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日常のなかで音楽をやっていることに憧れた

――ティーンエイジ・ファンクラブには、ソングライターがノーマン・ブレイク、ジェラルド・ラブ、レイモンド・マッギンリーと3人いますが、それぞれの違いを楽しんだりは?

「正直、そこまで細かくはチェックしていないのですが、でも“Some People Try To Fuck With You”(95年のEP『Mellow Doubt』収録)という曲がすごく好きですね。なぜか(同時期の)『Grand Prix』には入っていないんですが」

95年のEP『Mellow Doubt』収録曲“Some People Try To Fuck With You” 

曽我部のレコード・コレクション。(左から)95年のEP『Mellow Doubt』、97年の7インチ・シングル“Start Again”、92年の7インチ・シングル“Free Again”

――このEPの曲は、すべてノーマンによる作曲ですね。僕はジェラルドの曲も、スウィートかつビートリーで結構好きです。“Star Sign”(『Bandwagonesque』収録)はTFCでもっとも好きな曲の一つですし、“Sparky's Dream”(『Grand Prix』収録)の歌声も良い。そして、レイモンドはちょっと不思議な曲が多い印象。曽我部さんは、メンバーと交流もあるんでしょうか?

「〈サマソニ〉で来日したときに楽屋で会うことができて、〈こんにちは〉と挨拶しました。すごく感じの良い人たちでしたね。2000年だったかな」

91年作『Bandwagonesque』収録曲“Star Sign”

――ちょうど曽我部さんがコメントを寄稿されたアルバム『Howdy!』を出した頃ですよね。ライヴの印象はどうでした?

「印象は……良くも悪くも普通というか」

――ハハハ(笑)。

「あのあたりから、楽曲も金太郎飴状態ですよね」

2000年作『Howdy!』収録曲“I Need Direction”

――確かに(笑)。サニーデイ・サービスの音楽性に、TFCの影響はありますか?

「すごくあるんじゃないかなと思います。例えばギターのストロークだったり、アルペジオでもちょっと歪んでいたりというのは、間違いなくTFCを筆頭としたあの頃のギター・バンドの影響ですね。いまでもTFCのことは結構意識しています。実を言うと、僕はバーズなんかを本格的に聴く前にTFCを聴いていたんですよ。いや、もちろん中学生の頃から60年代のロックは聴いてましたけど、どこか遠い存在という感じがして。でも、TFCやプライマルローゼズを聴いてから、もう一度60年代ロックに向き合ってみると、全然聴こえ方が違ったんです」

サニーデイ・サービスの97年作『愛と笑いの夜』収録曲“白い恋人”

サニーデイ・サービスの2016年作『DANCE TO YOU』収録曲“パンチドランク・ラブソング”

――なるほど。同時代という感じはしましたよね。では、TFCの新作『Here』についての感想を聞かせてください。

「まずジャケットが素晴らしいですね。TFCくらいの年代のアーティストはいまどんなことを歌っているんだろう。(ライナーの対訳をじっくり読みながら)うん、やっぱり良いなあ。結局は〈人生〉を歌っているんですよね。確かパステルズの音楽も〈人生〉がテーマでしたよね。夜が来て、好きな女性がいて、そこに音楽が流れて、みたいな(笑)。スコットランドへ行くと、そういうゆったりとした時間の流れを感じますよね。彼らの音楽は、こういう場所から生まれているんだなあと思う」

2016年作『Here』収録曲“I’m In Love”

――スコットランドは、イングランドとは趣が全然違いますよね。人もすごく親切だし温かい。曽我部さんは、スコットランドには何度か行かれました?

「僕は数回行った程度ですけどね。確か2000年が最後だったかな。トラッシュキャン・シナトラズに会いに行って、一緒にセッションしたこともあります。エジンバラにも足を延ばしましたが、なかでもグラスゴーは特別な空気がありました」

――学生街みたいな感じというか。

「ああ確かに。おしゃれな学生街という感じ」

――モノレール・ミュージックへは行きました?

※パステルズのスティーヴン・パステルが運営しているレコード・ショップ

「行きました。僕が行った頃はまだ小さいレコード屋さんでね。ちょうどパステルズとライヴをやる機会があって、その直前に行ってたから、挨拶しに行こうとなって。お店にはスティーヴンもいましたが、なんか変な感じでしたよ」

パステルズの2013年作『Slow Summits』収録曲“Check My Heart”。同作のリリースに合わせて曽我部とカジヒデキが行った対談はこちら

――TFCのメンバーも、普通に街を歩いていそうですよね。そういうところも曽我部さんっぽい。曽我部さんも下北沢を歩いてたら会えそうですし(笑)。

「うん、僕もそういうのに憧れていますよ。スコットランドへ初めて行って、トラッシュキャン・シナトラズに会ったときも、そういった良い空気感をものすごく感じたな。彼らは自宅の2階をスタジオに改装して、そこで作業をしているんだけど、レコーディングの途中で、ちょっと飯を食いに行こうとなって、近所の中華料理店にみんなで行くと、そこのお婆ちゃんは彼らのことを子どもの頃から知っているんですよ。〈あら、また来たの〜?〉と出迎えてくれる」

――ほのぼのしますね。

「そういう日常のなかで音楽をやっているのがすごく羨ましくて。いま思うと、そのときに憧れたスタイルを僕は続けているのかもしれないですね」

トラッシュキャン・シナトラズの90年作『Cake』収録曲“Obscurity Knocks”のパフォーマンス映像

 

若者は新作『Here』を聴かなくていい!

