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Suchmos――間違いなく2015年にもっとも注目された新鋭と言っていい。EP『Essence』、初アルバム『THE BAY』を次々とリリースし、アシッド・ジャズやヒップホップ/R&Bのグルーヴをスムースかつアーバンに今様のバンド・サウンドへ落とし込んだ彼らの音楽は、幅広いリスナーの耳を引き寄せた。決してわかりやすく縦ノリで踊らせる類のスタイルではない。自身の肌感覚のみで誰にも何にも媚びず、ナチュラルに選び取られたその気持ち良い音は、むしろその真逆を行くものだ。しかし、確実に〈いま〉を感じさせるSuchmosのグッド・チューンの数々は真っ当に2015年のポップスとして鳴り、オーヴァーグラウンドに浸透しはじめた。

そして2016年になって初めて彼らが発表する作品が新EP『LOVE&VICE』だ。先立ってミュージック・ビデオが公開された収録曲“STAY TUNE”にSuchmosのこれまでを凝縮し、さらにみずからが信じる〈クール〉の感覚に導かれた新しいSuchmosを提示するナンバーを収めた、思わずガッツポーズでもしたくなる一枚に仕上がっている。そんな今回のEPについて、ヴォーカルのYONCEに話を訊いた。

Suchmos LOVE&VICE SPACE SHOWER(2016)

――昨年はCDデビューを果たして、それまでとだいぶ置かれている状況が変化したと思いますが、振り返ってみていかがですか?

「シングルの『Essence』が4月に出て、アルバムの『THE BAY』が7月に出て、いきなりリッチになったとかそういうことはないんですけど(笑)、その数か月で状況が変わって、〈俺っていま、ミュージシャンなんだ〉という感じになっています、ハハハ」

――だいぶミュージシャンとしての自覚が出てきたところなんですね(笑)。そのおかげでご自身のなかで変わったなと思う部分はありますか?

「自分たちの音楽に込めるものはまったく変わっていないんですけど、音楽に取り組む姿勢というか、ちゃんと音楽をやっていくにあたって直さなきゃいけないなと思う部分は反省して変えていくようになりました。曲を制作するうえで、6人で集まって作業する時間は週に何回か設けているんですけど、それ以外の、家で過ごしている時間こそ重要な部分があることに気付きましたね」

――曲作りはメンバー全員でのセッションが元になるんですか?

「そうですね、ほぼそうです。6人で集まった時に、例えばドラムのOKがこういう(ドラム・)パターンの曲が作りたいとか、ベースのHSUがこのリフ格好良くない?といったところから広げていく作り方をしていますね」

――そういう形だと、その時の各々のモードというか、カッコイイと思っているものがリアルタイムで反映されていきますよね。

「はい。なので〈1か月前と言ってることが違う!〉みたいな、トレンドがみんなのなかでどんどん変わっていくので、それに対して自分がどうアプローチするか、アイデアをそれぞれが出していって曲になっていく過程がすごくおもしろいんです」

2015年作『THE BAY』収録曲“Fallin’”

 

――では昨年YONCEさんが個人的によく聴いていたものは?

「上半期はオアシスレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンとか、スケール感のあるサウンドのものをよく聴いていました。今後自分たちはスケールの大きいバンドになっていきたいという気持ちがあるので、そういう意味で、スタジアムで鳴っているような音が俺の気分にハマっていましたね。あと、冬に入ってからはビートルズ。もちろんビートルズのアルバムはすべて聴いていたんですけど、これまでは往年の大名曲ばっかりやっているバンド、くらいのイメージだったんです。でも音楽の作り方という部分でビートルズのやっていることはやっぱりすごいんだと思って、この曲はどうやって録っているんだろうとか、ここはどういうエフェクトをかけているんだろう、みたいなことを分析するようになって」

――特にどのあたりのアルバムが好きなんですか?

