Photo by Taku Fujii

ここ数年の国内外における快進撃は言うに及ばずではあるが、今年はさらにその規模を拡大したBABYMETAL。4月にセカンド・アルバム『METAL RESISTANCE』を世界同時リリースし、日本のみならず欧米各国のチャートを席巻し(USビルボード総合チャートでは39位に!)、それを引っ提げたワールド・ツアーはイギリス、ドイツ、フランスなどヨーロッパを中心に、アメリカや日本(東京ドーム2日間で計11万人動員)で開催された。その合間にはUKの〈Download Festival〉など欧州各地の大型フェス、日本では〈フジロック〉〈サマソニ〉〈RISING SUN〉〈ROCK IN JAPAN〉の4大フェスに総出演と、なんだかもう途轍もないことになっている。さらに12月にはレッド・ホット・チリ・ペッパーズのUKツアーのゲストとして共に回るほか、米ワーナーブラザーズの短編アニメーション化が決まるなど、スケールが大きすぎてなぜか汗が……。

そしてこのたび、激動のワールド・ツアーのオープニングを飾ったロンドンはウェンブリー・アリーナでの日本人初の単独公演が、『「LIVE AT WEMBLEY」BABYMETAL WORLD TOUR 2016 kicks off at THE SSE ARENA, WEMBLEY』としてDVD/Blu-ray化される。ウェンブリー・アリーナとはロンドンで3番目の規模だという屋内競技場で、キャパは12,500人。そんな大きな会場にもかかわらず、表情を引きつらせることなく時にキリッと、時にキュートすぎる笑顔を振り撒いて歌い踊る堂々としたパフォーマンス――数々の大舞台を踏んできたとはいえ、まだ10代の女の子たちであるからして……末恐ろしい。そして今回は、かねてよりBABYMETALラヴァーを公言するジャズ・ピアニストの西山瞳氏にこのエピックな公演をレヴューしてもらった。自身もメタルをジャズ・カヴァーするピアノ・トリオ=NHORHMを率いて、BABYMETALはカヴァー済! メタルへのリスペクトが深いからこそのパッション溢れる内容なので、ぜひ読んでみてほしい! *Mikiki編集部

BABYMETAL 『「LIVE AT WEMBLEY」BABYMETAL WORLD TOUR 2016 kicks off at THE SSE ARENA, WEMBLEY』 トイズファクトリー(2016)

BABYMETALのコンサートに行ったり、何かイヴェントがあるごとに、得難い興奮に襲われ、勢いに取り憑かれたままブログを書くということを繰り返していたら、Mikikiから招集がかかりました(なぜか、アニメとアイドルで声がかかるMikiki)。

私のブログは、主に真面目なジャズ・リスナーの皆さんが見てくださっているので、〈西山さん、どうしてしまったんですか!?〉と言われることも、多々あります。
しかし、BABYMETALを体験するとですね、
〈私もメタル・レジスタンスしなければいけない……〉
と、キツネの神様に取り憑かれてしまうのですよ。

Photo by Taku Fujii

今年4月2日、数々の世界的なアーティストが公演を行った、イギリスの聖地・ウェンブリー・アリーナのステージに、BABYMETALが立ちました。その前日には、2枚目のアルバム『METAL RESISTANCE』が発表されたばかり。そう、ウェンブリーを満員にしたのは、まだ実質アルバム1枚しか発表していない、10代の女の子3人から成るグループだったのです。

BABYMETAL 『METAL RESISTANCE』 BMD FOX/トイズファクトリー(2016)

当日は、日本でもライヴ・ヴューイングが各地で行われました。私は残念ながら仕事で行けませんでしたが、SNSなどを見ていると、行った方の興奮が尋常でなく、〈しまった、乗り遅れた……〉との想いで、唇を噛んでスマホを見ていたわけです。
そのライヴが、ついに映像化されます。

Mikikiをご覧の皆さんは、アイドル、メタルとは縁遠い方も多いかと思います。
〈いろいろ話題になっているけど、BABYMETALって、何?〉
との問いに、躁状態の私であれば、真顔で〈現代の巫女です〉と答えるところですが、〈アイドル・ポップとヘヴィ・メタルの融合した音楽で、プロデュースから音楽の内容からアイドルとしての完成度、ライヴ・パフォーマンスまで、クォリティーが恐ろしく高い異形のもの〉というところでしょうか。

2014年作『BABYMETAL』収録曲“ギミチョコ!!”

普段、アイドルやメタルに一定のイメージがあって、食わず嫌いしている音楽ファンにも、聴けばそのクォリティーの高さは、おわかりいただけるかと思います。ただし一瞬、少女の声や歌詞に戸惑いが起こると思いますが、BABYMETALの場合、最初に抱いた違和感はむしろその後で偏愛の対象になります。私がそうでした。

最初に私が気になり出したのは、YouTubeでライヴ映像を観て、バンドがちゃんとメタルで、しかも若くて上手いなと思ったところから。
そうするうちに、
〈ライヴ・パフォーマンスのクォリティーが、物凄く高いな〉
〈曲の作り込み具合が、ただのアイドル・ソングのレヴェルじゃないだろこれ……〉
〈歌、上手だな……良いな……〉
〈ダンスもキレキレだし可愛いな……〉
〈ライヴ行って聴きたいな……〉
〈ライヴのチケット欲しいから、ファンクラブがあったら入ろうかな……〉
〈(iTunesでダウンロードした後)なんだよこのミックス! 本気だ!〉
〈(盤で買い直して)これ、凄いモノ聴いてるんじゃない?〉
という流れで、現在に至っております(37歳女性)。