――TFCを聴いて良いなと思った人に、曽我部さんがオススメのバンドを挙げるとしたら?

「実は似たバンドがあんまりいないですよね。サラのバンドとかは影響を受けてそうだけど」

※87~95年に人気を博した、ブリストルが拠点のインディー・レーベル。フィールド・マイスやアナザー・サニー・デイ、ヘヴンリーなどのリリースで知られる

ヘヴンリーの92年作『Le Jardin De Heavenly』収録曲“Our Love Is Heavenly ”

――『Teenage Symphonies To God』(94年)の頃のヴェルヴェット・クラッシュあたりはどうでしょうね。

「精神的に似たところはあるけど、ヴェルクラのほうがヤンチャでフレッシュな気がするな。TFCはどこか達観しているというか」

ヴェルヴェット・クラッシュの94年作『Teenage Symphonies To God』収録曲“Hold Me Up”

――ああ、確かにそうですね。絶望でも諦観でもなく〈達観〉というのは、彼らのスタンスにぴったりの言葉だと思います。

「TFCの音楽は、ちゃんと風景を描けているんですよね。希望や物語を、変に脚色していくんではなくて、風景として描いているように思います。『Songs From Northern Britain』とかはジャケットからしてそうだし、そんな感じがするな。で、そこが良いんですよね。普通というか、小津安二郎的というか(笑)。ミュージシャンとして、こういうあり方が良いなと思う。彼らは、そろそろ50歳くらいですよね。今回のアルバムは6年ぶりでしたっけ?」

97年作『Songs From Northern Britain』のジャケット画像

――そうですね、その前の『Shadows』は5年ぶりでしたし(笑)。

「パステルズやトラッシュキャン・シナトラズもそうだけど、のんびりしてますよね。ホント羨ましい。普通はこのペースで活動してたら、メンバーの誰かが食いっぱぐれますよ(笑)」

――ハハハ(笑)。

「だけど全然焦ってないですよね。すごく良いなと思う。このくらいのペースで良いんじゃないかな? 僕もいまはやりたいことがあるから精力的に作っていますけど、本来の形として〈歌はそんなに(多く)いらないんじゃない?〉と思うところはある。何十曲、何百曲あったとしても、心からみんなに愛される歌は3曲くらいかもしれない。それだったらTFCのように5、6年に1枚のペースでじっくり作って、たまに送る手紙のように作品を届けられたら素敵だなと思う。1日中LINEをやり取りするような関係じゃなくてね(笑)。歌詞を見て、〈ああ、元気にしてるんだな〉〈こんな夜を過ごしてたんだな〉と想いを馳せるような。音楽との関係も、本来そうあるべきなのかなって」

――確かにそうですね。

「熱狂のなかで迎え入れられるアルバムというよりも、世界中にファンがいて、静かに浸透していく音楽なんじゃないかな。こうしてまた彼らの音楽が生活に入ってきて、ちょっとしたエネルギーになったり、日々を彩ってくれたり。さらに何度も繰り返し聴きたくなる曲を見つけられたら最高じゃないですか。そういうスタンスで活動し続けてくれるTFCは、ありがたい存在だなと思います」

――若いリスナーは、今回の新作をどんなふうに聴くんでしょうね。

「聴かないでしょう」

――え(笑)!?

「聴かなくていいよ。早い早い! 10代後半や20代前半の子たちはまず『A Catholic Education』や『Bandwagonesque』から聴けばいい。だって僕も20代の頃は、ニール・ヤングの当時の新作じゃなくて、彼が僕と同じ20代の頃に作ったアルバムを聴いていたから」

――確かにそうですね。『After The Gold Rush』(70年)や『Harvest』(72年)とか。

「でしょ? それで、だんだん追いついていって、〈あ、いまこんなことやってんだ〉とか〈こんな人生を送ってるんだ〉と理解していったじゃないですか。なので、若者たちは、まず初期のアルバムを聴いてください(笑)。でもさ、それだけの歴史があるのもすごいよね。10代後半くらいの子たちにとって入り口になる曲もあれば、僕ら40代が共感しながら聴ける新作もある。流石キャリア30年のバンド。そんな人たちってあんまりいないですよね」

2016年作『Here』収録曲“Thin Air”

 


LIVE INFORMATION

Hostess Club & Creativeman Presents Teenage Fanclub
2017年3月3日(金) 神奈川・横浜BAY HALL
2017年3月4日(土) 東京EX THEATER ROPPONGI
2017年3月5日(日) 大阪・梅田CLUB QUATTRO
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サニーデイ・サービス TOUR 2016
2016年10月21日(金)大阪 umeda AKASO
2016年10月28日(金)岡山 CRAZYMAMA KINGDOM
2016年11月3日(祝)札幌 PENNY LANE 24
2016年11月6日(日)仙台 Rensa
2016年11月12日(土)広島 クラブクアトロ
2016年11月13日(日)福岡 BEAT STATION
2016年11月19日(土)高松 DIME
2016年11月20日(日)名古屋 クラブクアトロ
2016年11月23日(祝)京都 磔磔
2016年11月26日(土)新潟 GOLDEN PIGS RED
2016年11月27日(日)金沢 AZ
2016年12月14日(水)、15日(木)東京 恵比寿リキッドルーム
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