大事なことは自由であること。挑戦でもあるけれど〈音楽でそれをやらなかったらどうするんだ〉と思ってます

――なるほど。そうやって完成した作品には、過去に郷愁を覚えつつも、そこに区切りを付けて前に進んでいこうというような気持ちが表れていると思ったのですが、いかがでしょう?

「それは絶対に入っていますね。わかりやすいところでは、“A LETTER”という曲は何についてかと言うと、小学校の頃に〈将来の自分へ手紙を書こう〉という宿題があったんです。それで将来の自分がどうなっていてほしいか希望を書いた記憶はあるんですけど、いまは内容をよく覚えてなくて……その手紙自体も家に残ってないし、どこにあるかわからない、つまりそれはいまの僕には届いてない。それはちょっと悲しいし、過去に対して何かを失った気がする。“A LETTER”は〈幼い頃の純粋さもなくなってきているのかな?〉ということをメイン・テーマにしてます。他の曲の歌詞も、それに寄った内容が多い気がしますね。まさに過去を振り返りながら、いまはこう変わったけども、このまま進んでいく、そういうテーマですね」

――では、〈手紙〉というのは過去の自分との間の手紙だったんですね。

「そうです。そして、最後の曲である“It's not the same”の終わりには、手紙みたいに〈P.S.〉が付いていて、こちらは幼い頃の自分に向けたものになっています」

――なるほど。今回そういうテーマが浮かんできた理由は?

「年齢ですかね、やっぱり。僕は今年28歳で若いといえば若いですけど、ちょっと歳を取ったというか、なんか変な、微妙な時期にいるような気がしていて。30代に向かううえで〈いままで何をしていた?〉ってことを自分に尋ねることもある。そういうところから出てきたテーマです。たぶん誰でも1回くらいはそんな感情を持つだろうし、共感してもらえるんじゃないかと思います」

――“Beautiful World”や“Dear Sunshine”といった曲名には、そこで肯定的な気持ちに辿り着いている心境が表れているように感じました。

「そうですね。“A LETTER”の歌詞の日本語のところが僕の本音というか、いろんなことがありますけど、それでも世界は美しいし、もともと自分が持っていた夢がないと生きる意味もない、〈君がそばにいないと“It’s not the same”〉という部分も含めて、そういう感じです」

『A LETTER』収録曲“Dear Sunshine”

 

――ちなみに、歌詞はあえて英語メインにしたのでしょうか?

「僕はアメリカで育って、向こうでの暮らしのほうが長いんです。今作のテーマをすべて日本語で書こうとしたら結構べたっとなると思ったので、ちょっとさりげないくらいのニュアンスで、ゴリ押ししていない感じにしたかったんですね。単純に音楽だけを聴いて、何かを感じ取ってもらえたら嬉しいし。一応こういう取材の場があれば、喜んでテーマについて話しますけど、それが絶対ということではないんです」

――わかりました。自宅でコンピューターに向かって制作したこともあってか、鍵盤がメインのサウンドになっているように感じたのですが、具体的な作曲の進め方について教えてもらえますか。

「4つのやり方があります。僕はもともとギターから入った人なので、ギターでリフやらコードやら何か良いのが浮かんだらそこにメロディーを乗せるという形がまず1つ。それから、ピアノで作る形が2つ目。ピアノは昔ちょっと独学で弾いてただけなんですけど、ギターではできないようなものが出てきたりするので、おもしろい世界だなと思ってがんばってます。3つ目はいちばん〈いま〉っぽいかもしれませんけど、パソコンでレコーディングしながら曲を作るやり方。ちょっとでも良いものがあれば、歌でも楽器でもなんでもいっぱい入れて、形になってきたら今度はそこから少しずつ減らしていく、そういう形もあったりしますね。そして最後の4つ目は、歌詞というか言葉から。なにか響いてくる言葉を携帯にメモっておいて、あとで〈これどうしようかな〉って振り返るところから始まる曲作りもあります」

――1人で全部作ったということもあって、なんでもありという感じですか?

「なんでもありですね。MVも”Holding Hands”と“Dear Sunshine”は、自分で撮影して編集して作りました。それも昔だったらちょっと考えられなかったですね、自分はこういうこともできるんだって。今年になってから映像もおもしろくなってきて、そういうところも含めて、なんでもできる可能性を自分のなかに感じてますし、それを皆さんにも伝えることができたら良いなと思ってます」

――最初に音楽に夢中になった時の話を聞かせていただけますか?

