(左から)吉田ヨウヘイ、小西遼、高橋アフィ、クロ
 

吉田ヨウヘイgroup (以下:YYG)、TAMTAMCRCK/LCKSWONKの4組を招き、東京・月見ル君想フでで12月21日(水)に開催するMikiki主催のライヴ・イヴェント〈Mikiki忘年会2016〉。忘年会といえば乾杯でしょう!ということで、今回は出演バンドの中心人物――YYGの吉田ヨウヘイ、TAMTAMの高橋アフィクロ(クロはYYGのメンバーとしても出演)、CRCK/LCKSの小西遼の4人にによるプレ呑み会を都内の某居酒屋で行った(WONKは残念ながら欠席)。

年末を締め括るタイミングでMikikiがこの4組に出演オファーしたのは、言うまでもなく〈いま絶対に聴いておくべき/観ておくべき〉と猛プッシュしているから。改めて整理しておくと、〈エクスペリメンタル・ソウル〉を標榜するWONKと、ジャズ界の若手実力派によるラディカルなポップ・バンドのCRCK/LCKSは、共に初音源を今年リリースしたブライテスト・ホープ。またTAMTAMは新作『NEWPOESY』で現代的なグルーヴと音像を獲得し、一皮剥けた姿をアピールしてみせた。そして吉田ヨウヘイgroupは今年2月に活動休止を発表したものの秋になって活動再開。新体制でライヴ活動を行っている。

それぞれが大きな動きを見せた2016年を、本人たちはどのように考えながら過ごしたのか――アルコールの助けも借りつつ、無礼講スタイルでこの1年を振り返ってもらった。さらに記事の後半では、4人が愛聴した年間ベストを発表。リスナー気質の面々が揃ったこともあり、ディープな音楽談義が繰り広げられている。これを読めば、〈Mikiki忘年会〉に行きたくなること間違いなし!

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デビュー後の反省から活動休止の真相まで、2016年を振り返る

――まずは、皆さんに2016年を振り返ってもらおうかなと。

小西遼(CRCK/LCKS)「僕にとってはデビューの年でしたね。自分がリーダーとしてCRCK/LCKSを立ち上げたのが1年半前で、今年発表した作品(EP『CRCK/LCKS』)は自分にとっても初のCDリリースだったから。スタート地点に立てたのはメチャクチャ嬉しい。ただ、反省の1年でもあったかな」

CRCK/LCKSの2016年のEP『CRCK/LCKS』収録曲“Goodbye Girl”。メンバーのインタヴューはこちら
 

――というと?

小西「おもしろいものを作ることはできていると思うけど、もっとプロモーションの面で仕掛けられたらとは思いましたね。CRCK/LCKSはジャズ界隈の人たちで立ち上げたバンドだから、まずはポップスの世界におけるマナーを学ぶところからスタートせざるを得なかったんですよ。僕もひたすら、ほかのバンドを観に行くようにしたし」

――そこで何を学びました?

小西「〈バンド感〉ですかね。自分で言うのも憚られるけど、(CRCK/LCKSのメンバーは)みんな技術が高いから、〈こういう感じで〉と譜面を渡すだけであっという間に曲が出来上がる。でも、上手くはないけどクソ格好良いバンドっているじゃないですか。そういう感じをどうやって出せばいいのか、どういう人たちと絡んでいくべきなのか。いろいろ学ぶことの多い1年でした」

――TAMTAMはどうでしょう?

クロ(TAMTAM)「今年は2年ぶりのアルバム(『NEWPOESY』)をリリースするために、昨年末~今年の前半にかけては粛々とアルバムの制作を進めていましたね。1年くらいかけたものが今年の9月に無事発表できたので、まずはスッキリして良かったです(笑)」

――新境地を切り拓いたアルバムだっただけに、反響も大きかったんじゃないですか?

