4人が選んだ年間ベストを大発表、ディープな音楽談義
――ここからは忘年会らしく、皆さんの年間ベストを発表してもらいましょう。まずは吉田さんから。
吉田「コモンの『Black America Again』ですね」
――へー、ちょっと意外かも!
吉田「クロちゃんが新譜好きなので、いろいろ教えてもらったんですけど、〈結構地味だな、あえてわかりやすく盛り上がらないようにしているのかな?〉と思ったりして、ストレートにグッとこなくて不安だったんです。でも、コモンはそういうのが全然なかった。安心して感動できる、すごいのがきたなと」
――今回のコモンのアルバムは、(プロデューサーの)カリーム・リギンスやロバート・グラスパー、それにコモンの3人全員が最高の仕事をしていますよね。
吉田「あとはやっぱり、エスぺランサ(・スポルディング)のベースがすごい。後から21分くらいあるミュージック・ビデオが公開されたじゃないですか。あそこですごく好きな瞬間があるんですよね。ドラムが超地味になって、ベースが目立つところ。〈これはヤバイ!〉と思ってアルバムを聴き返したら、その瞬間が入ってなくて(笑)。だから、YouTubeでだけ聴けるそのミックスが今年のベストですね」
クロ「その流れでいうと、私はフランク・オーシャン『Blonde』がダントツで。越えようがないと思うくらい。自分たちのバンドも、この後どうしていいのかわからなくなるみたいな(笑)。吉田さんともその話をしていたんですけど、具体的にどこがいいのか伝えづらいんですよね。部分的に見ても全部褒められるけど、自分が一番グッときてるのはたぶんもっと漠然とした大きなところで」
――前作よりもさらに深化した感じがしましたよね。
クロ「曲の形式でいえばトラップがベースだったり、他にもいろんな要素が入るけど、それよりも曲を作ってる〈人〉とその気分や表現が先にある感じに憧れます。スピリチュアル信者っぽくて大声では言えないんですけど(笑)。アルバムを聴いたときにうわ~っとなっちゃう感覚が、今年初めて生演奏を観て、その後かなり尾を引いてしまった南博さんへの感動に近くて。いい映画やロスコの絵を見たあとの感覚にも近い。聴いていて〈許される〉感じがすると言うか。何かを採り入れたから新しい、とかに疲れてるのかもしれないけど、そういう新しさじゃなくてもっと不思議な感じ。そんな表現ができたり、あるいは上手くそう思わせる曲が作れるから、そりゃビートなんかなくても成立しちゃうよなって」
――これが今後の基準になったら、ほかのアーティストは大変そうだなと。
クロ「本当ですね。カニエ・ウェストが次にどんなのを作るかとか、凄く楽しみです。あとは、インヴィジブルをよく聴きました」
アフィ「フローティング・ポインツのリミックスがもう……こんなにいいリミックスあるんだと言いたくなるくらい良かった。原曲よりもブッちぎりでいいんですよ」
クロ「本家も、何回も聴き通せるアルバム『Life's Dancers』で凄く良かったよ。ニンジャ・チューンから出てるけど音像がXLレコーディングスっぽくて、毎年変わらずツボに入りやすい傾向の音かもしれないです。ストーンズ・スロウとかも、同じ理由で安定して好きでいられる」
――アフィさんはたっぷり新譜を聴いていそうですね。
アフィ「いろいろあったけど、僕のなかでは音の気持ち良いジャンルという意味で、ニューエイジとフュージョンが特に流行っていました。(レーベルで言うと)ストーンズ・スロウから出るものがどれも格好良くて、そのなかでもマイルド・ハイ・クラブが最高。それと近い路線だと、ソフト・ヘアも良かったです。あとは、Tempalayから最近教えてもらったレモン・ツイッグス」
――その3組のデビュー作はどれも最高でしたよね。どんなところが好きですか?
