クラシックとユーロ・ジャズからの影響をもとに、国内外で活躍を続けてきたジャズ・ピアニスト、西山瞳。彼女が織原良次(ベース)、橋本学(ドラムス)と共に結成したNHORHMは、ハード・ロック/ヘヴィー・メタルの名曲群をピアノ・トリオ編成でカヴァーするという、過去に例のないコンセプトを打ち出したグループだ。昨年発表されたファースト・アルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』はジャズ・リスナーのみならず、各界のメタル・フリークからも大絶賛された。
そんなNHORHMの新作『New Heritage Of Real Heavy Metal II』がこのたび完成。ピアノ・トリオによってパンテラやアングラ、メガデスまでをカヴァーした前作に続き、今回の選曲も驚きの連続。ハロウィンやゲイリー・ムーア、ドリーム・シアター、エクストリームあたりはともかく、LOUDNESSにジューダス・プリースト、ブラック・サバス、さらにマノウォー……!? もちろん、原曲を知らなくても楽しめる作品ではあるものの、本作の背景に横たわっているNHORHMの3人によるメタル愛を炙り出すべく、前作を絶賛していたたマーティ・フリードマンと西山の異色対談を決行した。
★NHORHMの前作『New Heritage Of Real Heavy Metal』時のメンバー全員インタヴューはこちら
〈ジャズの演奏者はメタルを音楽として認めてくれない〉の真意
――前作『New Heritage Of Real Heavy Metal』の際、マーティさんは絶賛のコメントを寄せてましたよね。
マーティ・フリードマン「そうですね……あのアルバムには感動しました」
西山瞳「恐縮です(笑)」
マーティ「僕もカヴァー・アルバムを作ったことがあるので、気持ちはよくわかります。前に(NHORHMが)カヴァーしていたディープ・パープルの曲(“Highway Star”)は、個人的には好きじゃないんですよ。でも、西山さんのヴァージョンを聴いたら好きになりました」
西山「いやー、光栄すぎます(笑)」
マーティ「原曲の味はほとんどないじゃないですか(笑)。でも、大事な部分は入っていて、アレンジした人にとってもそこが大切なところだというのはよくわかる。ディープ・パープルのあの曲はもともとメリハリがあって、どんどん盛り上がる構成になってる。それは西山さんたちのヴァージョンも一緒だけど、やってる演奏はまるで別のもの。そこは本当に素晴らしいと思う。強烈にアレンジしていておもしろいと思ったし、アレンジする人たちの才能を感じました。とてもリスペクトします。〈これ、ガチじゃん〉と思いました(笑)」
――西山さん、いまの言葉を聞いていかがですか?
西山「もう、あの……高校のときに(マーティがメンバーだった)メガデスの『Countdown To Extinction』(92年)を聴いていたので言葉がなくて……。高校生の頃の自分に〈マーティ・フリードマンと喋ってるよ!〉と教えてあげたいです(笑)」
マーティ「そうなんですか! それなのにこんなに(ピアノが)上手くなったんですか(笑)」
西山「ハハハ(笑)」
マーティ「本当に嬉しいですよ。僕らの影響で音楽を始めたという人には世界中で会いましたけど、まったく別の方向でここまでのスーパー・レヴェルになった人はまずいない。驚きました」
西山「(NHORHMの)メンバー2人も『Countdown To Extinction』はもちろん通ってますね。私たちが(前作で)カヴァーした“Skin O' My Teeth”は当時、バンド小僧がみんなやってましたしね」
――僕もやってました(笑)。
西山「そうですよね(笑)。それぐらいみんなが絶対に通るアルバムだったし、私も大好きでした。でも、いま聴き返してみると(メガデスの90年作)『Rust In Peace』もすごく良くて、最近はあのアルバムをずっと聴いてたんですよ」
マーティ「メガデスを聴いていた頃、ジャズをやっていたんですか?」
西山「いや、まだ聴いてなかったですね。完全にメタルで、イングヴェイ(・マルムスティーン)のライヴに行ってたんですよ(笑)」
マーティ「楽器は弾いてた?」
西山「それまではクラシック・ピアノをずっとやっていたんですけど、途中でイヤになって辞めちゃって、休んでたんです。そんな頃にイングヴェイを聴いたんですね。ピアノでできないことをやってるギター・ヒーローが好きで。メタル・バンドのキーボードをやりたいとも思わなかったし、むしろキーボードが入ってるメタル・バンドはあんまり好きじゃなかった(笑)」
マーティ「僕もそうです。ルール違反だよ(笑)」
西山「ハハハ、ちょっとスピード感がなくなっちゃうんですよ。やっぱりギターがいいです」
マーティ「いつ頃からまたピアノを弾くようになったんですか?」
西山「高校2年まではメタルばっかり聴いてたんですけど、たまたま買ったチック・コリアの『Now He Sings, Now He Sobs』(68年)がものすごく良くて。それまでピアノ中心のジャズってそれほど聴いてなかったんです。ジャズというと管楽器のイメージだったんだけど、そのアルバムをきっかけにピアノをまた弾きたくなってきたんですね」
マーティ「西山さんはもともとオープンマインドなんでしょう」
西山「なんでも聴くのは確かですけどね」
――マーティさんもジャズは聴く?
