおかつジャズ・ミュージシャンの体力みたいなものが見えたらいいなと思いました。ジャズ・ミュージシャンは他のジャンルよりも個人にかかる負担というか、その時にやることがとっても多いので、それが伝わらないと良いカヴァーにはならないと思って。そのうえで、(楽曲の)大事なところはちゃんと残すように、という点には結構時間をかけました」
――ああ、それはすごく伝わりました。いくらアレンジが加えられていても、原曲のツボというか、ここは外してもらいたくないというエッセンスはしっかり押さえられている印象です。
西山「それぞれの曲のなかでまずどこのパーツが大事かを考えて、そこは残して抜くところは抜いて、というふうにはしましたね」
――それでは、今回は1曲ずつこだわったところなどを訊いていきたいと思います。
◆U.K. “In The Dead Of Night”
――まず1曲目は、先ほどもお話しされていた通りイングヴェイもカヴァーしたU.K.“In The Dead Of Night”。これはものすごい原曲と聴き比べてしまったもののひとつで、曲のエッセンスが素敵に採り入れられているなと思いました。
西山「この曲は前からカヴァーしたい曲ではあって、これまでずっとトライしてきていたんですけどあんまりうまくいかなくって。でも今回〈これはやるときがきたな〉と思って意地でやりました(笑)」
――意地で(笑)。
織原「西山さんは今回の企画においては考え方をスイッチしてアレンジしていると思うんですけど、ジャズをやってる日常性に近いというか、西山さんの音楽性がシフトしている感じでもないんです。だから僕も普通にやったって言うとヘンですけど(笑)、大変だったところもありながらも、意外と(いつもと)違和感なくやってますね」
橋本「グルーヴが共有できたかな。ロックのグルーヴとジャズのグルーヴのいちばんの違いは疾走感なんです。流れる感じというか。そういうふうにしようという話はしていないけど、一緒に音を出した時にその流れるような疾走感を共有できた気がした」
織原「オリジナルのロックなサウンドにヘンに寄っていっちゃうと失敗する。そういう共通認識が確認せずともあって」
橋本「音を出した時にどうするといちばん気持ちいいかというのを、みんなが瞬間的に探りにいくんですよね。それが上手くスッと入れた」
――へぇ~、それはおもしろいですね。
橋本「これはすごくジャズ的な作り方かなとは思いますね。僕はロック・バンドを1年間やっていたんですけど、ひたすらリハーサルをやって、あーでもないこーでもないって譜面も使わないでやっていたんですよ。そういうのが辛くなってジャズのほうに……(笑)」
――そんなに違うものなんですね!
織原「ロックは良い意味で非生産的というか、ダメだ、ダメだ、ダメだってバンドを作っていくけど、ジャズは良い意味で適当なんですよ」
◆PANTERA “Walk”
――これは直球のリメイクですね。
西山「パンテラはクレジットに〈パンテラ〉ってあるだけでおもしろいから(笑)、何かは入れようと思ったんです。(“Walk”の)こんなリフ、なかなか考えられないですよね(笑)。これは上に乗せているハーモニーを変えているだけなので、そんなに(原曲から)変えてない」
織原「もう原曲通りですよね」
橋本「でも僕らがやってる限りは原曲の通りには絶対いかないという」
◆RAINBOW “Man On The Silver Mountain”
――これもだいぶガラッと変わった曲のひとつですね。
西山「最初はレインボーの〈バビロンの城門〉とか“Stargazer”とか、ちょっと派手な曲がやりたかったんですけど、“Stargazer”は好きすぎて(カヴァーすることで)崩せないなと(笑)。私の好きなレインボーの最初の3枚を聴いていたら、メロディーがエキゾチックなんですよね。いまイスラエルのジャズが流行ってますし、そんな雰囲気にしようかなと思ってアレンジを始めて。びっくりしたのはヘンな変拍子なのに、1回目のリハで3人がバチッと合った(笑)」
織原「音を出した時に〈この感じ!〉ってわかったのがこの曲。アレンジは難しいんですけど、3人がパッと合ったので〈これだ!〉と思って。すごくインパクトがありました」
橋本「僕は安直にやってる(笑)。安直にやったのがいい感じだった」
織原「難しいけどいちばん力を抜くことができるかもしれないね、こういうの」
橋本「僕らがいつもやってる、得意分野寄りの方向に行ったのかな」
織原「アレンジの妙ですね」
