〈2015年のために特別に作られたマイケル・ジャクソンのレコード〉とも形容される、ロンドン在住のシンガー/プロデューサー、ドーニクによるファースト・アルバム『Dornik』は、日本でも早耳リスナーの間で早くから注目を集めていた。以前はドラマーとしてジェシー・ウェアのツアー・バンドに参加していた彼は、趣味で作り貯めていたというデモがジェシーの耳に届いたことがきっかけで、彼女やディスクロージャーらを擁するPMRよりデビューを飾ることに。ラジオ・フレンドリーな音楽性はスター候補生としての資質も十分で、滑らかでソウルフルなヴォーカルと、エレクトロな煌めきに満ちたモダンなR&Bは各所で注目を集め、11月には〈Hostess Club Weekender(以下HCW)〉で初来日も控えるなどブレイクの機運は高まる一方だ。そこで今回は、コンピレーション・シリーズ〈Free Soul〉やディスク・ガイド本「Suburbia Suite」などを通じて、アーバン・ミュージックを長年紹介してきた編集者/選曲家/DJ/プロデューサーの橋本徹氏に、ドーニクが持つサウンドの魅力と、彼を起点としたシーンや世代の移ろいについて語ってもらった。

★ディスクガイド〈ドーニクと並べて聴きたいオルタナティヴR&B〉はこちら

DORNIK Dornik PMR(2015)

UKソウルの系譜を受け継ぎ、インディー的なセンスとMTVヒット的な煌めきが同居 

ドーニクがフロントマンとして最初に脚光を浴びたのは、2013年に公開された“Something About You”。この段階で橋本氏もドーニクの評判を耳にしていたそうだが、リスナーとしてより深い共感を覚えたきっかけは『Dornik』のリード・シングル“Drive”だった。

「アルバムが出る一足先にこの曲を聴いて、〈2010s Urban〉だな、いまっぽいなと思って。曲名通り、夜のカーステレオから流れてきてほしいような音楽というか。それで気に入ったのでアルバムの輸入盤(日本盤に先駆けて今年8月にリリース)をすぐに買ってみた感じです。〈ジェシー・ウェアの推薦〉という話もイメージが良かったけども、ファンクやネオ・ソウルが共通して持つアーバンな感覚と、インディー的なセンスのバランス、そのアップデートにいまっぽい印象を受けたんですね。“Drive”はイントロから(プリンスの)“Sign 'O' The Times”を思わせるけど、さらに言えば最近のブラッド・オレンジカインドネスなんかにまで繋がっている。それに、僕が一番気に入っている2曲目の“Blush”はフランク・オーシャンみたいだし」

ブラッド・オレンジの2013年作『Cupid Deluxe』収録曲“Time Will Tell”。“Sign 'O' The Times”的なドラム・マシーンはカインドネスによるもの

〈インディーとアーバンの邂逅〉はここ数年のトレンドであるが、そのなかでも橋本氏はドーニクのポップなバランス感覚にいまっぽい個性を感じるという。

「〈インディー感〉っていうのがどこかにあることが重要なんだと思いますね。ジェシー・ウェアも、最初はダブステップのフィーチャリング・ヴォーカリストとして注目を集めながら、自分のソロ作はスタイリッシュだけど華美になりすぎないセンスがあったのが良かった。カインドネスにもそれを感じますよね」

ジェシー・ウェアの2012年作『Devotion』収録曲“Imagine It Was Us”。ドーニクは本名のドーニク・レイ名義でバッキング・ヴォーカルを務めている

「UKソウルやアシッド・ジャズの頃のように、アーバンな音楽がポップ・マーケットにアプローチする時はイギリスから先に出てくるものだったけど、フランク・オーシャン以降はアメリカの動きが早かった。そのなかで、ライクァドロンインクなど昨今のアンビエントR&Bに比べてもっとポップなドーニクが、イギリスから登場してきたというのもおもしろい。僕はいわゆるMTV世代で、アルバム1曲目“Strong”とか、あのアップテンポでこられるとジョー・ジャクソンの“Steppin’ Out”が頭の中で鳴る世代なので(笑)。そういうふうに、MTVが隆盛を誇った80年代の洋楽にあったキラキラした感じと、今日のインディー的なリアリティーというか、〈押しつけがましくない甘さ〉みたいなものが上手く溶け合っている」

Dornik“Strong”のパフォーマンス映像

ジョー・ジャクソンの82年作『Night And Day』収録曲“Steppin’ Out”