「いちばん好きなのは『Revolver』(66年)。まだマージー・ビートの匂いを残しつつ、だんだんサイケな色も出てきた時期で、あの頃の楽曲がギリギリ素朴に聴こえるというか(笑)。それ以降になるとハッチャケちゃった印象があるんですよね。逆にそれが鎮静化した後の〈ホワイト・アルバム〉(68年作『The Beatles』)も好きなんですけど、あれはもうビートルズのアルバムという感じじゃなくなっちゃってるから、バンドとしてのグルーヴ感がいちばん仕上がっていたのは『Rubber Soul』(65年)や『Revolver』あたりなのかなと。あの頃のビートルズが好きですね」

ビートルズの66年作『Revolver』収録曲“I'm Only Sleeping”

 

――バンド感のあるものがお好きなんですね。

「そうですね。やっぱり誰かひとりがフィーチャーされているより、バンドとして強い音楽が好きなので」

――やはり音楽の聴き方も変わってきましたか?

「もともと歌が良い音楽がとにかく好きなので、歌が良くないと思ったらもうその音楽に対して良い気持ちで聴けなくなっちゃうんですけど、でも最近ようやく、歌はマジで微妙だけどこのパートはイイ、みたいな聴き方ができるようになってきましたね(笑)」

――アハハ、そうなんですか(笑)。では新しいEP『LOVE&VICE』について伺っていきます。今回の作品は全体的に夜っぽい印象を受けました。『THE BAY』は半々というか、“GIRL”のようなカラッとした明るい雰囲気のものもあれば、ムーディーなものまで揃っていましたけど。

「そうですね、『THE BAY』はアルバムなので、12曲というヴォリュームもあって、昼から夜の始めにかけてをイメージした質感になっていたんですが、『LOVE&VICE』はそれと地続きな感じで、深い夜のイメージなのかも、みたいな話をしていて。でもその時点ではまだ入れる曲まで話は及んでいなかったんですが、録る曲を決める段階になってこれは完全に夜だよ、という雰囲気の曲が揃ったので、それに応じてアートワークのほうもバーッとイメージが浮かびました」

2015年作『THE BAY』収録曲“GIRL”

 

――ジャケットに使われているのはどこの写真なんですか?

「これは京浜工業地帯です。“STAY TUNE”の歌詞で言及しているんですが、都会の酔っ払いを敵視している部分があるので(笑)、それを横浜という街から見ている……という感じをイメージしているというか。俺らはそういうところからは距離を置くよ、というスタンスを出したくて」

『LOVE&VICE』ジャケット写真

 

――“STAY TUNE”の歌詞にはそういう皮肉が思いっきり出ていますが、〈東京〉という言葉がSuchmosの曲の冒頭に出てきたことにちょっと驚いたんですよね。

「いきなり〈東京〉っていうワードが出てきたらパンチ力があるよな、という確信めいたものはあったんです。そもそも俺は都会にいたくない派なので、都会的なものを歌うということではなく、金曜日の東京は酔っ払って帰れなくなっちゃう奴ばっかりで、ある意味ゾンビ・タウンだよっていうことを言っていて。渋谷で夜ライヴがあった日の帰りはだいたい終電くらいになるんですけど、その時間に電車に乗ってる人たちは酔っ払ってる奴ばっかりなんですよ、揃いも揃って(笑)。ぶっ倒れてる奴とかもいて、そんなになるまで呑まなきゃいけない状況なのかわからないけど、だからダメなんだよ!と、そういうことを歌詞にしてみた感じです」

――サウンドのほうにもその苛立ちが反映されているわけではないと思いますが(笑)、Suchmosのロッキッシュな部分が窺える曲になりましたね。これはどういう感じで出来上がったんですか?

