世界的ヒット“Ghostbusters”で音楽史に名を残す彼は、敏腕セッションマンにして名プロデューサーであり、女性の心を射止めるスウィートな優男だった。今回は件の映画のリブートをきっかけに、このチャートバスターの魅力を探ってみよう!

 幸か不幸か、もっとも本人らしくない曲が大ヒットして代表曲となってしまうことがある。レイ・パーカーJrの場合、それはリブート版の公開で再注目されている映画「ゴーストバスターズ」(84年)のテーマ・ソングだった。〈ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの“I Want A New Drug”に似せて作ってくれ〉というオファーを真面目に受けた結果、盗作騒ぎで裁判沙汰になってしまった曲でもあるが、レイはライヴのアンコールで同曲を歌うことも多いように、本人的にもこれを現時点でのキャリアの頂点と認めているのだろう。が、仮にその曲がなくても、それ以前から彼の功績は輝かしいものだったのだ。

 54年にミシガン州デトロイトで生まれたレイは、まずギタリストとして頭角を現した。10代で(ハミルトン・)ボハノンのバンドで活動するなかでモータウンと繋がり、インヴィクタス/ホット・ワックスでも仕事をするようになった彼はハニー・コーン“Want Ads”のグルーヴィーなカッティングも弾いていたようで、リズム・ギターの名手として評判に。もう少し年齢が上ならファンク・ブラザーズとして演奏していた可能性もあるが、スティーヴィー・ワンダーの“Maybe Your Baby”(72年作『Talking Book』収録)にてサイケな音色を放った彼はスティーヴィーに影響されて西海岸に移住し、そのバックバンドであるワンダーラヴの一員として以降もスティーヴィーをサポート。後にデニース・ウィリアムスを手掛けるのもワンダーラヴにおける縁だが、“Maybe Your Baby”をカヴァーしたルーファスに“You Got The Love”を提供(チャカ・カーンとの共作)したことでレイはソングライターとしても注目を集めていく。

 マーヴィン・ゲイ『I Want You』などのLAモータウン作品、そしてバリー・ホワイト率いるラヴ・アンリミテッド・オーケストラの作品に同じギタリストとしてワー・ワー・ワトソンやデヴィッド・T・ウォーカーらと一緒にクレジットされたのが20歳そこそこ。70年代中~後期にかけてのレイはさらに仕事の幅を広げ、アレサ・フランクリンやボズ・スキャッグスなどのセッションに参加していく。そうしたなか、レイはハービー・ハンコックの76年作『Secrets』で“Doin’ It”を共作し、リズム・ギターもプレイ。そこでハービーから〈裏方もいいが、自分のレコードを出すべきだ〉と言われたレイはグループを立ち上げる。それがレイディオだった。

 レイディオは、レイを中心に、ジェリー・ナイト、アーネル・カーマイケル、ヴィンセント・ボナムの4人で77年に結成。2作目『Rock On』では、メイン・ヴォーカルのアーネルを残し、チャールズ・フィアリング、ラリー・トルバート、ダーレン・カーマイケルを新たに加えた5人組となるが、サウンドはファンクをベースにしながらもマイルドで、AORに通じるメロディアスな曲が多かった。レイ・パーカーJr&レイディオ名義となった80年の3作目以降はそのカラーがますます濃くなり、レイディオ(Raydio)という名前が示唆するようにレイを中心としたバンドは、マルチに楽器を操るレイのワンマン・プロジェクト的な性格を強めていく。実際、優男ムード漂う甘くぼさっとした声で歌われた4作目からの大ヒット“A Woman Needs Love(Just Like You Do)”(81年)はほぼ独演。ヴォーカリストとしての側面を強調しはじめたあたりも含めて同時期のジョージ・ベンソンにも通じていたが、そんな同曲のポップで洒脱なフュージョン・ソウル感覚を踏襲したのが、ジュニア・タッカーに歌われ、ニュー・エディション版で大ヒットする“Mr. Telephone Man”で、この前後からソロ名義での活動と並行してプロデューサー/ソングライターとしても本腰を入れはじめている。シェリル・リン、ブリック、ダイアナ・ロス、ランディ・ホールなどがレイのバックアップを受け、その多くはレイが70年代に設立したアメレイカン(Ameraycan)・スタジオで録音。後に鈴木雅之もレイ制作のシングル“Love Overtime”(89年)を録音しに訪れたスタジオである。

 映画「ゴーストバスターズ」の主題歌は、そうした裏方仕事やソロ作におけるポップセンスを買われて依頼されたような曲だった。が、それとは別にR&Bシンガーとしての活動は続行。3枚のソロ名義作を出したアリスタを離れて以降も、ナタリー・コールとデュエットしたバート・バカラック制作のバラード“Over You”を含むゲフィン移籍作『After Dark』(87年)、ファーザーMCを迎えてニュー・ジャック・スウィング調のサウンドにも取り組んだMCA発の『I Love You Like You Are』(91年)と意欲的な内容のアルバムを出していく。その後は2006年までソロ作のリリースが途絶えるが、ギタリストとしてさまざまなセッションに参加。近年もボズ・スキャッグスらの作品に関わり、デトロイト時代からの盟友ワー・ワー・ワトソンとは共演曲も発表している。自由でマイペースな活動ぶりだが、これ以上何を書き加えようというくらいの輝かしい経歴にレイ本人も満足しているのだろう。2014年、ハリウッドのウォーク・オブ・フェイムにその名が刻まれた時の笑顔からも、そんな心境が伝わってきたものだ。