「イギリスのポップスは伝統的にソウル・ミュージックの影響が強く感じられるけど、80年代におけるシャーデーのように、そういう流れの系譜にも位置付けられると思いますね。UKソウルを準備したルース・エンズとか。そのUK的なスタイリッシュさとスムースネス、マイケルやプリンスがミディアム・スロウで聴かせる時の淡く甘いけどキラキラした感じが上手くミックスされている。いわゆるインディーR&Bと括られる音楽のなかでは、よりポップ・チャートに近いところにいますよね」

ルース・エンズの84年作『A Little Spice』収録曲“Hangin' On A String”

80年代に未来を見い出す感性、時代のムードを心得たプロダクションと高い将来性

ドーニクといえば、〈80年代生まれのMJ〉という異名の通り、往年のマイケルやプリンスを彷彿とさせるシンガーとしての資質もトレードマークだ。そこに橋本氏は、世代の移ろいが感じられると指摘する。

「“Something About You”はまさにマイケルを彷彿とさせるミディアム・スロウで、ディスクロージャーも〈マイケルみたいな曲だ〉とコメントしてましたね。“Shadow”は(マイケルの)“Human Nature”のようだし……というよりも、アルバム全体がそれっぽいと言えなくもない」

ドーニクの2015年作『Dornik』を全曲試聴できるサンプラー

マイケル・ジャクソンの83年のシングル“Human Nature”

「90年代のUKソウルやアシッド・ジャズ、2000年代のニュー・クラシック・ソウルを通過したわりと最近まで、ソウルのヴォーカリストといえばスティーヴィー・ワンダーっぽい節回しが多かった。90年代にはマイケルといえばジャクソン5の影響が大きくて、逆にソロはコンテンポラリーすぎたわけです。その頃にマーヴィン・ゲイダニー・ハサウェイ、そしてスティーヴィーと70年代ニュー・ソウルの再評価が高まったわけですけど、80年代生まれのドーニクにとって、そういう参照元はマイケルやプリンスなんですよね。だから彼のアルバムにも、“Human Nature”が通奏低音のように流れている。アーティストは自分が生まれ育つ直前くらいの音楽に影響を受けるもので、2010年代も真ん中に来たなって感じましたね。いまの若いDJは、マーヴィンでも“What’s Going On”よりも“Sexual Healing”をかけたりしますし」

マーヴィン・ゲイの82年作『Midnight Love』収録曲“Sexual Healing”

「ドーニクと同世代のアーティスト……ジ・インターネットミゲルサンファ、ライやクァドロン、ウィークエンドなんかも一緒ですよね。僕らの世代がスティーヴィーの“Golden Lady”とか、JRベイリー作のダニー・ハサウェイ“Love Love Love”みたいな曲だったら大概好きになるように、この世代は“Human Nature”のヴァリエーションをどれも気に入るんじゃないかな。メロディアスなミディアムだけに限った話ではなくて、マイケルだったら“Billie Jean”、プリンスだったら“When Doves Cry”みたいなワンコードの粘っこいファンクもドーニクの“Drive”に通じるものがあるし。彼らにとっては80年代の音楽がルーツでありプロトタイプで、そこに未来を感じるんでしょうね」

ジ・インターネットの2013年作『Feel Good』収録曲“Dontcha”

ディアンジェロなどネオ・ソウルからの影響や、メインストリーム・ポップへの目配せを『Dornik』のプロダクション・チームからも窺うことができる。アルバムの総合プロデューサーは、アッシャーやミゲルなども手掛けるアンドリュー“ポップ”ワンゼル。ミックス・エンジニアはディアンジェロの『Voodoo』や『Black Messiah』にも携わったラッセル・エレヴァドがそれぞれ務めている。

「インディーの人たちよりも、ポップ・マーケットでの輝きをとても意識したプロダクトだと思います。サウンドのエコーを取ってもそんな感じ。UKらしい内省感はありつつも、キャッチ―で洗練されたオーソドックスかつスタイリッシュなサウンド。ラッセル・エレヴァドはある種の職人というか、その名前だけでも魔法をかけられそうなネーム・ヴァリューがある人ですね。その一方で、ヒップホップとは距離を置いているのもUKらしさなのかな。〈黒さ〉よりも、ロンドンらしいマシーン・ミュージックとの隣接を色濃く感じる。あと、フランク・オーシャン以降の中性的なムードもインディーっぽさと通じるのかもしれない。ライのミロシュもそうですよね。ジェンダーな色気というか、セクシーというよりはファンタスティックで、そういう繊細さにおいてはディアンジェロよりもマックスウェルに近いのかもしれない。初期のナイーヴな感じを経て、独特の翳りが薄れてきた『BLACKsummers'night』あたりとかが近いバランスじゃないかな」