西山「やっぱり(アレンジは)人ありきなので。ウッド・ベースだったら絶対こんなふうにならないし。フレットレス(・ベース)で、しかもオリちゃん(織原)のように自由にやってくれる感じがないとがんじがらめになっちゃうアレンジですから。他のバンドでもそうですが、そのプレイヤーを考えて書いたアレンジは、他のバンドではほとんど演奏しません」
橋本「僕たちのプレイをよく聴いてくれていたというのが大きい。この人たちだったらこれかなっていうアレンジがズバッとその通りにハマった」
◆MEGADETH “Skin O' My Teeth”
――これは唯一のヴォーカル曲で、小田朋美さんが参加されています。
西山「この曲は、オリちゃんのリクエストで」
織原「世代的にと言っていいかわかりませんが、メガデスの『Countdown To Extinction』が当時すごく流行ってたんですよね。そしていつ聴いても良い。メタル・バンドにしては最強に音がいいバンドだから、いま聴いても良い音なんですよ。それで“Skin O' My Teeth”をやりたいと」
西山「インストでは厳しいかなと思っていたら、良い歌い手がいた」
織原「良い案でしたよね」
西山「入れて良かった思ってる。(小田は)録音物では英語の歌をほとんど歌ったことないと思うんですけど、とりあえず発音とかどうでもいいからいつもの感じで歌ってと伝えて」
織原「合ってますよね、彼女のキャラと。普段ジャズ・ヴォーカルをやっているような人だったら歌えないと思うんですよね」
――ヴォーカルが乗っているからかもしれませんが、今回のアルバムのなかでいちばんロッキッシュですよね。
織原「原曲通りですよね」
西山「ちょっとだけしかコードいじってない」
橋本「でも自分の演奏を聴いて思うのが、細かい16分音符が、こんなテンポなのに入ってて〈マジかよ……〉って(笑)」
――オープニングのドラム・ソロがカッコイイです!
橋本「とにかくたくさん叩く、とにかく音量を大きく、とにかくずっとテンション高く。この曲は絶対最後までテンション下げないっていう課題をもって臨みました」
――普段そんなにフルスロットルで叩くことはないんじゃないですか?
橋本「フルスロットルでやることはないですね。周りの音が聴こえなくなっちゃうから。だからこの機会に楽しくやりましたよ」
◆IRON MAIDEN “Fear Of The Dark”
――これは馬場孝喜さんのアコギが本当に良い仕事をしていて感動しました! 素晴らしいです。
西山「馬場くんは1歳違いで関西でも一緒にやってましたし、これまでずっと縁のある同志みたいなプレイヤーなんです。私と同じく昔すごいメタルを聴いていて、ホワイトスネイクをきっかけにギターを始めたということも知っていたから、絶対何かで参加してもらおうと思ってた。でも、(原曲と)同じようにエレキ・ギターを持たせてもインパクト的に絶対負けちゃうので、アコギでやってもらったんです」
――それが見事にハマりましたね。
織原「むちゃくちゃ良い曲ですよね」
西山「みんなで大合唱するの」
――ライヴではオープニングのギター・フレーズをオーディエンスがオーオー合唱したりするんですよね。
西山「その部分を入れたかったんですけどあえて外して別のところに入れて、もともとのメロディーの綺麗なパートだけ馬場くんに歌って(弾いて)もらったんです。すごくメタル好きの人たちから評判が良かった」

◆ANGRA “Upper Levels”
西山「アングラはディレクターからテクニカル系を真正面からやってというお題があったので、ものすごい探したんですよ。どうしてもギターが速いかドラムが速いか、プログレになるかとかで、〈テクニカル〉という意味が違うから、どうしようかなと思っていたところに、このバンドが浮かんで。彼らはブラジリアンなので、音もどこかブラジリアンなんですよね。メロディー・ラインが若干サウダージな感じだったりするのがおもしろいので、アングラにしようかなと。最新作(2014年作『Secret Garden』)のなかではこの曲がいちばん好きで、かついちばんテクニカル・チューンだったのでこれにしました」
――中盤の重厚感のある演奏をどうやるのかなというのがタイトルを見た時から気になってたんですけど、見事にカヴァーされていて。
橋本「やっぱりその中盤のユニゾンは難しかったですね。がんばった思い出がすごくある」
織原「普段、バキバキなユニゾンはあんまりやらないんですよ」
橋本「しかも変拍子の応酬みたいな感じだったので」
織原「それが単純に難しかった」
西山「どんどんパーツが変わっていくのと、ジャズとして勢いが上がっていくのとはまた違うので、そこを上手く折り合いつけるのが難しいですよね」
――基本的にすべて一発録りなんですか?