アフィ「みんなサイケでフラワー・チルドレン的な雰囲気もあるんだけど、そこにラッセン的なニューエイジっぽさが混ざっている気がするんですよね。泥臭くないサイケというか。一時期はジャズばかり聴いていたので、改めてロックを聴いてみたらビックリして、それでもう一度サイケなものを聴き直しています。エリカ・バドゥの『Mama's Gun』(2000年)あたりのインタヴューを最近読み返したんですけど、〈今後はテクノロジカルなサイケデリックの波が来る〉みたいな話をしていたし、ブレインフィーダーだって超サイケじゃないですか」
――最近のLAはそんな感じですよね。Seihoのソロ作をリリースしたリーヴィングも、サイケ&ニューエイジな世界観が全開だし。
アフィ「いま思えば、(何年か前の)マック・デマルコやホームシェイクも新しい手法でサイケ感をパッケージングしようとしていたんだなって。そういう意味で、マイルド・ハイ・クラブやレモン・ツイッグスは自分たちには絶対できないことをやっている」
――サイケといえば60年代のドロドロなイメージがありますけど、最近の人たちはメロウに鳴らしているのも肝というか。
アフィ「そうそう。メロウかつ、ちょっとタイトで踊れる感じですよね。自分たちがバンドをやっていくうえでも、今後はこのあたりを気にしていかないとダメだなと」
――小西さんはどうですか?
小西「最近は旧譜ばかりを聴いていて、ドーターの古いアルバム――“Youth”が入っている『If You Leave』(2013年)が好きで、最近はそれしか聴いてないんです。今年のアルバムで言うと、ASA-CHANG&巡礼の『まほう』とレディオヘッドの『A Moon Shaped Pool』、あとはフランスにいるローガン・リチャードソンというサックス・プレイヤーの『Shift』。それと石若駿の新しいEP『Songbook』には僕も参加しているので。ASA-CHANG&巡礼は単に個人的な好みで、駿のEPは本当に良いポップスです。それとあとは……あ、星野源の『YELLOW DANCER』って今年ですよね?」
――残念、昨年のリリースですね。
小西「そっかー。『YELLOW DANCER』は、僕が有名人だったらこういうお金の使い方をしたいと思えるアルバムだったんですよね。本当に趣味がいいし、リヴァイヴァルの仕方もすごく格好良い」
アフィ「全曲、歌が入っているんだよね?」
小西「そう、すべて歌モノです。あとレディヘはやっぱり好きで、単純に〈ありがとう!〉という感じ(笑)。『KID A』と『OK Computer』が一緒に聴けるような作品だと思う。ローガン・リチャードソンはジャズの枠を壊そうとしていて、アルバムとしてもコンセプトがはっきりしているし、ソロだけが魅力じゃないということアピールしている。〈俺たちが表現したいのは(演奏力ではなく)曲と世界観なんだ〉というスタンスをアルバムで伝えている点に影響を受けましたね」
――宴もたけなわですが、最後に〈Mikiki忘年会〉への意気込みをどうぞ。
小西「CRCK/LCKSのテーマはエモさのみ。とにかく駆け抜けるだけですね」
クロ「TAMTAMは……何ですかね(笑)」
アフィ「とにかく呑む(笑)。あとは肩肘張らずに行けたらと。TAMTAMはなんと言うか……リスナー気質のメンバーが集まっている団体なので、〈こういうのもありますよ〉みたいなノリで、お客さんと共演者の傷をできるだけエグれたら良いかなと。一矢報いるどころではなくて、ちょっと反省させられたらいいですね(笑)」
――ユルいけど強気(笑)。吉田さんはどうですか?
吉田「実はこの間、サポート・メンバーから僕と西田くんがライヴ前に緊張しすぎなんじゃないかと言われて(笑)。それじゃ上手くいかないんじゃない?という話をされた後のライヴなので、真剣になりすぎないようにできたらと思っています」
アフィ「あとはWONKが、ここにいない反省をMCで言ってくれれば完成ですね(笑)」
Mikiki忘年会2016
【日時/会場】2016年12月21日(水) 東京・月見ル君想フ
【開場/開演】18:30/19:00
【出演】吉田ヨウヘイgroup/TAMTAM/CRCK/LCKS/WONK
【DJ】大石始/柳樂光隆
【料金】前売 3,000円/当日 3,500円(いずれも+1ドリンク代別)
【チケット】10月22日(土)~ チケットぴあ(Pコード:314-095)
【問い合わせ】月見ル君想フ 03-5474-8115