チェロ界の新星・横坂源と名手・藤井一興によるバッハが登場

 日本のチェロ界は多士済々だが、その中でも横坂源は10代のはじめに協奏曲デビューを飾るなど、注目の演奏家である。すでに録音もリリースしているのだろうと思い込んでいたけれど、今回が初めての録音だと言う。彼が選んだのはJ・S・バッハのガンバ・ソナタである。

横坂源 J.S.バッハ:ガンバ・ソナタ集 Warner Classics(2016)

 「数年前に、NHKの『リサイタル・ノヴァ』という番組の企画でピアノの藤井一興さんと共演する機会がありました。たまたまその時期にバッハのガンバ・ソナタを勉強していたので、その中から抜粋する形で共演させて頂いたのですが、とても素晴らしい経験をさせて頂きました。その後、録音の話が出た時に、ぜひ藤井さんとガンバ・ソナタを共演したいと思い、それが実現したという訳です」

 と横坂。彼は桐朋学園からドイツへ留学し、シュトゥットガルト国立音楽大学、フライブルク国立音楽大学で学んだ。名チェリスト、ジャン=ギャン・ケラスの薫陶を受けたことでも知られる。

 「バッハの無伴奏チェロ曲に関しては、ケラス先生から様々な影響を受けたと思います。ひとつひとつの音に込められた意味など、バッハの音楽は追求すればするほど、深くなりますね」

 バッハのガンバ・ソナタは全部で3曲ある。ヴィオラ・ダ・ガンバは、ソロ楽器としてだけでなく、アンサンブルの低音を支える楽器としてバロック時代に活躍していた。バッハの時代にはその役割がチェロに取って代わられようとしていた。ケーテンの宮廷にバッハが勤務していた時代に、その宮廷に優れたガンバ奏者アーベルがいた。その彼のためにこれらの3曲がまとめられたと考えられている。

 「ガンバ・ソナタは3曲ありますが、それぞれの作品のキャラクターが違うのも面白いところです。第3番(ト短調)は天地創造のようなイメージがあって、人がコントロール出来ない大きなエネルギーの動きがあると感じます。第2番(ニ長調)は天上の音楽というか、地上に足を付けて歩いているのではなく、羽根が付いていたり、なにかを纏っていたりするような感覚があります。第1番(ト長調)は一番人間味がある、人間の情感に直接訴えかける作品で、共感を得やすい作品だと思います。いずれにしても、チェロとピアノ、それもふたつの楽器というよりは、もっと室内楽的な広い世界が存在している作品だと思います」

 初の録音ということで、色々と試行錯誤もあっただろうけれど、横坂の作り出すバッハの世界は、とても色彩豊かで、隅々まで新鮮な音楽が満ちている。バッハの世界を知らない方にこそ聴いて欲しい新譜だ。

 


LIVE INFO.

横坂源 チェロ・リサイタル
○9/22(木・祝)13:30開場/14:00開演
出演:横坂源(vc)藤井一興(p)
会場:相模原女子大学グリーンホール
http://yokosaka-gen.com/

 

TOWER RECORDS INFORMATION

デビューアルバム『J.S.バッハ:ガンバ・ソナタ集』発売記念ミニLIVE & サイン会
○9/14(水)19:30~ タワーレコード渋谷店 7F CLASSICAL FLOOR