西山「もちろん。その中盤のところも、それぞれが思ったまま弾いていたら若干ズレていて、そこが原曲に近くなった(笑)」
――ああ、そうですね!
織原「僕もね、若干ズレてるから16分(音符)を1個減らして演奏してるんですよ」
西山「この部分については今度キコ・ルーレイロ(アングラのギタリスト)に会えたら訊いてみようと思って、譜面持って行って」
ディレクター「アングラの皆さんはこのカヴァーを大変気に入ってくれたそうです」
――そうなんですか! もう聴いてもらったんですね、すごい!
西山「びっくりした」
◆BABYMETAL “悪夢の輪舞曲”
西山「もともとベースでテーマを取るのに、ジェフ・ベックの“Diamond Dust”にしようと思ってたんですが、すでに他の人がやってたので止めたんです。“Diamond Dust”はジャズっぽい曲なので、その代わりの曲をと探していたら“悪夢の輪舞曲”がいいなと思って」
織原「ひねくれてるんですよね(笑)。もともとジェフ・ベックの曲を入れようとしていたけど、他の人がやってるとわかったらこっちを持ってくるという」
橋本「でもBABYMETALの曲があるおかげで聴いてくれる人がいるだろうし」
西山「それはそうですね」
織原「僕は(BABYMETALのことを)全然知らなかったんですよ」
西山「BABYMETALは、名前は知ってるけど聴いたことがなかったのでYouTubeでいろいろ動画を観ていたらバンド(神バンド)がすごく巧いことにびっくりして。〈このバンドは誰なんだろう?〉ってそればっかり気になって見ていたらだんだんハマっていったんです。ミイラ取りがミイラになった感じ(笑)。なかでもこの曲は真正面からちゃんとメタルやってる感じで硬派だし、メロディー自体がきれいだから選びました」
――この曲ではテーマを織原さんが取られていますが、いかがでしたか?
織原「僕、譜面読むのがめちゃくちゃ遅いんです。このキーはBマイナー?」
西山「E♭マイナーで♭が6つ付いてる」
織原「譜面は全然読めなかったんですけど、いざ弾いてみたら素直でストレートな曲なんです。だからフレットレス・ベース冥利に尽きるというか、フレットレスを弾いていて良かったなと思える曲ですね」
橋本「僕としてはこの曲は難しくて、ビートを刻んでいるとわりとナンセンスなショットが多いんですよね。だからどういうアプローチをしようかなって思って試行錯誤したらやっと上手くいった。あとパーカッションを1か所使っているんですが、それでワンアクセント付けられて良かったですね」
西山「この曲はジェントを踏まえて作られているので、リズムの引っ掛けみたいなところをメインに聴いてると思うんです。最初はそういうアプローチでアレンジしようかなと思ったんですけど、メロディーの綺麗さのほうが勝っちゃうからそれに特化してやろうかなと」
◆DEEP PURPLE “Demon’s Eye”
――こちらもゲストありのナンバーで、トランペットの市原ひかりさんが。
西山「市原ひかりちゃんが〈おもしろそうやから私も入りたい〉みたいなことをチラっと言ったので、ひかりちゃんのジャズ力を活かせる曲をと思って入れた感じなんですよ。でもこれはもうそのまま“Summer Time”だから、ジャズのスタンダードと変わらない」
――そうですね、“Demon's Eye”というより“Summer Time”というか(笑)。
織原「普通にハード・バップですよね(笑)」
橋本「ストレートなジャズっていう感じ」
西山「半音ずつ上がっていくのはイングヴェイがカヴァーしたヴァージョンと同じです」
――そこにもオマージュが!
