INTERVIEW

石若駿の心の内を覗いてみれば…これまでのイメージ覆すマルチ・プレイヤーぶり発揮した初の歌モノ作『Songbook』を語る

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  • 2016.12.14
石若駿の心の内を覗いてみれば…これまでのイメージ覆すマルチ・プレイヤーぶり発揮した初の歌モノ作『Songbook』を語る

日野皓正をはじめ多岐に渡るサポート仕事やカート・ローゼンウィンケルとの共演、自身のプロジェクト=PROJECT 67で〈東京JAZZ〉への出演などジャズ方面の仕事のみならず、初EPをリリースしたCRCK/LCKSとしての活動、WONKDaiki Tsuneta Millenium Paradeの作品への参加など、さらに活躍の幅を拡げた2016年の石若駿。いま日本でもっとも忙しいドラマーと言っても過言ではない彼が、昨年の初リーダー作『CLEANUP』以来となる新EP『Songbook』を突如完成させた。

本EPは、全曲でCRCK/LCKSの小西遼&小田朋美角銅真実らゲスト・ヴォーカルを迎えつつ、ドラムはもちろんピアノから打ち込みまで、ほぼすべての演奏を自身が担当したセルフ・プロデュース作。石若が学生時代から書き貯めていたという楽曲を中心に、びっくりするほどピュアなピアノと歌のデュオ曲や、打ち込みで構成されたトリッキーな変拍子のナンバーなど、彼がこれまでのキャリアを通じて体得したさまざまなサウンドが映し出されている。そしてタイトル通り、作品の中心にあるのは〈歌〉だ。今回は、そんな『Songbook』が生まれた経緯や、レファレンスとなったアーティストなどについて石若本人に訊いた。

★石若駿『CLEANUP』の井上銘とのインタヴューはこちら
★CRCK/LCKS『CRCK/LCKS』のインタヴューはこちら
★Daiki Tsuneta Millenium Parade『http://』のインタヴューはこちら

★石若駿がCRCK/LCKSとして出演する〈Mikiki忘年会2016〉の詳細はこちら

石若駿 Songbook YoungS'tones/APOLLO SOUNDS(2016)

 

作ったはいいけどずっと悶々としていた

――今回のEPは『Songbook』というだけあって、すべてヴォーカルの入った楽曲が揃っていますが、これはどういうきっかけで作ることになったのでしょうか?

「自分がシンガーのバンドでライヴをすることが多かったのが影響しているかもしれない。例えばMaya HatchさんやHanah Springさん、TOKUさん、今回参加してくれているサラ・レクターさんやけものといったアーティストと仕事をする機会が一気に増えて、インストとは違う魅力というか、声の強さみたいなものに魅了されるようになったからかなと」

――CRCK/LCKSでの活動や、サポート・ミュージシャンとしてポップス・アクトのバックをやったことが影響をしているんですかね。

「自分が関わるところで言うと、CRCK/LCKSは毎回みんなが曲を持ち寄ってくるからすごく刺激を受けているね。あと、今年さかいゆうさんの『4YU』で1曲ドラムを叩いていて。レコーディングの前にさかいさんと2人でスタジオ入って、さかいさんがピアノを弾きながら歌っているところにドラムを合わせていたんだけど、その時のさかいさんがめちゃくちゃ素晴らしかった。あれはすごい体験だったな。あとは原田知世さんのライヴ・サポートをやったんだけど、その時はメンバーに椎名林檎さんのバンドにも参加している鳥越啓介さんがいて、いろんなことを教えてもらったり。そういった経験が、歌のアルバムを作るきっかけになったと思う」

CRCK/LCKSの2016年のEP『CRCK/LCKS』収録曲“Goodbye Girl”
 

――収録されている楽曲は、昨年発表した初作『CLEANUP』より古い曲もあるんですか?