高橋アフィ(TAMTAM)「そうですね。好評だったのと、今回はあまり肩肘を張らず、(自分たちらしさを)素直に出そうと思いながら作っていたので、それが伝わったのは嬉しかったです。以前は、なかなか作品を出せない焦燥感もあったりしたので……」

クロ「今年は楽しかったことしかないですね、そういうふうに思えたのは初めてだったかもしれない。前にもインタヴューで話しましたけど、一時期は曲もシリアスな雰囲気だったり、ライヴもパワーで圧倒しなきゃと思っていた部分もあったけど、今年出来た曲のおかげもあってそういう張り詰めていた気分から解放されたのは大きかったと思います。新譜をきっかけにまたライヴに誘われる機会が増えたのも嬉しかった」

小西「この間、新代田FEVERでライヴを観たときに思ったんですけど、いまのTAMTAMはカオスな部分が多いですよね。なにか根底のほうがグニャグニャしているというか(笑)。整理整頓されていないあの感じがいいなって」

アフィ「メンバーはみんな(音楽の)好みが定期的に変わっていくんですけど、どんどんユルくなっているというか、チルい方向に向かっていて。そういう自分たちの趣味を隠さずに出していこうと決めた結果、グチャグチャになった(笑)」

クロ「だから、そういうふうに言ってもらえるのは嬉しいです。もともとTAMTAMは(デビュー時から)ダブ・バンド、レゲエ・バンドと打ち出されていたけど……本当はもっといろんな音楽が好きだったし、自分たちも演奏したかったんですよね。だから、レゲエだと思って観に来たお客さんも、私たち自身も〈あれ?〉って感じで(笑)」

アフィ「実は最初からズレてるバンドだったんだけど、最近になってようやくズレてる人たちとして認められてきたというか」

TAMTAMの2016年作『NEWPOESY』収録曲“コーヒーピープル”。インタヴューはこちら
 

――そんなTAMTAMについて、吉田さんはどう思ってますか?

吉田ヨウヘイ「さっき小西くんが言ったことと同じようなことを思っていましたね。少し前に会ったときは、すごく悩んでいる感じだったから」

アフィ「吉田さんと知り合ったときが、尋常じゃないくらい悩んでいる頃だったから(笑)。初対面のときにバンドをどうしたらいいのか話を聞いてもらって、それからも吉田さんと西田(修大)には定期的に悩み相談をしていたんですよね」

吉田「だからどうするのかなと思っていたら、自分たちが培ってきたものを全部捨てて、新たにゼロから築く道を選んだんだなと」

――かくいう吉田さんも、YYGが今年2月に活動休止を発表して、それから秋に再始動をアナウンスするまでにはいろいろ大変だったのでは?

吉田「バンドを本格的にやり出してから初めてリリースがなかった1年だったので、穏やかと言えば穏やかでしたね。月に4~5本くらいライヴをする生活が何年か続いていたので

アフィ「でも、Ellipseとしても活動していましたもんね」

※YYGの吉田ヨウヘイと西田修大、岡田拓郎(元・森は生きている)、岡崎英太岸田佳也の5人で結成されたバンド。2016年6月に初ライヴを行った

――Ellipseはまだ音源を正式リリースしていないし、YYGのファンもどんなバンドなのか把握できていないかもしれないですよね。どういう経緯で結成されたのか、改めて教えてもらえますか。

吉田「YYGは自分がやりたいことに付き合ってくれる人を探している感じですね。最近はまた変わってきているんですけど。Ellipseは岡田くんというコンポーザー気質の人がもう一人いるので、自分の思い通りにならないことをやってみることができるんですよ。実際に録音してみても、自分がOKを出していない音を遠慮なく入れてくる(笑)。そういうのは初めての経験なのでおもしろかったです」

Ellipseが2016年に発表した楽曲“ジャムス”
 

――ちなみに、なぜYYGは活動休止したのでしょう?

吉田「忘年会らしい、明るい話じゃないですけど(苦笑)。メンバーが抜けることになったので、最初はバンドを止めようと思ったんですよね」

――そうだったんですか。

吉田「僕らがバンドを初めてからいろんな人に〈これを聴くといいよ〉〈こういうことをやるといいんじゃない?〉と薦められたのが技巧派的なものだったんですよね。でも、もともとは気が合う人を誘ったバンドだったから、(自分たちが追い求めている音楽性に)腕が及ばないというジレンマがあったんです。そこをなんとかしようと無理やり練習しているわけですけど、その雰囲気が健やかじゃなくなってきていて。それが活動をストップした理由ですね」

吉田ヨウヘイgroupの2015年作『paradise lost, it begins』収録曲“ユー・エフ・オー”
 

――最初に小西くんがCRCK/LCKSについて話していたのと真逆の葛藤かもしれないですね。そこから再始動するに至るまでにはどういった経緯が?