◆西山瞳 “The Halfway to Babylon”
――これは完全にオリジナルの楽曲ですよね。このアルバムのために作られたのでしょうか?
西山「はい。ジャズでカヴァー・アルバムを作るならオリジナル、オマージュ的な楽曲を入れるのがマナーとしてあるというのと、私はこれまでずっとオリジナル・アルバムをリリースしてきているから、流石に(オリジナルが)1曲もないのはアレかなというのもあって。こういうアルバムだし、あまり自分のテイストを押し出しても合わないので、それこそイングヴェイがよくやっていた、スケールだけを使った曲を書こうかなと。リッチー・ブラックモアにものすごく影響を受けているイングヴェイが、レインボーの〈バビロンの城門〉と同じスケールでアドリブする感じ」
――なるほど! それがタイトルにも表れているわけですね。そういう曲の成り立ちについてはお2人にも共有されていたんですか?
織原「そうですね。他に2曲、イングヴェイの曲とディープ・パープルの“Highway Star”が候補にあって、それも良かったんですけど、たまたまオリジナル曲を録音した時の演奏が良かったんですよね」
ディレクター「最後に録ったんじゃないかな?」
織原「そうでしたね、だから入れようとは思っていたと思うんですけど、優先順位的には実はそんな高くなくて」
ディレクター「みんながのびのびやってた」
橋本「ライヴでやったときも良かった」
――それ、動画で観ました。橋本さんがものすごいソロを叩いている……(笑)。
橋本「あれがいちばん僕のなかで盛り上がってた(笑)」
西山「ざっくりしてるほうがジャズは楽しくできるので」
◆MR. BIG “Green-Tinted Sixties Mind”
――最後の曲は、皆さんのルーツにあるというミスター・ビッグ。
西山「この曲は(同世代の人なら)みんな何かしら思い出のある曲だと思うんですよね。最初のリフはギターをやっている人がみんな練習していたようなフレーズだから入れたかったんですけど、入れるとなるとピアノ・トリオだとちょっと限界があるかなと思っていたところに橋爪亮督(サックス)が入ってくれることになって」
――ほうほう。
西山「この曲にある独特の〈時代〉感を出したくて。ヘンに洗練されすぎずにペンタトニックだけを(橋爪に)吹いてもらって」
織原「これは確か全然違うリフを考えてたんですけど、橋本さんと意見交換して作ったら良くなったんですよね。サックスが乗っかるのにちゃんと設計されてる」
橋本「相当設計したかもね。あと、イントロの〈シュワ~〉ってやつで絶対笑いを取りたくて、原曲のタイムでやったらおもしろくないけど、ゆっくりシュワ~ってやれば笑ってもらえるかなと」
――文字にするとわかりづらいかもしれないので、ぜひ聴いてほしいです(笑)。
西山「あれはわかってる人が聴けば笑う(笑)」

メタル方面にもジャズ方面にも納得してもらえる筋の通った作品になるように
――お話を聴いていると、いつもと勝手が違って難しい部分もあったかと思いますが、そういうところもむしろ楽しみつつ、肩の力を抜いて臨んでいらっしゃったようにお見受けしました。
織原「あんまり(普段と比べても)違和感がなかったからですね。いわゆるジャズというフォーマットでちゃんと翻訳されていたので。メタルという切り口がピアノ・トリオとしてはかなりレアだったけど、やっていることは素直なジャズで、ちゃんとジャズ業界にもオマージュできていると思いました」
橋本「ジャズと他のジャンルとの壁はあまりないと思ってるんです。僕はジャンルの際(きわ)にあるような音楽が好きなので、これはメタルだから、これはジャズだから、みたいな枠組みを全然意識していない」
織原「そうですよね。僕もメガデスの音がいいなって思えば、ポップスやフュージョンを聴く耳で聴きますもんね。あんまりそういうのは関係ない」