「いちばん古いのは“the voice”かな。それは大学入る前だから5、6年前。“ジョゼ”は僕がタワーレコード限定で出したトリオでのアルバム(2013年作『The Boomers ~Live At The Body & Soul~』)に入っている“HONTOWASAH”という曲に歌詞を付けたものだから、出来たのは2011年くらい。その次に“Asa”だね。それは2012年の2月。2月の寒い日に大学の打楽器科のコンサートがあったんだけど、打ち上げで朝まで呑んで、それからトラックに楽器を積み込んで学校まで片付けに行って、〈あ~疲れた〉ってピアノを弾いたら出来た曲がこれ(笑)。だからすごいよく覚えてる。“Christmas Song”は2013年くらいに出来た曲で、いちばん新しいのが“10℃”。でもそれも学生の時だから2年前ぐらい」

――へぇ~。じゃあどれもかなり前に作られた曲なんですね。

「曲は出来ていても発表する場がなかったんだよね。自分のジャズのバンドで演奏するような曲ではないし、シンガーのバックで参加したとしても、その人に持っていくわけにはいかないから。作ったはいいけどずっと悶々としていたような状況で。だから、まだ録音してない曲のストックはいっぱいある。今回の5曲に関しては、(世に出したいという)欲求が大きくなって、一人で録音を始めました」

――曲はどうやって書いてるんですか?

「今回の曲に関しては、『CLEANUP』の時と同じく、ピアノに向かってひたすら弾いて書いての繰り返し。だんだんレールを敷いていくみたいな感じで、五線譜に音符を書いていった。あとは、レコーダーの録音ボタンを押して即興的に弾いて、後からいい部分を抜き出して再構成したりとか。それをエンジニアの田島克洋さんと2人で3年くらい前からスタジオで録音していたんだよね。すごく暗い作業だったよ、ピアノを弾いて、間違えたら録り直す……みたいな作業を2人でずっとやってた(笑)」

――今回の曲は歌うことを前提にして作られた印象なんですけど、実際はどうですか? ピアノとヴォーカルのみの“Asa”とか、最少人数で組まれていて聴きやすいものが多かったので。

「歌ものにしたのは曲が出来てからだね。歌ったらおもしろいんじゃないかな?と思いつきだけでやっている部分はあるな。コンポジションに関しては、僕自身の特徴があると思うんだよね。ひねくれた性格だから、それが曲に出ている(笑)。シンプルに聴こえる“Asa”も、楽譜にしたら小節ごとに拍子が変わっていたり、すごく難しい。でもそういう曲に声を入れることでポップにして、みんなが聴きやすいものになればいいなと。それに、この曲たちをジャズのインストだけで演奏したらどうなるんだろう?と考えたりもしていて。すごくチェンジが激しいからそんなにおもしろくないかもしれないけど……」

――今回は演奏もほぼ全部自分でやっているんですよね。ピアノから打ち込みまで。

「そうだね。歌とヴォコーダー以外ほとんど自分で演奏してる。母親がピアノの先生だったから小さい頃からピアノは弾いていて、下手したらピアノ歴のほうがドラムより長いかも。打ち込みは結構やっていて、『CLEANUP』の曲も実は打ち込みのデモがあったり、常田大希のアルバム(Daiki Tsuneta Millenium Paradeの2016年作『http://』)にも僕が打ち込んだのが使われている。“Christmas Song”のオルガンも打ち込みの音源だし。あとはコルネットをマイクに向かって吹いて、そこにエフェクトをいくつもかけたり」

Daiki Tsuneta Millenium Parade『http://』収録曲“Prêt&Porter”
 

――え! このコルネットは自分で吹いてるんですか!?

「そう、あれは打ち込みじゃないから(笑)! トランペットも自分で吹いてるんだけど、中学生の時に日野皓正バンドに入りたくてすごく練習したの。というのも、日野さんはライヴの時に(バンド・メンバーに)次の曲名を言わないんだけど、他の人たちはどうやって意思疎通して曲を合わせているんだろうと思って訊いたら、〈日野さんの(構えた時の)指を見ればわかる〉と言われて。だったらトランペットを覚えなきゃダメじゃん!と(笑)。なので、ある程度は吹けるようになった。あとは一時期シンセ系の機材をいろいろ買い込んでいて、Srv.Vinciにいた時はドラムを叩きながらシンセ・ベースを弾いたりしていたので、今回シンセ・ベースも自分で入れてる」

 

俺のピアノを聴け!

――やっぱり石若駿というとジャズ・ドラマーとしてのイメージが強いですが、今回の『Songbook』はこれまで話した通り、それとは異なる石若さんのアーティスト性が窺える作品になっています。普段はどういった音楽を聴いているんですか?

