確かなテクニックで丁々発止を繰り広げるトリオは、言わば変人の集まり!? 絶えず変化し続ける自由奔放なナンバーが伝えるのは……〈楽しい〉が正義ってこと!

 

言ってみれば変人

 H ZETTRIOの勢いが止まらない。2015年から配信リリースを開始したシングルは16曲すべてがiTunesジャズ・ランキングで1位を獲得。2016年に入り、全51公演という全国ツアーを成功させると、前作『Beautiful Flight』から10か月ぶりとなるサード・アルバム『PIANO CRAZE』を完成させた。

H ZETTRIO PIANO CRAZE anaked./キング(2016)

 「去年の年末にPE'Zが16年の歴史の幕を閉じまして、気持ちの整理がついたというか、そこからさらに加速していった感じはあります。ホントにいい形で解散ライヴができたので、ひとつの区切りになりました。まあ、僕らとは別人の話なんですけど(笑)。今年3月からのツアーに関しては、ライヴをしながら新曲を出し続けたので、そのサイクルの速さが心地良かったですね。〈今から昨日出した新曲をやります!〉って言うと、お客さんもワッと盛り上がってくれるし、セットリストがどんどん変わっていくから、僕らとしても新鮮さを保てて、すごくいいツアーになりました」(H ZETT NIRE、ベース)。

 このH ZETTRIOの快進撃は、昨今の国内外におけるジャズ熱の高まりともリンクしているような印象を受ける。日本では鍵盤奏者をフロントマンに据えたインスト・バンドが盛り上がりを見せ、それはどこかPE'ZやSOIL &“PIMP”SESSONS、あるいはSPECIAL OTHERSらが台頭した2000年代前半の空気を思い起こさせる。また、海外に目を移せば、〈ロバート・グラスパー以降〉の文脈が確立し、新たなジャズの潮流を形成。こうした動きとH ZETTRIOの活動がまったくの無関係とは言えないはずだ。

 「ピアノ・トリオを集めた〈Piano Trio Together〉っていうイヴェントをやっていて、今年2月にはまらしぃのトリオ(logical emotion)とfox capture planと我々でスリーマンをやりました。同じ編成なんですけど、サウンドが全然違うっていうのがおもしろかったし、すごく盛り上がったので、これからもっと広げていきたいです」(H ZETT NIRE)。

 「〈グラスパー的なものをやろう〉と思ったことはなくて、あくまで自分から出てきたものを表現したいと思ってるんですけど、既存のものからちょっとはみ出すような解釈をする、ああいうスタンスからは影響を受けてると言えるかもしれません。まあ、僕らは何かから影響を受けたとしても、染まりすぎることはないんです。言ってみれば、変人ってことかもしれない(笑)。だからこそ、独自のところに行けて、それが楽しいから続けられる。〈変人である〉ってことは、結構重要なんじゃないですかね」(H ZETT M、ピアノ)。

 シングルの連続リリースが示しているように、そんな〈変人〉たちだからこそ(?)、彼らの曲作りのスピードは尋常ではなく、初めて3人で合わせてから2時間後にレコーディング、なんていうこともあるそう。その背景にはもちろんそれぞれのスキルがあり、ライヴで培った意思伝達の速さがあり、さらには、いい意味での〈適当さ〉が鍵になっているようだ。

 「〈何が起こるかわからない〉っていう緊張感とか期待感を逃したくないので、それを捕まえるためにはスピード感が必要だし、〈適当〉というスタンスが一番いいのではないかと。もちろん、じっくり考えるときは考えますし、この言葉が合ってるのかはわからないですけどね(笑)」(H ZETT M)。

 「曲のアイデアを持ってくるMさんが〈あ、こんなのもあるんだ〉ってなるような意外性も含めて、いいものにできればなって。だんだんその到達地点にスピーディーにいけるようにはなってきたと思います」(H ZETT KOU、ドラムス)。

 「ライヴとリリースのサイクルが速くなったぶん、〈ここで急にテンポが速くなったら、お客さんが笑うんじゃないかな?〉とか、そういうことがイメージしやすくなって、そこに基準を持っていけると、レコーディングも楽なんです。〈そっちにいけばいいんだ〉って、判断がしやすくなるんで」(H ZETT NIRE)。

 

〈楽しい〉が正義

 〈熱狂〉を意味する〈CRAZE〉が冠された新作には、冒頭に収録されたタイトル・トラックを筆頭に、パンキッシュかつダンサブルな、ライヴ映えのする楽曲を数多く収録。転調やテンポ・チェンジを繰り返し、絶えず変化し続ける自由奔放なアレンジはまさにH ZETTRIO節だ。その一方、アルバム中盤にはよりスタンダードなジャズに近いメロウなナンバーがあったり、ヒップホップ的なアプローチとも言える“MESHI -episode 2-”、親しみやすいメロディーの“夢と希望のパレード”、さらにはPE'Zの代表曲をオマージュ・カヴァーした“晴天 -Hale Sola-”など、これまで以上に幅広い曲調が並んでいるのも大きな特徴となっている。

 「“PIANO CRAZE”はMさんが〈めちゃくちゃでいいです〉くらいに言ってて、ドラムがテンポ・キープするんじゃなく、ピアノとベースの2人にテンポをキープしてもらって、その間俺はずっと遊んでるような感じです(笑)」(H ZETT KOU)。

 「“夢と希望のパレード”は〈マカロン・デイ〉とコラボレートした曲で、僕、甘いものが大好きなので、非常にイメージしやすかったです。ファンタジー的な世界観はすごく好きで、放っとくとこういう方向にいってしまう性分なんですよ」(H ZETT M)。

 「長く応援してもらったバンドに対する想いが、これからも繋がっていくような感じを残せないかと思って、去年の年末のツアーで“晴天 -Hale Sola-”をやったら、お客さんがすごく盛り上がってくれたので、これは音源の形にしようということになりました。そのバンドと僕らは別人なんですけどね(笑)」(H ZETT NIRE)。

 今年はジャズの枠を超えてさまざまなタイプの夏フェスへと出演し、秋にはふたたびワンマン・ツアーを開催。H ZETTRIOの〈CRAZE〉な活動はこれからも続いていく。〈音楽は音を楽しむと書く〉なんて使い古された言い回しだが、2016年においてこの言葉をもっとも体現しているのは、このトリオではないだろうか。

 「ツアーには小さな子供からお年寄りまで、ホントにいろんな方に観に来ていただいていて、こういう状況ってあんまりないなって思うんですよ。なので、これをもっと推し進めて、世界中の人に聴いてもらいたいです」(H ZETT NIRE)。

 「基本的に、〈楽しい〉が正義だと思っていて、聴いてくれる人の笑顔はいつも意識しているので、そういう人がどんどん増えてくれたら嬉しいなって。なので、これからさらに波状攻撃をしていきたいと思っています(笑)」(H ZETT M)。