西山「このプロジェクトを立ち上げてアレンジなどを考えていくなかで、一般的にすごく(ジャンルの)区分けというか偏見がすごくあるんだなというのを感じました。私たちくらいの世代のジャズ・ミュージシャンだとジャンル関係なく〈良かったら聴く〉みたいな感じなので、そういう区分けの意識はあまりないんですけど。ジャズは難しそうだから聴いてないという人は、きっと〈昔ながらのジャズ〉的な区分けをイメージしていると思うので、このアルバムを機にそんな難しいものじゃないよ、というのが伝わったらいいなと思うんです。今回すごく気を付けたのは、雑貨屋で消費されるような〈お洒落な〉カヴァー・アルバムは作りたくないということでした。BGM的に聴く人がいてもいいけど、メタル方面にもジャズ方面にも納得してもらえる筋の通ったものになるように意識して」
――そういう意識はすごく感じました。
西山「どうしてもジャズって、ちょっとお洒落なイメージで消費されていくじゃないですか。でもそれだけじゃないっていうところをちゃんと伝えないと。ただ〈こうやったらカッコイイかな〉でやるんじゃなくて、どういうことをしたいかという明確な意思を持って臨んでくれるミュージシャンだったからこそこういう作品が出来上がったと思う」
織原「ジャズ・ミュージシャンは器用な人が多いから、そういう人にカヴァー曲をお願いしたりすると、原曲とは違う答えを求めちゃいがちだと思うんですよね。そこをもっとニュートラルに関われるような」
橋本「僕なんかはアレンジがすべてだと思って臨んだので、そのアレンジがおもしろく聴こえるように叩こうとしか思ってないです」
西山「個人的な話なんですけど、この半年ぐらいで、それこそMikikiのキャラソンのレヴュー(連載〈架空のJ-Pop考〉)をやったりとか、ジャズ以外のところに首を突っ込むのって楽しいんですよ。狭いところで詰めてくのもいいんですけど、いっぱい知ることは大事だということをすごく思いました。ジャズもメタルも、わりと狭いところに留まってしまっているので、他のジャンルに興味を持つきっかけになったらいいなというのがすごく伝えたいところです」
――そうですよね。両方のファンにきちんと目配せしているアルバムだと思いますし、そういう意味では最適なアルバムだと思います。
橋本「マーティ(・フリードマン)さんのコメント※を読んで……」
※『New Heritage Of Real Heavy Metal』を聴いてのコメント。詳しくはこちらで
西山「結構ショックだったんですよ」
――〈ジャズの演奏者はメタルを音楽として認めてくれない〉と。そういう意識があるんですね。
西山「絶対あると思いますよ」
橋本「ジャズ・ファンっていうのは、ジャズ・ミュージシャンもそうなんですけど、だいぶ昔からの流れでいくと、どこかで〈俺、ジャズ聴いてて偉いだろ〉っていう思いを抱きがちなんですよ。僕はそれが大っ嫌いで」
西山「(ジャズは)勉強してこそ楽しめるジャンルではあるから、そのプライドもあるし、自分はハイカルチャーなものに触れてるから偉いって、ジャズの人は思っちゃうところがあって。みんな一緒に楽しんで尊重し合ってやったらいいやんって思うんですけど」
橋本「お互いが心を開いたらマーティさんもこんなこと言わないわけだし」
西山「たぶんメタル好きな人もジャズ好きな人もピュアなんですよ。好きなジャンルに対して意識が高い人たちだと思う」
――そうですよね。
橋本「ルーツが違うのは事実だし、それを互いが尊重したらいいと思う。お互いに〈カッコイイじゃん〉って認め合えばいい」
西山「私たちがマーティさんをめっちゃリスペクトしてるっていうことをね。それがなかったら楽器始めたりしてない人が山ほどジャズ・ミュージシャンにもいるので、そのリスペクトの気持ちは絶対汚したくない」