ビートルズは好きだね。全部好きなんだけど、最近は『Abbey Road』(69年)と『Magical Mystery Tour』(67年)がヤバイなと思って特に聴いてる。あとは星野源の初期のアルバム『ばかのうた』(2010年)と『エピソード』(2011年)をずっと聴いていたこともあった。青葉市子の作品は全部聴いてるし、パット・メセニーケニー・ギャレットが参加していた矢野顕子の『Welcome Back』(89年)や『Elephant Hotel』(94年)あたりもすごい聴いてる」

星野源『ばかのうた』収録曲“くせのうた”
 
青葉市子の2016年作『マホロボシヤ』収録曲“ゆさぎ”
 

――矢野顕子の雰囲気は『Songbook』に近いかもしれないですね。メロディーが小節を跨いでいく感覚とか。

「母親が好きだったから、実家で聴いていたんだよね。最初はジャズマンが参加してるなんて知らなかったけど。そう言われると矢野顕子の影響はあるかもしれない」

――アコースティックですが実はトリッキーな曲だと思った“Asa”、それから“ジョゼ”あたりは、最近のジャズ・ヴォーカルものに近い雰囲気を感じます。

「実は、“Asa”が出来上がってから、自然と影響を受けてるなーと感じたのはくるりなんだよね。高校3年生の時にくるりを初めて聴いて大好きになったんだけど、“Asa”はくるりのジワーッてくるゆったりとした曲のイメージ。『アンテナ』(2004年)の“グッドモーニング”みたいな。ジャズ寄りだとジョニ・ミッチェルだと思う。特に『Mingus』(79年)の世界観が好きで、“ジョゼ”はその雰囲気を意識してる部分があるかな。ジョニはピアノも弾くしね。それからレベッカ・マーティングレッチェン・パーラトベッカ・スティーヴンスあたりの現代ジャズの女性ヴォーカルももちろん好き。最近レベッカ・マーティンの『The Growing Season』(2008年)にまたハマっていて。ブライアン・ブレイドのドラミングやカート(・ローゼンウィンケル)のエレピが素晴らしいんだよ。そういったものからの影響もあるかもしれない」

レベッカ・マーティン『The Growing Season』収録曲“Free At Last”
 

――ちなみに“ジョゼ”ではフレットレス・ベースで織原良次さんが参加されていますが、これはどういういきさつが?

「僕は小さい頃からジャコ・パストリアスが物凄く好きなんだけど、小6の頃に北海道の〈倶知安ジャズフェスティバル〉で織原さんと出会って、その時はジャコのビッグバンドにハマっていたから、フレットレス・ベースを演奏する織原さんを観て感動したんだよね。それで、小学生ながら思わず〈ジャコ好きですか?〉って織原さんに話しかけたくらい。その後、僕が上京して東京ザヴィヌルバッハやけものに参加して共演するようになって、織原さんのプレイやアーティスティックな部分に惹かれた。それで自分の曲でもいつか弾いてほしいとずっと思っていて」

織原良次擁するNHORHM“One”の2016年のライヴ映像
 

――また、“Asa”と“10℃”は角銅真実さんがヴォーカルを取っています。

「角銅真実さんは藝大(東京藝術大学)の打楽器科の先輩で、僕が1年生の時の4年生かな。すごく異彩を放っている先輩の一人だった。毎年髪の毛の色が変わったり、突然坊主頭になったり(笑)。藝大には一定の割合でそういう人種がいるんだよ。角銅さんはパーカッションの先輩なんだけど、マリンバを弾きながら歌っているところを見て、歌がすごく良いなと思ってお願いしました。角銅さんは漫画も描いていたり、とにかくいろんなイメージを膨らませることのできる人だから、この2曲は歌詞も書いてもらった。ちなみに角銅さんのオリジナル曲を演奏するパーカッション・ユニット、Taco mansion orchestraにも参加したことある!」

角銅真実(ヴォーカル/マリンバ)擁する文角-BUNKAKU-“LARK”のパフォーマンス映像
 

――ストレートなジャズ・ヴォーカルというイメージの“the voice”はサラ・レクターさん、ジョゼはけものの青羊さんと、今回参加しているシンガーは全員女性ですね。

「歌声はもちろん、その世界観に惹かれたんだよね。女性ヴォーカルでまとめようと思ったわけではなく、自然とそうなった」

――CRCK/LCKSの小田朋美さんと小西遼さんが参加した“Christmas Song”は、まさにCRCK/LCKSっぽい変拍子の曲で……というかバンドのライヴでもやっていましたよね?

