Page 2 / 2 1ページ目から読む

 

バンド名を変えてもいいぐらいの気持ちでいた

――最初にも話に出たように、今回はクロさんの歌もだいぶ変わりましたよね。よりリラックスしたものになっていて、以前の声を張る歌唱法とはかなり違っている。

クロ「すぐ喉を壊しちゃうようになったのも(歌い方を変えた)理由のひとつではあるんですよ。あと、そもそも話し声は低めだし、趣味で宅録をやってるときは話し声に近い歌い方だったので、だんだん〈このほうが聴いていても気持ち良いな〉と思うようになって。それと、ライヴ用のコンデンサー・マイクを買ったんですけど、感度の良いマイクに対して近いところでボソボソ歌うっていうのにハマって、こういう歌い方を見つけたということもあります」

――“CANADA”や“greedcity -the theme of lisa-”の歌唱には自然とR&Bのフィーリングが滲み出てますよね。

クロ「好きで聴く音楽は圧倒的にブラック・ミュージックが多いので、意識してないと曲に依存してそういう歌い方になっちゃうことはあります。でもどちらかと言うと、今回はタイトル曲の“newpoesy”以外は、むしろ意識的にあまりR&B寄りにならないようにしたつもりで」

――どうして?

クロ「あんまりR&B調の歌い方になると自分の場合はアイデンティティーが見えなくなるというか。聴くこととは別で、自分が歌うことと関係ないものになってしまう気がして。“コーヒーピープル”でやったような、ベタっとしたルーズな歌い方や歌詞の乗せ方は日本語っぽくて楽しいし、あんまり洗練されすぎないほうが自分の好みというのもある。そういう自分の声の特性も、最近好きになってきました」

――ハーモニーのあて方もいままでとは違っていて、より凝ったものになってますよね。クロさんは2015年から吉田ヨウヘイgroupのサポートを務めていましたけど、そちらでの経験が影響してるんじゃないかと思ったんですけど。

クロ「うん、あると思いますね。(吉田ヨウヘイgroupには)音源にせよライヴにせよ、どっぷり関わっちゃったので。私も吉田さんもダーティ・プロジェクターズが好きで、吉田さんも楽曲のなかでコーラスの比重を大きく考えている人だし、いちばん最初はそこで意気投合したんです。(ハーモニーを)重ねること自体は私も宅録でやっていて、声だけで構成された曲を作ったりしてました」

吉田ヨウヘイgroup の2015年作『paradise lost, it begins』収録曲“間違って欲しくない”
 

高橋「いままでの曲は楽器の音数も多かったので、コーラスを重ねにくかったということはあると思いますね」

――楽器の音数が少なくなったぶん、コーラスを重ねる隙間が出来たという。

高橋「そうですね」

『NEWPOESY』収録曲“アンブレラ”
 

――そういうこともあるのか、今回はこれまでの作品以上にクロさんの歌に比重を置かれている印象があるんですよ。

高橋「歌の音量自体はかなり小さいんですよ。ベースのほうが全然大きいぐらいで。ただ、もともとメンバー全員オラオラ前に出るタイプじゃないし、柔和な人ばかりなので、気が付いたら自然にバッキングに回っちゃうというか(笑)」

――なるほど(笑)。

高橋「あと、クロちゃんの歌い方の変化は彼女がライヴでOP-1というシンセを弾くようになったのがデカイかもしれませんね。いままではトラックをガッチリ作って、その上にメロを乗せてたので、トラックとメロが喰い合うようなバチバチ感があったんですが、いまはデモの時点でクロちゃんが弾きながら作ってたりするんで、無理して鳴らしすぎないし歌いすぎないというか、ライヴ演奏するという身体性を持ったうえで曲を作るようになったのかも」

クロ「シンセを弾くことで歌い過ぎなくなりましたね。“greedcity -the theme of lisa-”のサビにいくところで歌わないアレンジとか」

――“newpoesy”なんてほとんど歌ってないですもんね。

クロ「そうなんですよ。私はもともとシンガー・ソングライターに対するコンプレックスがあって」

――ほうほう。

クロ「自分の歌を歌い出したところからじゃなくて、遊びでトラックを作り出したことからキャリアが始まってるんですよね。だから、歌うことに対してあまり自覚的じゃなくて、それこそ『meteorite』の頃なんて〈私、歌い手じゃないし〉みたいな逃げの意識もどこかにあったんですよ。でも一方では弾き語りをできる人への強烈な憧れがあって……。大森靖子さんを知ったときはすごく感動した。あと、ある意味トラップとか〈俺様はこうだ〉っていう衝動的な言葉がひたすら曲を支配している感じがするものにもインパクトを受けて(笑)」

――ちょっと意外な感じもするけど。

クロ「あと、詞が先にあって、そこからメロディーを作っていくという作曲法のほうが有機的というか、説得力を持たせられるという実感があるんです。今回、完全に詞先の曲はないんですけど、歌はなるべくトラックに支配されない強いものになれば素敵だなと思っていました」