吉田「もともと、やりきった感じは全然なかったんですよね。Ellipseを始めたのも自分が良いと思える音楽をやりたかったからで、YYGとの違いも意識していなかったんです。でも、実際に(YYGと)違うミュージシャンが入るとそういうわけにもいかないんだなと改めて気付いて。だから(YYGとEllipseに参加している)西田とも、YYGでやってきたことをどこかでまたできたらとは話していたんです。それで久しぶりにメンバーと再会したときに、やっぱり再開したほうがいいのかなと思って」

――クロちゃんは今回の再始動のタイミングで、YYGに正式メンバーとして加入することになったんですよね。バンドの雰囲気はこれまでとは違います?

クロ「あー、違いますね。バンドの雰囲気によるところもありますけど、いろいろと意見しやすくなったというか。サポート・メンバーじゃなくなったことで、これまでよりも自分が(バンドに)積極的に関わっていくことを求められている気がします」

吉田「僕としては見方が逆で、TAMTAMでやりたいことをやりきったことで自信が付いて、もっとナチュラルにグイグイ来れるようになった印象ですね。だから、一体感が全然変わってきたなと。最近は新曲もいくつか作っていますけど、コーラスの部分はクロちゃんが作ってくれていて」

――現在のYYGは吉田さん、西田くん、クロちゃんとreddamちゃん(キーボード)の4人編成が核となっていて、今回の忘年会ではベースの岡崎英太さんとドラムの岸田佳也さんをサポートで加えた6人で出演されるんですよね。

小西「単純な疑問ですけど、吉田さんがサポートの人たちに求めているものはなんですか?」

吉田「最近わかったんだけど、サポートだって意識せず、普通にいろいろと自分のアイデアを入れてほしいかな。コード進行はもちろんこっちで作るけど、フレーズについてはかなり変えてもらっても、良くなれば嬉しいし。フレーズを変えなかったとしても結構勝手に解釈して弾いてほしい」

小西「いいニュアンスで弾けるか、ということですよね」

吉田「そうそう。自分で作ってるわけだから、自分の力でも自分以外のパートを70%くらいは(満足できるものが)作れると思っていて。そこから他の人にパートを任せるんだったら、80~90点にはなってほしいなと」

小西「わかるなー。でも、結局は上手いかどうかよりも人間性が第一ですよね。CRCK/LCKSも一緒ですよ、おもしろくない奴とは一緒にバンドをやりたくないので」

アフィ「CRCK/LCKSはメンバーの話を聞いていても、おもしろいもんね」

小西「そう、みんなすっげーバカなので(笑)。呑み会でも音楽の話は一切出ないけど、人柄が好きだからこそ続けられている。おもしろい人間からはおもしろい音が出てくるんですよね。だから吉田さんの話を聞いていても、テクニックよりその人が好きだから呼んでいるんだろうなって。WONKもいろんな界隈から仲の良いミュージシャンをサポートとして呼んでいるし」

アフィ「YYGとTAMTAMは、ポップとエクスペリメンタルを両立させるためにいろんな要素のサウンドを採り入れている感じですよね。そういう実験性を打ち出すことによって、根っこにあるポップスとしての強度を高めようとしている。WONKとCRCK/LCKSの場合は、そこが真逆だと思う。根がポップスじゃない人たちが、どうやってポップスに寄っていくか。そういうふうにルートは違うんだけど、(両者が)たまたま重なる瞬間もあるんですよね。ポップスとエクスペリメンタルとの距離感について、ポップスに寄せていくときと外していくときがあると思うんだけど、そこの差がおもしろいのかなって」

――うんうん。

アフィ「あとはCRCK/LCKSが特にそうですけど、ここまで上手いと単純におもしろいですよね。演奏の上手さそのものが超ポップでカッコイイし、ライヴでもすごく踊れる。だから、暴力的だなと(笑)」