「CRCK/LCKSの最初のライヴからやってるね。バンドが始まる時に、ちょうどこの曲のピアノとドラムだけを録り終えたタイミングで、そのデモをスタジオに持っていって合わせたら〈イイじゃん!〉となって。音源を作るのと、ライヴで演奏して歌詞を付けていくのを同時進行にやっていたんだよね。歌詞はもともとが小田さんをメインに小西くんと2人で歌詞を書いてもらっていて、CRCK/LCKSで演奏する時は日本語詞なんだけど、『Songbook』では小西くんがカッコイイ英語詞を書いてくれた」

――この曲ではシンセや管楽器などさまざまな音を多重録音して作られていますが、そういった音楽も好きなんですか?

「今回の曲を作っている時に、自分のなかで多重録音のブームがあったの。Galileo Galileiという稚内のバンドが2012年に『PORTAL』というアルバムを出したんだけど、あれに〈ヤラれた!〉と思ってね。多重録音ですごい世界を作っていて、これは自分がやりたかった音かもしれないと」

Galileo Galilei『PORTAL』収録曲“さよならフロンティア”
 

――それぐらいの時期、2011年~2012年頃は多重録音のアーティストがいろいろ出てきましたよね。アントニオ・ロウレイロジェイムズ・ブレイクとか。

「アントニオ・ロウレイロの『Só』(2012年)はすごかったよね。一人でピアノもドラムもヴィブラフォンも歌も全部やってる動画がYouTubeにあって、あれにはインスピレーションを受けてる。ジェイムズ・ブレイクが出てきた時もかなり聴いていたし。あとはホセ・ジェイムズの作品でも歌ってるエミリー・キングリトル・ドラゴンジム・オルークの『Eureka』(99年)とか。それから、晩年の菊地雅章さんのトリオでも叩いていたRJ・ミラーというジャズ・ドラマーがいるんだけど、彼の『Ronald's Rhythm』(2013年)はエレクトリックな質感の多重録音で作られていて、〈ヤラれたー!〉と思ったよ」

アントニオ・ロウレイロ『Só』収録曲“Luz Da Terra”
 
RJ・ミラー『Ronald's Rhythm』収録曲“Underwater Traveller”
 

――やっぱり多重録音で作るのと、人と一緒に演奏するのとでは感覚が違いますか?

「もちろん。誰かとセッションする時は自分の予想できないものが出てくる素晴らしさがあるけど、多重録音は鳴っているものを全部自分でコントロールできるから、ある種守られたなかで作れるというおもしろさがある。いつもセッションが多いから、その反動でみずからひとつの世界を作りたいという欲求があるのかもしれない。多重録音はその人のもっとも深いところが見られるんじゃないかなと思う。一音一音悩みながら選び抜いていくわけだから、そこで出来たものにはその人が持っているピュアな音楽性が表れている気がして、だからそういう作品が好きなんだよね。ermhoiが出てきた時も、〈この人はこんなことを思ってたんだ!〉と知れたのがおもしろくて。常田大希もそうだよね。ちょうど大希と一緒にやりはじめたのも大学に入ってからだから、大希が多重録音をしてる姿にも影響を受けてると思う」

ermhoiの2015年作『Junior Refugee』収録曲“Why?”
 

――そう考えると、『Songbook』には石若駿の内面が色濃く出ているのかもしれませんね。

「そうだね。今回は特にピアノのヴォイシング(和音にするための音の積み重ね方)を聴いてほしい(笑)! 結構こだわってるから。ヴォイシングには人間性が出るんだよ。今回はグランド・ピアノを弾いてるから、音の鳴らし方にも人間性が出るし。もう〈俺のピアノを聴け!〉って感じ(笑)。実はこのソロ企画の第2弾をもう録りはじめていて。この間は吉田ヨウヘイgroupのギターの西田(修大)くんとスタジオに入ったんだよね。今度は3年もかけないで出したいな(笑)」