2016年作『METAL RESISTANCE』収録曲“KARATE”

私自身が、高校時代をヘヴィ・メタルと過ごしていましたので、この現代にメタルという音楽をネタとして扱っているのではなく、リスペクトして、マナーを踏まえてのプロダクションをしていることに、とても気持ちの良い、強い意志を感じました。

通常のヘヴィ・メタルでイメージされる、男性のハイトーン・ヴォイスやデス・ヴォイスではなく、少女の真っ直ぐな声が乗るというところに、とても大きな感動がありました。

Photo by Taku Fujii

最初こそ、バンドのテクニカルな部分に耳を惹かれて聴き出したのですが、いまはもう、3人の虜です。
ライヴもすでに何度も参加していますが、そのたびにメイン・ヴォーカル=SU-METALの歌唱力に、プロ・ミュージシャンとして驚かされます。あれだけの動きをしているなか、MCもなくノンストップで歌っていて、終盤まで歌唱が崩れることも、歌唱のエネルギーが落ちることもない。また、YUIMETALとMOAMETALのダンスの運動量も相当なもの。BABYMETALを知らずとも、3人とも音楽やダンスの基礎体力が相当に高く、プロフェッショナルなトレーニングを積んでいることは、このウェンブリー公演の映像を観ていただくとわかると思います。

Photo by Dana Distortion, ©Amuse Inc.

彼女たちのライヴにはMCがない、アンコールもない。ただ徹頭徹尾、音楽とパフォーマンスがあるのみです。普段から、一般的なファンクラブ(会報がある、本人のプライヴェートに近いメッセージが聞けるとか)もない、もちろん握手会もないなど、パフォーマンス以外の情報やファン・サーヴィスがほとんどないのです。それがいいんですよ。

リスナーは、コンサートまで飢餓状態にありますから、演奏が始まれば、その場の空気の一体感は物凄いことになります。3人の巫女と、〈水をくれー!〉と言う民衆との祈りの儀式のように見えるんですが、屈強なメタラーや男性ファンの上がりまくったヴォルテージを軽く凌駕するSU-METALの歌唱と圧倒的な存在感、YUIMETALとMOAMETALの可愛すぎる笑顔とキレキレのダンスに、私はなぜか涙が止まらなくなるのです……あ、間違った、止まらなくなるのDEATH!

10代の女の子の半年は、短いです。
この4月のウェンブリー・アリーナ公演は、今年行われたワールド・ツアーの最初のステージ。この映像を観ながら、ツアー最後の公演である9月の東京ドームでのパフォーマンスを思い返すと、半年でどれだけ成長したんだこの少女たちは……と、改めて驚いています。

これは、BABYMETALが2016年をスタートさせる貴重な一瞬を捉えた、まさにこの日の公演でしか観れなかったもの。また、日本人初のウェンブリー・アリーナでのワンマンという大変な偉業を成し遂げた、記念すべき1日の記録となっています。もちろん、映像では神事のような空気を感じるには限界がありますが、改めて映像で観ると、彼女たちのパフォーマンスの細部のクォリティーの高さを再確認できますし、神バンドの演奏、作曲、振り付け、プロデュース、それらを総合してのBABYMETALというチームの素晴らしい仕事、丁寧で挑戦的で、とびきりプロフェッショナルな仕事を、感じることができます。

ワールド・ツアーにロブ・ハルフォードとの共演など、今年も前人未到の活躍を見せてくれたBABYMETAL。12月からはレッチリのUKツアーに帯同します。世界の大舞台で闘う少女たちのメタル・レジスタンスは、まだまだ続きます。

普段、われわれジャズ・ミュージシャンがよく言うのは、〈CDは、ライヴ・パフォーマンスの最低ライン〉ということ。BABYMETALについても同じことが言えると思います。ライヴでこそ、本領発揮。この記録映像、観ない理由はない!!

この恐るべきパフォーマンスを、目撃するのDEATH!

 


PROFILE: 西山瞳

79年生まれのジャズ・ピアニスト。2006年にスウェーデンのミュージシャンとのトリオで録音した『Cubium』でデビュー。2008年のバンド編成での『Parallax』、2011年のトリオ作『Music In You』など作品ごとに着実に評価を高めるほか、ヴォーカリスト・東かおるとのプロジェクトやベーシストの安ヵ川大樹とのデュオ、さらにビッグバンドへの楽曲提供なども手掛ける。2014年には西山瞳trio“parallax”として最新作『Shift』をリリース。2015年には織原良次(ベース)と橋本学(ドラムス)を擁するピアノ・トリオ=NHORHMとしてヘヴィ・メタルの名曲をカヴァーした『New Heritage Of Real Heavy Metal』を発表し、メタル・シーンからも注目を集める。そして、その次作となる『New Heritage Of Real Heavy Metal II』が12月7日にリリース。

NHORHM 『New Heritage Of Real Heavy Metal II』 APOLLO SOUNDS(2016)