(左から)クロ、高橋アフィ

 

 〈21世紀ダブ・バンド〉を標榜するTAMTAMは、2008年12月の結成以来、順調な活動を続けてきた。2014年にはミニ・アルバム『For Bored Dancers』でメジャー・デビュー。同年9月には一段とスケール・アップしたフル・アルバム『Strange Tomorrow』を発表し、広く話題を集めた。

だが、そんな最中に小林樹音(ベース)の脱退が発表。その後サポート・メンバーを加えてライヴ活動を再開し、レーベルを移籍して今回の新作『NEWPOESY』を完成させるまでには、前作から約2年の歳月を要した。ハイエイタス・カイヨーテジ・インターネットと比較されるであろう現代のグルーヴと音像をまとって再登場した新生TAMTAMのニュー・アルバム『NEWPOESY』。その内容について、クロ(ヴォーカル/トランペット/シンセサイザー)と高橋アフィ(ドラムス/プログラミング)の2人に話を訊いた。

TAMTAM NEWPOESY Pヴァイン(2016)

メンバー全員、好きな音楽ジャンルは〈新譜〉だと思う

――まずは2年前の前作『Strange Tomorrow』の話をしたいんですけど、あのアルバムでやろうとしたのは、どのようなものだったんでしょうか。

高橋アフィ「いま思うと、力みまくって攻撃的な音をやろうとしてたんでしょうね」

クロ「ロック・バンドのフォーマットで打ち込み的なものをやろうしていたというか、その方向でロック・バンドのなかで戦っていこうという感じでした。圧を出して観るものを圧倒していこう、そういう話はよくしていましたね。ただ、その方向は『Strange Tomorrow』でやりきっちゃった感覚があったんですよ。それから新作に収録した“星雲ヒッチハイク”の原型が出来て、少し緩い曲調のほうがバンド内では楽しくなってきたんです。私もそれまでの声を張りまくったやり方より、もう少しリラックスして歌いたい気分になって」

2014年作『Strange Tomorrow』収録曲“エンターキー”
 

高橋「前のアルバムは、バンド的にはいちばんロックっぽい内容だったけど、あれ以上ロック・バンド的な方向に行くのが自分たちに向いてるとは思えなかったんですね。そういうときに“星雲ヒッチハイク”が出来たんです」

――去年の3月にベースの小林樹音さんの脱退が発表されましたけど、彼が抜けて曲作りの方法に変化はありました?

高橋「実はそれほど変わってないんですよ。基本的に誰かがデモを作ってきてスタジオで揉んで、というやり方はそのままですね。だから『Strange Tomorrow』からシームレスに繋がってるところもあって」

クロ「音楽性にしても、実ははっきり舵を切ったというよりも自然にこうなっていったというか。ただ、もともとベースがいないと成り立たない音楽をやってるのにベースがいなくなったわけで、〈さあ、どうしよう?〉とはなりましたね」

高橋「とはいえ、ベースを探すのに1か月かかって、3か月後ぐらいには(新編成で)ライヴをやってたので、そんなに間は空いてないんですけどね」

――ファースト・アルバムの『meteorite』が出たのが2012年5月で、ここまでの4年間、ものすごくいろんなことがありましたよね。

クロ「そう考えてみるといろいろありました」

高橋「自分たちからしてみるとそれほど変わらずにやれてるところもあって。いろんなことがありましたけど、毎回自分たちが納得できるものはやれていると思うし」

2014年のライヴ映像
 

――『meteorite』以降は音楽面でもかなり変化してきましたよね。

高橋「放っておくとそうなっちゃうんです(笑)」

――〈前とは違うことをやろう〉という意識があったわけではない?

高橋「そうですね、そういう意識はないです。周りの音楽シーンもどんどん変化しているし、そのなかでやっていると自然と変わっていくというか。冷静に考えてみると、同じメンバーとよくもこれだけいろんなことをやろうとするよな、というのはありますけど(笑)。その意味では、いろんな音楽を好きなメンバーが集まっているという点は大きいとは思いますけどね。あと、みんな〈新譜〉が好きなんですよ。好きな音楽ジャンルは〈新譜〉っていう(笑)」

――なるほど。

高橋「ただ、昔は流行ってるからやってるというより、おもしろいものを自分たちなりに消化してやろうという意識が強かったんですよ。流行ってるものと同じ音を鳴らしたいっていうのではなく、自分たちならこう吸収してこう表現してやるぜと。今回のアルバムにもそういったところはあるし、参考にしたものを2、3ヒネリした結果、いままで以上にTAMTAMのキャラクターが出たものになってるとは思います」

――資料にはハイエイタス・カイヨーテやジ・インターネットの名前が書いてあるけど、確実に〈いまの音〉だなと思ったんですよ。特に音の質感が。

高橋「そこはエンジニアの中村公輔さんの力が6、7割あると思います。ミックスの前の段階で、スタッフも交えて〈最近出たこの曲が良くて、こういう音にしたい〉と参考音源を持ち寄ったんですよ。10曲ぐらい集まったんだけど、それがヒップホップばっかり。しかもトラップやアンビエントが多くて、ブッチャー・ブラウン以外バンド音源がなかった(笑)。ヒップホップやエレクトロといった打ち込みの音楽を踏まえた演奏を、そういう音楽と戦うように鳴らせているバンドと言ったら、ブッチャー・ブラウンとバッドバッドノットグットぐらいしか思いつかなかったんです」

ブッチャー・ブラウンの2014年作『All Purpose Music』収録曲“Cairo” 
バッドバッドノットグッドの2016年作『IV』収録曲“Chompy's Paradise”
 

――具体的にはどのような音をめざしていたんですか。

高橋「ベードラ(バスドラム)が太くて歪んでいて、上モノはシルキー。そういうバランスにしようとなったんだけど、それがなかなか大変で」

クロ「ただ、最終的に落ち着いたバランスの方向性は、ライヴでやってるバランスに近かったんですよ」

高橋「こねくりまわした結果、自分たちが出したかった生演奏の質感に近かったという」

――それはおもしろい話ですね。

クロ「そうなんですよ。これまでのコンプ(レッサー)がバッチバチにかかった音からは逸脱したかったんですけど、そのままだと土臭いものになっていきそうだし、実際そういうミックスも一度やってもらったんです。ちょっとサイケ・バンドっぽい土臭さのあるミックスというか。でも、そこからもう少しトビが欲しくなって」

高橋「いま考えるとめちゃくちゃ面倒なお願いの仕方なんですよ。打ち込みみたいな音にしたいんじゃなくて、打ち込みの気持ち良さを活かしたバンドの音にしてほしい、とお願いだったんで。やっぱり打ち込みの音そのままだとちょっと違うんです」

クロ「ビートの存在感は打ち込み的にしてほしいんだけど、生音の質感も活かしてほしくて、上モノは過剰な天井の高さというかケミカルさがあり、歌はそのなかで浮かないくらいにはハイファイだけどどちらかと言うと生々しさを……とか」

高橋「そういう細かいお願いをたくさんしたんです(笑)」

クロ「ただ、その時点では自分たちもめざすべき音の質感は見えてないんですよね。参考音源の音を自分たちで解析しつつ、〈たぶんこういうことだと思うんですよね〉と作っていった。だから、今回はミックスでアルバムそのものの方向性が決まったと言ってもおかしくないんですよ」