――歌詞が日常的なものになっていることもあって、いわゆるシンガー・ソングライター然としたニュアンスも今回は強く感じたんですよね。これまでのSF的な歌詞とはだいぶ変わってきたというか。

クロ「いまでも(SF小説)は読みますけど、昔は歌詞に困ったときの元ネタとして採り入れていた側面があったんです。今回はその必要がなかったので結果的に変わったように思います」

――そうしてポロッと出てきた言葉がこうした日常的なものだった、と。

クロ「そうですね。今回は歌詞を書くときに前よりも肩の力も抜けていて、考えすぎずに済みました。友達から聞いたおもしろい話やカジュアルなこともようやく歌えるようになって。そういう言葉が合う曲が出来たということも、自分にとっては大きいです。前は曲のスケールが大きくて、荘厳な大舞台を用意されていた感じもあったので、無意識的に立派なことを歌わなきゃいけない気がしていたのかも」

2014年のシングル“クライマクス”
 

――ああいうドラマティックな曲調だとなかなかコーヒーのこととか歌えないですよね。

クロ「そうですね(笑)。最近はラクな気持ちで歌詞を書いてます」

――“sweetcigarrettes”は英語詞ですね。

クロ「とある映画の主題歌をやることになって、合わせて挿入歌候補の曲をいくつか作ったんですよ。“sweetcigarrettes”はそのうちの1曲で、スモーキーでコテコテのロックステディを狙って作りました。ただ、私たちがそれをいまやる意味としては、由緒正しくと言うよりふざける目的のほうが大きかったので、わざと時代感の間違ったシンセを入れてみたり」

高橋「映画の劇伴っぽいストリングスを入れてみたりね」

――ヴィンテージなロックステディに行きそうなところを、あえて行かないというのもまたTAMTAMらしさですね。

クロ「そうかもしれないですね。時代考証を間違ったロックステディをめざしました(笑)」

――ラストの“自転車ジェット”も曲調そのものはレゲエ的じゃないですけど、ドラムはルーツ・レゲエの必殺パターンをあえてやってる感じがしたんですよ。ミリタント・ビート的なフィルとか。

高橋「そうですね。ただ、“コーヒーピープル”はレゲエに寄せてる感じはありますけど、“自転車ジェット”はレゲエとしてはちょっと妙なバランスになったと思うんですよ。演奏自体はレゲエのパターンに近いですけど、曲そのものはレゲエに寄せないようにしました」

ミリタント・ビートの発明者と言われるドラマー、スライ・ダンバーを擁するレヴォリューショナリーズの78年作『Reaction In Dub』収録曲“Reaction Dub”
 

――やっぱりそこが独特のおもしろさになってるんですよね。レゲエにすべてを寄せるのはいくらでもできるんだけど、あえてやらない。そうやって新しい音楽の形を創造しようとしている。

クロ「今回ベースを弾いてくれた溝渕(匠良)さんは、それまで完全に面識がない人で、SuiseiNoboAzの元メンバーという経歴から完全にロック的な才能を持った人だと思って誘ったんですよ。でも、最初に呑みに行ったときに好きな音楽を訊いたらプリンスKIRINJIという意外性を持っていて(笑)。演奏を聴いても、やろうとしていることにすごく共感できた。クセは強いんですけど、TAMTAMでやろうとしている音楽にはそれもしっくりきてて、“自転車ジェット”みたいな曲調のときには、1人で変なグルーヴを作ってくれたから相当助かりました。そうした土台の強さがあるから、上モノで崩すこともできたし、すごく良かったです」

高橋「今回はバンドの好みプラス、関わってくれた人たちが持ち込んでくれたものによって、出来上がったアルバムという感覚はありますね」

――考えてみると、前のアルバムから2年でここまで新しいTAMTAM像を作り上げたわけで、それって凄いことだと思うんですよ。

クロ「多少は成長したところはあるかもしれないけど、前の自分たちに未練を残さなかったのも良かったと思ってるんですよ。溝渕さんに弾いてもらうようになってからライヴで一切前の曲をやらないことに決めたし、バンド名を変えようかという話もあったぐらいで」

――そうなんだ!

クロ「ただ、思いついたバンド名が全部ダサくて(笑)」

高橋「クロちゃんに〈TAMTAM JUNIOR HIGH SCHOOLはどう?〉って言われて、絶対にイヤだ!って(笑)」

クロ「全力で止めてくれて本当に良かった(笑)。まあ、バンド名を変えてもいいぐらいの気持ちではいた、ということですよね」 

 


<TAMTAM 『NEWPOESY』 Release Tour>

日時・会場:10月2日(日)茨城・古河SPIDER
〈Shower of Music vol.68〉
共演:MAGIC FEELINGA Month of SundaysVulpes Vulpes Schreckt/ Shower of Music(DJ)

日時・会場:10月22日(土)大阪・南堀江socorefactory
〈スキマuramado産業 TAMTAM×キツネの嫁入りW Release PARTY osaka!〉
共演:キツネの嫁入りThe sankhwa and more

日時・会場:11月4日(金)東京・渋谷TSUTAYA O-nest
共演:TempalayDyyPRIDE(from SIMI LAB

★各公演の詳細はこちら