マーティ「BGMとして聴くこともありますし、あと、勉強として聴きます。気になるワンフレーズがあれば、それを分析する。ティーンエイジャーの頃、コルトレーンのサックスを(ギターで)真似したこともあるし、エラ・フィッツジェラルドやステファン・グラッペリも好き。ジャズ・ミュージシャンになろうと思ったことはないけど、ジャズの人はもちろんリスペクトします」
――マーティさんは前作のコメントのなかで、〈メタラーの僕はずっと「ジャズの演奏者はメタルを音楽として認めてくれない」と思ってたけど、このケースではメタルに対しての熱心と尊敬が伝わってきた〉と書いていらっしゃいますよね。
西山「このコメントをいただいたとき、それをメンバーにメールで送ったんですよ。みんな考えることがあったみたいで……」
マーティ「えっ、どういうこと? 怒らせた?」
西山「いやいや(笑)。ジャズの世界も同じ世代や若い世代はそうでもないですけど、他の音楽に対して少し排他的なところがあると思うんですよ。でも、ジャズ・ミュージシャンといってもマーティさんやポール・ギルバートに憧れてきたプレイヤーもいるわけで……」
マーティ「レヴェル・ダウンしたいんですか(笑)? 逆だよ、僕たちはあなたみたいに上手くなりたいんです(笑)」
西山「ハハハハハ(笑)。ウチのメンバーに関しては、3人ともメタルをきっかけに楽器を始めたようなものなので、マーティさんの〈ジャズの演奏者はメタルを音楽として認めてくれない〉という言葉にはちょっとショックで」
マーティ「たぶん文化の違いなんですよ。日本のミュージシャンは基本的にオープンマインドですね。昔の話なんですけど、ハワイに住んでいた18歳の頃、音楽学校でギター・セミナーをやったんですよ。生徒さんに教えていたら、音楽学校の先生の一人がいきなり怒り出したんです。〈お前は音楽のことを何もわかってない! ジャズのこと何も知らないだろ? ジョー・パスやチャーリー・クリスチャンを聴いたことがあるのか?〉って。当時の僕は実際、ジョー・パスもチャーリー・クリスチャンも聴いたことがなかったんだけど、そんなことを言われて驚いてしまって。そのときに自分のなかのジャズのイメージが悪くなっちゃったんですよ」
西山「そういう人、いますよね……」
マーティ「いますよね。確かにその先生は僕より上手いのかもしれないけど、あいつみたいにはなりたくないという気持ちが芽生えちゃって。でも、その後に本物のジャズ・ミュージシャンと出会うなかで、ジャズの格好良さも知るようになるんですけど、最初のイメージが悪すぎた(笑)」
西山「駆け出しの頃は私もそういった方と一緒にやったこともありますけど(笑)、ジャズ・ミュージシャンでもいまの若い世代は何でも聴くし、良いと思えたら何でもいいっていうオープンマインドの人は増えていますね」
マーティ「いいですね。前はエリート意識を持ってる人が多かったんでしょう。ロックをゴミみたいなものだと思ってるジャズ・ミュージシャンは多かったし、ジャズを認めないクラシックの人もいるだろうし、その逆もいる」
――アメリカではジャズとメタルは別の世界のものなんですか?
マーティ「少なくともメインストリームの世界ではそうだと思います。だって、アメリカで今日みたいな対談をやったことないですよ(笑)」
西山「日本でもなかなかないですけどね(笑)」
マーティ「光栄ですし、嬉しいですよ。自慢になる(笑)」