「僕はLAで育ったんですけど、LAには結構なんでもあるというか、そんななかで小学校の時に初めて聴いて衝撃を受けたのがX JAPANだったんです。当時のアメリカ、僕の周りではスパイス・ガールズがめちゃくちゃ流行ってたんですけど、僕は〈メインストリームの音楽は聴かない、あんたたちとは違う音楽を聴く〉という、学校に1人はいるタイプで(笑)。それで日本の音楽を聴きはじめました。X JAPANはギターがカッコイイと思ったので、自分でもギターを始めて。速弾きのソロとかにハマって、そういうギターをコピーするのが学生の頃の趣味でしたね。そのうち、ちょっとずつ自分で曲も書くようになって、ジャズとかファンクとか、もっといろんな音楽を聴くようになってここまできたという」

――そういった過去から、この『A LETTER』で聴けるような音楽性には、どのようにして辿り着いたのでしょう?

「こういう音楽も実際、自分のなかにずっとあったんだと思います。それがルーツではないにせよ、昔から聴いていましたね。ロックのギターとは別の世界だと思っていただけで。いまそれがこうして出てきた理由は……まずは年齢ですかね。こういう音楽が良いと思うようになって、少しゆっくりしたいという気持ちもあるし……そんなに歳取ってるわけじゃないですけど(笑)。あとは周りの音楽に、こういうものがないということ。こっちのほうが、もうちょっと良い答えですね。いまのチャートを見ていると、BPMの速い曲ばっかりなのが納得できない。もうちょっとヴァリエーションがあって良いんじゃないかと思ってます。僕が一目惚れした時の日本の音楽にはものすごくヴァラエティーがあった。良い意味で訳のわからない曲というか、この人がなぜ1位なのかわからないというものが1位になっていたりして、日本はリスナーもすごいなと思った。ASIAN KUNG-FU GENERATIONが大好きなんですけど、〈これがあそこまで受け入れられるんだ!〉ということが衝撃でした」

ASIAN KUNG-FU GENERATIONの2004年作『ソルファ』収録曲“君の街まで”。

 

――じゃあ、以前の日本の音楽シーンにあったおもしろさがいまは失われてきていると感じているのですね?

「何かが変化しましたよね。日本に住みはじめてからは、日本の音楽業界を客観的に見られなくなってきたということもあるかもしれないけれど、確実に何か違うような気がします。それはオリコンの年間チャートを見てもわかると思いますし」

――では『A LETTER』は、そうした状況に対するカウンターとまでは言わないにせよ、少し感じていることがあって作ったものだということなんですね。

「〈こういう音楽もありますよ〉ということは言いたいですね。でも、リスナーはちゃんと求めているのに、どちらかというと業界が自分の首を絞めている感じがします。メジャーのアーティストへの曲提供や録音にギターで参加する機会もあるんですけど、どの会社も求めてくる音がみんな同じだったりするんですよ。そのことに気付いた時〈それはあまり良くないな〉と。そういうことも経験したから、『A LETTER』のサウンドに出た部分も何かあると思います。まあ、これが出たところで世の中に変化が起きるかはわからないですけど。〈僕はがんばっているよ〉ということは伝えたい」

――なるほど。

「いまの世の中、音楽だけでなんとかしようとしてる人が少ないような気がしますね。音楽以外にも話題を作らないと売れないという決めつけがあるような……タイアップとか、ヴィジュアル的な何かとか……それでは音楽が可哀そうだと感じています。逆にせっかく良い曲でも、イメージ的な要素が嫌で素直に聴けないということもあるんじゃないかな。だから、そうじゃないところから出したいという想いは強くありました。それがいまのレーベルから出した理由でもありますね。まさに自由度と、音楽を大切にしている感じ。それならやりたいという気持ちになりました。自由、大事ですよね。危険なこともありますけど、そこは挑戦というか、〈音楽でそれをやらなかったらどうするんだ〉って思います」

『A LETTER』収録曲“Don't Stop”

 

 

<TOWER RECORDS レーベル presents>
THE CHARM PARK & Ryu Matsuyama  リリース記念インストアライブ


●タワーレコード難波店
イベント内容:ミニライブ&サイン会
開催日時:2015年12月13日(日)13:00~
場所:タワーレコード難波店  5Fイヴェントスペース
出演: THE CHARM PARK / Ryu Matsuyama
参加方法:観覧フリー

●タワーレコード新宿店
ミニライブ&サイン会
開催日時 :2015年12月30日(水)16:00~
場所:タワーレコード新宿店 7F店内イヴェントスペース
出演: THE CHARM PARK / Ryu Matsuyama
参加方法:観覧フリー