マックスウェルの2009年作『BLACKsummers'night』収録曲“Pretty Wings”

 

ここまでも言及されてきたアンビエントR&Bや、マイケル・キワヌーカなどのフォーキー・ソウル、ロバート・グラスパー以降の現代ジャズまでを〈2010年代のアーバン・ミュージック〉と捉えてコンパイルしたのが、橋本氏の監修による〈Free Soul~2010s Urban-Mellow〉シリーズ。フランク・オーシャンやジェシー・ウェアも収録された同シリーズの文脈に基づき、橋本氏がドーニクの重要曲として挙げたのがトロントのジャズ・トリオ、バッドバッドノットグッドによる“Drive”のリミックスだ。

「もし自分がああいうコンピを今後も作るとして、ドーニクを入れられるとしたらこれかな。ジャズとも接点を持って、よりメロウなフィーリングを施している。こういうリミックスをしてもらおうという発想も〈インディーR&B以降〉ですよね」

「もうひとつドーニクの個性として挙げられるのは、〈R&Bのシンガー・ソングライター〉であること。マルチプレイヤーの彼が今後もっと制作面のイニシアティヴを執るようになれば、ベイビーフェイスが“Rock Bottom”から、トレイシー・チャップマンみたいなことをやりはじめて"When Can I See You"といったアコースティックな楽曲を世に送り出した時のようなアーティストに化ける可能性もある。だから、ディアンジェロが『Brown Sugar』の後に『Voodoo』を出した時のように、もっとパーソナルなアルバムを聴いてみたい気もしますね」

ベイビーフェイスの93年作『For the Cool in You』収録曲“When Can I See You”

現在進行形のUKソウル・シーンは、ジャンルや国境を横断しながらユニークな発展を遂げている。ディスクロージャーやサム・スミスなどメジャー・フィールドで活躍する面々に続いて〈HCW〉で初来日を果たすドーニクのステージは、そのリアルな昂ぶりを体感するチャンスでもある。

「かつて六本木のインクスティックにシャーデーのポスターが飾ってあった時代から、日本にはイギリスの音楽を好意的に受け止める土壌があったと思うんですよ。アシッド・ジャズの時代にも、ジャミロクワイブラン・ニュー・ヘヴィーズはもちろん、オマーヤング・ディサイプルズインコグニートなどが続々と登場して、ラジオで繰り返しプレイされていた。ただ最近のUKシーンは、ベース・ミュージックだとコアな人たちがサポートしているけど、ポップな部分が少し見えづらくなっているのかな。現地ではおもしろい音楽がたくさん生まれているのに、日本では90年代前半にUKソウルの12インチが毎週入荷されていた頃のような活況は残念ながら見られませんよね。例えばロバート・グラスパーを軸として現在進行形のジャズがシーンとして拓けてきたのと同じように、イギリスの移民2世や3世が作っているソウル・オリエンテッドな音楽シーンも、ひとつの大きなムーヴメントとして捉えることができたら状況も変わってくると思います。その点において、ラジオにも強そうなドーニクは、そういう音楽を聴いてこなかった層にもアピールするのではないかと期待しています」

 


〈Hostess Club Weekender〉
日時/会場:2015年11月22日(日)、23日(月・祝) 東京・新木場スタジオコースト
開場/開演:12:30/13:30
出演:〈22日〉Melvins / Daughter / Christopher Owens / Dornik
〈23日〉Bloc Party / Mystery Jets / The Bohicas / Julia Holter
チケット:通常2日通し券/13,900円(税込/両日1D別)
通常1日券/8,500円(税込/両日1D別)
イープラス
チケットぴあ(Pコード:279-443)
ローソンチケット(Lコード:78690)
楽天チケット
http://ynos.tv/hostessclub/schedule/201511weekender/ticket

 

 

ドーニクのロゴ入りスナップバックを1名様にプレゼント! 

クールなネーム・ロゴが刺繍されたこちらのスナップバックを、Mikiki読者1名様にプレゼントします。応募締め切りは11月11日(水)。どうぞふるってご応募ください。応募方法は以下をチェック!

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