「4月にJ-WAVEさんの番組のジングル用に曲を作ってほしいという依頼があって、そのために30秒くらいのものを作ったんです。そのメロディーの出来が良かったので、メンバーと話し合って〈これはちゃんと曲にしちまおうぜ〉と。『THE BAY』では自分たちのロックな部分やブラック・ミュージック・ラヴァーな部分といったヴァリエーションを見せていたんですけど、その幅を1曲に集約させたことで『THE BAY』を総括するような曲になったと思います。結果としてですが」

――あ~、確かに!

「それに関しては、『THE BAY』に収録されている“Armstrong”でちょっとトライしているんですが、あの曲はアルバムの彩りのなかに存在して初めて〈これはめっちゃイイ曲だ!〉ってなるんですけど、“STAY TUNE”はそこをひと回りグレードアップさせて、よりロックなアプローチを盛り込むことができたかなと。そういう意味で、去年の夏からのSuchmosを締め括る一曲だと思います。“STAY TUNE”がそういう役を担ってくれているので、逆に“FACE”と“BODY”では攻めたアプローチができました」

――“STAY TUNE”で昨年までのSuchmosを総括しつつ、“FACE”と“BODY”でこれからのSuchmosを予感させる……みたいなイメージですかね。

「そうですね。〈スター・ウォーズ〉の最新作(『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』)は観ました? エピソード4、5、6から観ている往年のファンを満足させつつ、今回新しく加わったキャラクターの物語にも釘付けにしちゃう!みたいな……あんな感じです(笑)」

――アハ、そういう感じかもしれませんね(笑)。それにしても“FACE”は渋い!

「“FACE”は今回の作品のなかで、ある意味キラー・チューンなんですよ。こういう音楽を提案してみたくて。何となくですけど、『THE BAY』にあった煌びやかさというか、〈派手だけどカッコつけてる〉みたいな雰囲気に対して、“FACE”は還暦迎えちゃうのかなくらいの泥臭さ、ブルージーな部分を出したかったんです(笑)」

――なるほど(笑)。還暦とは思わないですけど、非常にシンプルなサウンドではあるものの、聴けば聴くほど味が出てくるような、これまでにない渋味があるなと思いました。

「Suchmosは結成して2年半くらい経つんですが、結成後1年経つか経たないかくらいの頃にはこの曲の原型になるものが存在していて。その原型のメロディーと歌詞だけが生き残って、コードやBPMといったそれ以外の要素を作り直して、いまのアレンジになったんです。かなりシンプルな構成で曲を展開していくところと、俺たちなりのレゲエを提案してみたいというのがあったので、そこに注力して作りました」

――ほうほう、ほんのりレゲエっぽく展開するところがカッコイイですよね! そして“BODY”はまたとてもイイ感じのミディアムで、鍵盤の活かし方なんかはジャミロクワイを思わせますね。

「“BODY”は、なぜかロックに聴こえる……みたいなところを狙いたくて。この曲は昨年の7月頃にはライヴでもたまにやったりしていて、いまこういったゆったりしたテンポ感で、こういう歌唱のアプローチで曲を作れる同世代いるか!というのを提示したかったんです」

※昨年9月に東京・渋谷WWWで行われた『THE BAY』のリリース・パーティーでも披露されており、その模様は『LOVE&VICE』の初回限定盤DVDに収録

――うんうん。こういうテイストの曲を良い塩梅でポップかつスムースに仕立てているところは、だいぶ技ありだと思います。ちなみにSuchmosは、まだ世に出ていない新しい楽曲も結構ライヴで試す派なんですか?

「俺らはバンバンやってっちゃうタイプですね。本当の意味で曲が完成するのはライヴでやってからだと思うんです。ライヴでやらずにレコーディングできるようになるのは、ライヴというものを極めてから、ライヴのあらゆることを知り尽くして、それを脳内で描けるようになってからじゃないとたぶん無理なので。いまは、何ならアレンジが固まってないような段階からとりあえずライヴでやっちゃったりするんですよ。例えば“FACE”がそうなんですけど、レゲエっぽくなる展開の塩梅とかをライヴでアドリブで試してみて、その結果いまのアレンジに落ち着いているんです」

――ではリリース後でも、ライヴを経て曲が変化していくこともある?