一同「ハハハハハ(笑)」

アフィ「個人的には、EDMを聴いてバカみたいにアガっちゃうのと同じような感覚ですね。ここまでされたら、そりゃあ盛り上がるしポップだろうと」

――そういう話で言うと、いまはいわゆる〈ザ・エクスペリメンタル〉な音楽よりも、ポップスという枠組みのなかでどこまでトライできるかを試したほうが実験的だという視点もあると思うんですよね。

小西「確かにそうかもしれない。でも、僕はアンビエント・ノイズや即興作曲のような、キーや調整をまったく無視したような音楽もこっそりやっているんですよ。昔、NYにいたときに好きだったのがジョン・ゾーンが経営しているストーンという店で……」

吉田「言われてみれば、CRCK/LCKSはネイキッド・シティに似てると思ってた」

※89年にジョン・ゾーンがビル・フリゼールフレッド・フリスウェイン・ホーヴィッツジョーイ・バロンと結成したユニット。山塚アイBOREDOMS)がゲストとして参加した

アフィ「わかる!」

吉田「ジャズの人がやっていると知らなかったら、物凄く上手いロックの人がやってるんだろうなと思いそう。最終的にジャズにしたいというヴェクトルが働いてない気がするから。ネイキッド・シティも一応ジャズだと言われているけど、一つ一つのパートは結構ロックだよね。(ドラマーの)ジョーイ・バロンもロックのほうが上手そうだし」

ネイキッド・シティの92年のライヴ映像
 

小西「俺はもう、完全にロック・アルバムだと思っていますよ。そういう話で言うと、(井上)銘がバンド内では一番ポップスに遠い人間ですね。彼は絵に描いたようなギター小僧で、精神性もどちらかというとロック寄り。もちろんジャズが大好きだからそのニュアンスが強いんだけど、出てくる音はすごいポップなんです。それで、(石若)駿は日本のトップだし、ジャズ・ドラマーとして世界レヴェル。でも、彼が好きな音源のなかにはナイアガラとかもあって。CRCK/LCKSで使ってるLINEのグループ・チャットで、大貫妙子のオススメ曲を教えてくれたこともあったし。もちろん新しいものもチェックしているから、バンドの参考になりそうな音源を率先してシェアしてくれている」

――例えばどんなものを?

小西「すぐ思い出せるのは、赤い公園きのこ帝国。どちらもどハマりしました。それから角田(隆太)はメロコアとか海外のメタルも好きで、僕はもともとサンボマスターのコピー・バンドをやっていたんですよ。そして、小田朋美渋谷系以前の感じも好きだし」

きのこ帝国の2016年作『愛のゆくえ』収録曲“愛のゆくえ”
 

――すごいバランスですね(笑)。

小西「小田朋美はヴォーカルもジャズ寄りじゃないから、CRCK/LCKSは何をどうやってもジャズには行かないんですよ。彼女の歌声が引き立つように作れば、必然的にロックやポップスのほうへ行ってしまう。でも、ジャズ的な技巧は確実に入っているから、それがお客さんからしたらヴィヴィッドに映るみたいなんですよね。だからこそ、ネイキッド・シティみたいだと言われるのはすごく嬉しい(笑)」

――WONKについては、皆さんどうですか。

小西「WONKが強いのは、ライヴの世界観とヴォーカルのポテンシャルだと思いますね。彼(長塚健斗)の歌声がすごく好きだし、これからどんどんフィーチャーされていくようになると思う」

クロ「ライヴと音源の印象が全然違うよね。個人的にはライヴのほうが好きだった」

アフィ「音源だとブレインフィーダー的な打ち込みの音使いがおもしろかったけど、ライヴはまた違う感じで」

小西「CRCK/LCKSのリリース・パーティーに出演してもらったときも、めちゃくちゃ気持ち良いバンドだと思いましたね。いまはWONK独自の世界観が構築されようとしている時期だと思うので、これからディティールがどうなっていくのか楽しみです。ライヴの場数もたくさん踏んできているみたいだし、年末にどういうものを見せてくれるのか期待しています」

WONKの2016年作『Sphere』収録曲“1914”のスタジオ・ライヴ映像。インタヴューはこちら