多層構造の物語を〈音楽〉に変換した麗しのポップス!
FLEETの佐藤純一とクリエイティヴ・サークル、s10rw所属のyuxuki waga、そしてSeiho主宰のDay Tripperに作品を残すLeggysaladことkevin mitsunaga。〈ヴィジュアルノベル〉〈アニメ〉〈インターネット〉が共通の志向というサウンド・プロデューサー陣と女性シンガー、towanaから成るユニット=fhánaが、8枚目となるアニメ・タイアップ・シングル“虹を編めたら”を完成させた。溌剌かつナイーヴなコンビネーションを見せる男女ヴォーカル、全編を華やかに彩る管弦楽器、軽やかに疾走する跳ねたビート――弱小の吹奏楽部に入部した高校1年生の上条春太と穂村千夏を主人公とする青春ミステリー「ハルチカ~ハルタとチカは青春する~」のオープニングを飾る表題曲は、多層構造を持つ物語の構成要素がもれなく取り入れられたシンフォニック・ポップだ。
「原作を読む前の状態でキーヴィジュアルを見たときは、まず〈可愛いな〉っていう印象で。ただ、物語を読み込んでいくと〈ミステリー〉〈吹奏楽〉〈青春〉……あと〈ラヴコメ〉っていう要素もあって、その関係性(春太と千夏が男性教諭に思いを寄せる三角関係)もちょっと普通じゃない(笑)。それと、一話一話のエピソードにちょっとヘヴィーな要素も入ってくるので、曲は基本的には爽やかなんだけど、それだけでは終わらないほろ苦さも入ってきたらいいなと思って。あとは春太と千夏が担当しているホルンとフルートや、他の吹奏楽の楽器も結構アレンジに入れて、歌とメンバーのみんなの演奏も含めて、〈アンサンブル〉をいままで以上に意識して作りました」(佐藤)。
「そこに僕は、歌詞からの連想ゲームじゃないですけど、言葉と関連性のある音をまず用意して、それをかなり加工して混ぜる、みたいなことをやっていて」(kevin)。
「そんな感じで音の要素がたくさんあるので(笑)、僕はギターだけを入れてます。Aメロでは僕らの楽器よりも吹奏楽のほうが前に出ていて、Bメロでは別の楽器が出てきて、サビはみんなで、みたいな流れを考えてアレンジしていて、結果的に代わる代わるいろんな楽器が出てくる感じがおもしろくなったんじゃないかなと」(yuxuki)。
「あと、〈ハルチカ〉は春太と千夏の掛け合いみたいな感じでストーリーが進行するので、それを意識して、いままでよりも男性コーラスが多めで、ちょっとデュエットっぽい感じにしています。作った自分が言うのもなんですけど、リズム先行の譜割なので歌うのが難しかった(笑)」(佐藤)。
「そう、歌は〈跳ねた感じで〉っていうディレクションがあって。逆に佐藤さんのレコーディングのときは、私がディレクター席に座って〈ここはこうです〉って教えたり(笑)」(towana)。
七色が平行して架かる虹。それらの色を編み込むことができたら――fhánaのすべての歌詞を手掛ける〈5人目のメンバー〉=林英樹が綴ったリリックも、個々の問題/パーソナリティー……バラバラの〈色〉を持つ吹奏楽部員たちの青春群像劇と美しく連動。ひいては誰もが一度は直面するであろう思春期の光と影が投影された“虹を編めたら”のカップリングには、kevin作の“Appl(E)ication”も収録。ループが主体のセンティメンタルな歌ものエレクトロニカに、〈林檎〉をモチーフとした歌詞があしらわれている。
「Leggysaladとして作っていた頃のようなニュアンスをいつもより入れようと。楽器は曲を流しながらアドリブで弾いてもらって、それをサンプリングして構築していくっていう作り方だったんですけど、想像してなかったフレーズがバチッとハマったときは気持ち良かった。そのやり方って、意外といままでやってないんですよね」(kevin)。
「歌詞はちょっと小難しいような感じなんですけど、fhánaからファンの方に向けたもので。ライヴに来てくれたり、fhánaの曲を聴いてくれる人たちのことを思い浮かべながら歌いました」(towana)。
「そういうテーマに、林さんが〈アダムとイヴ〉とか〈ニュートン〉とかいろいろ絡めてくれて。〈僕らはずっと互いに欠けてはいけない〉っていうところは林さんからメンバーへのメッセージのようにも思えるし、解釈の仕方はたくさんあるなと」(kevin)。
「それで、どうして〈林檎〉なのかっていうと、kevinがApple(製品の)信者だからなんですけど(笑)」(yuxuki)。
アニメと自身、そして聴き手の物語を結び付けるfhanaの音楽。4月には2枚目となるフル・アルバムのリリースや、東名阪ツアーも控えている。
「年末年始は悶々と曲を作ってました。本格的な制作はまだこれからですが……とにかくがんばります(笑)」(佐藤)。