(C)Don Q Hannah
 

生誕90周年を迎えるジャズの帝王、マイルス・デイヴィス
ロバート・グラスパーが一大プロジェクトとして取り組む!

 ロバート・グラスパーによるマイルス・デイヴィス関連のリリースが続く。一つはマイルスの伝記的映画『マイルス・アヘッド』のサウンドトラック、もう一つはマイルスのオリジナル録音を使ったリミックス・アルバム『エヴリシング・イズ・ビューティフル』である。この2作品について、グラスパーへインタヴューをおこなった。

 「スコア担当の依頼を受けたのは光栄なことだった。マイルスは音楽界におけるアイコンだからね。でも、だからこそ若干怖かったけど(笑)。映画も凄く気に入った。マイルスの音楽は型にはまらなかったことで知られるけど、この映画も全然型にはまってない。つまり、マイルスという人間をしっかり捉えた映画だ。そういった思考で観ると更にこの映画が楽しめると思う」

MILES DAVIS Miles Ahead Columbia/Legacy/ソニー(2016)

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 主演・監督・脚本を務めたドン・チードルは、楽器演奏もこなし、グラスパーと綿密に打合せをしてサウンドトラックを作り上げたという。

 「ドンは高校時代にサックスを演奏していたらしい。あと、ベース、ピアノ、ドラムも少しかじっていて、この映画の話が来る前からトランペットも習っていた。だから、今回の打ち合わせも楽だったよ。音楽的にどういうものにしたいか非常に明確なビジョンを持っていて、それをきちんと俺に説明してくれた。それと同時に俺らしさを表現できる空間も残してくれたんだ」

 サウンドトラックはグラスパーが選曲したマイルスの楽曲の他に、新たに作曲されたオリジナル曲が4曲収められている。

 「大勢のアーティストが参加している。マイルスの世界を再現するにあたり、いろんな時代を描写したかったからね。だから1958年のバンド、1964年のバンド、それから70年代のサウンドを再現できるミュージシャンを集めた。特徴あるサウンドを出せるプレイヤーって、ミュージシャンによって違うからね」

 中でもハイライトは、ハービー・ハンコックウェイン・ショーターに、エスペランサ・スポルディングアントニオ・サンチェスが参加した曲《ワッツ・ロング・ウィズ・ザット》だ。

 「夢が叶ってもう感無量だったよ。3日間もハービーの隣に座って話ができる日が来るなんて信じられなかった。その上、ウェイン・ショーターもいてね。彼らの生演奏を目の前で聴くだけで、とにかく悟りを開くような体験だった。俺の音楽キャリアにおける最大のハイライトかもしれないね」

MILES DAVIS,ROBERT GLASPER Everything’s Beautiful Sony Music Japan International(SMJI)(2016)

 一方、エリカ・バドゥハイエイタス・カイヨーテからスティーヴィー・ワンダーまでフィーチャーした『エヴリシング・イズ・ビューティフル』は単なるリミックス・アルバムでもカヴァー集でもない、非常にユニークな作品だ。コロンビア・レーベルのテープ保管庫に残されたマイルスのオリジナル録音を使って再構築されたもので、グラスパーがプロデュースしたマイルス・デイヴィスの新たな作品とも言える内容だ。

 「このプロジェクトではマイルスの多面的魅力を伝えたかった。大半の奴らはリミックス・アルバムを制作するけど、それはやりたくなかったんだ。彼の楽曲はこれまでに百万回もリミックスされてきたし、俺としてはマイルスのお陰で新曲を制作できたという音楽的インスピレーションを示したかった。その方が本当の意味での賛辞だと思うんだ。例えば、他のアーティストに『あなたから音楽的影響を受けてこの曲ができました』と言われる方が自分にとってはより大きな賛辞だからね。そして俺自身が過度に演奏することを意図的に避けた。というのも、今回マイルスのマルチ・トラックを借りることができ、大半は是非それを使いたかったんだ」

 この2作品に関わって、グラスパーは改めてマイルスから学んだことがあるという。

 「マイルスのスタジオ・セッションの様子を録音したマルチ・トラックを使う作業に取り掛かったとき、マイルスが曲間で、テイクごとにバンド・メンバーと言葉を交わしている内容を聞き、それに啓発された。録音されていた会話を聞くことで、彼の仕事の進め方を知ることができたし、自分が求めるサウンドをミュージシャンにリクエストする際にマイルスがどうやってそれを説明するのかがわかり、凄くためになったよ。つまり、今回学んだことは、スタジオ内でのマイルスの操縦役としての数々のアイディアだったんだ」