西ドイツから生まれた実験的ロックをこれほど異なる魅力的なものにしているのはいったい何か

 60年代末から70年代を通じて、当時の西ドイツに生まれた実験的ポピュラー音楽「クラウトロック」は、サイケデリック・ロックプログレッシヴ・ロックテクノ・ポップ、 といった米英の同時代音楽との類似点を持つものとされてはいるが、その出自と独自の歴史的背景ゆえに、それらとはまったく異質なものとして発展した音楽である。それは、本書でも確認されているように、同時代の西ドイツでさえそれを知る人は少ない非常に少数派の音楽であったが、パンクの時代以降、英国のミュージシャンにより、ある種の平行世界の同時代音楽として再発見された。80年代にはその平行世界は、ノイエ・ドイッチェ・ヴェレとなり、同時代のオルタナティヴとして合流し、以降、ニューウェイヴエレポップなどへと展開していく。

デヴィッド・スタッブス,小柳カヲル フューチャー・デイズ――クラウトロックとモダン・ドイツの構築 ele-king books/Pヴァイン(2016)

 「クラウトロック」は、日本で言うところの「ジャーマン・ロック」と同義でありながら、その名称によって特異性をより強調しているのは、ドイツ人はその名称を批判する権利がある、とされるような、「ロック」に対する英国からの視点が含まれているからだ。しかし、その異質さとは何に由来するのか。本書では、それを、戦後史における当時の西ドイツのおかれた文化的状況と、個々の代表的なアーティスト、グループから照射する。

 多くのグループはたしかにヒッピー文化などの対抗文化から影響を受けながら、しかし、反ナチスとしてのアヴァンギャルドを標榜することによって、シュトックハウゼン、ボイス、といった現代音楽、現代美術、さまざまな同時代芸術のヴォキャブラリーが動員されたこと、などが「クラウトロック」の特異性を醸成した。ラディカリズムとしての音楽は、いわば「ロック」に対するカウンターでもあったが、そもそもラディカルであることがその存在意義であるような音楽でもあった。本書は、そこに見出せる理念のようなもの、それこそが「クラウトロック」の謂であるということを教えてくれる。

2015年に制作されたクラウトロックのドキュメンタリー