「ライヴでやってる曲だと“YMM”や“Alright”“Miree”あたりはどんどん変わってきてますね。“Pacific”も、レコーディングした時は若干ヒップホップのトラックっぽいアレンジだったんですが、いまライヴでは歌もの的なアプローチでやっていたりしていて。ライヴでずっと同じことをやっていると俺たちも飽きちゃうし、それはお客さんにとっても同じだと思うんです。でもいま挙げた曲も、もしかしたらもっと変わることだってあり得るし」

『LOVE&VICE』初回限定盤DVDに収録されている“YMM” 2015年9月のライヴ映像

 

――あと『LOVE&VICE』唯一のインスト“S.G.S.2”もすでにライヴでやっている……というかSEとして使われていましたよね。『THE BAY』にも同じくインストの“S.G.S.”が収録されていますが、そもそも〈S.G.S.〉とは何かの略なんですか?

「これは〈スーパー・ジャイロ・センサー〉の略で、意味は特にないんですよ(笑)。〈なんかすごい言葉だ!〉と、それだけです、ハハハ」

――すご……そうですね。インストは必ず入れていこうというのはあるんですか?

「バンドとして絶対に作らなきゃ!みたいな重たい気持ちではないんですけど、ライヴのイントロとしてかけたり、SEに使ったり、〈ダース・ベイダーのテーマ〉みたいな感じで、〈Suchmos登場! すごいもの観られそう!〉というムードを演出したいという意図ですかね」

――これは最初からインストを意識して作られているんですか?

「そうですね。DJがフィーチャーされる、DJがヴォーカルくらいの仕事をする曲っていうのが絶対に必要だと思っていたので、スタジオでジャム・セッションをしている時にDJのKCEEが〈このネタ、カッコ良くない?〉っていうフレーズをどんどん出していって、それをはめたという感じですね」

――へぇ~、おもしろい作り方ですね。やはり今回の作品を聴いて、ますます新しいアルバムへの期待が高まりましたよ。

「まだ詳しいことは決まっていないんですが、作曲はいまかなりのペースで進めています。ちょっと前まではかなりロックなモードだったので、そういう感じの曲がいくつか出来ているんですけど、最近はSuchmosが流通音源を出す前のドープなセッションを重ねていた時期の音を聴いたりして、〈あれはあれで良かったよねー〉と話しているんです。ふたたびそういうモードが巡ってきているので、これまでに培ってきたエッセンスを加えつつ、新たなアプローチが生まれそうな雰囲気です」

――それはおもしろそうですね! ちなみに、かつてのドープなセッションというのはどういう感じのものだったんですか?

ロバート・グラスパー・エクスペリメントとか、ディアンジェロの『Voodoo』(2000年)のような、スタジオ録音の音源を聴くとかなり複雑な構成で作られているものにすごく影響を受けた時期で、それを反映した曲を自主制作で作っていたんです。その頃の感じをまたやってみたくない?と」

ロバート・グラスパー・エクスペリメントの2013年作『Black Radio 2』収録曲“Calls”

 

ディアンジェロの2000年作『Voodoo』収録曲“Untitled (How Does It Feel)”

 

――“Pacific”あたりを聴くにつけ、Suchmosのベースにあるもののひとつはそのへんなのかなと思っていましたよ。

「ディアンジェロの作品のように、レヴェルの高い楽器陣が揃って彼の歌心を存分に活かした作りのサウンド……そういうところに辿り着くのはもっと後でもいいんじゃないかと、よく話していたんです。だから自分たちでも深く考えずにやっていたんですが、気付いたらそういうトレンドが起きそうな感じなので、いまがその時期なんだろうなと思って。なので、そういうアプローチについてみんなで探っているところです」

Suchmosの2015年作『THE BAY』収録曲“Pacific”