(左から)橋本薫、有馬和樹

 

自身の音楽性を〈ニュー・オルタナティヴ〉と表現し、2016年10月にAnalogfish下岡晃をプロデューサーに迎えたファースト・アルバム『ME to ME』をリリースした4人組ロック・バンド、Helsinki Lambda Club(以下、ヘルシンキ)。Kidori KidoriマッシュThe Wisely Brothers真舘晴子をゲストに迎え、古今東西のオルタナティヴなカルチャーをマッシュアップしたような同作を引っ提げて全国各地を回ってきたリリース・ツアー〈From ME to YOU〉が、いよいよ1月27日(金)の東京・渋谷WWW公演でファイナルを迎えようとしている。

そんな彼らがかねてから憧れの存在と公言しているのが、1月22日(日)に開催される大阪・心斎橋Pangeaでのツアー・セミファイナルにCHAIと共に出演するおとぎ話。過去にもHelsinki Lambda Clubが何度かオファーをしてきたという彼らとの夢の共演が、いよいよこのタイミングで実現する。そこで今回は、両バンドのフロントマン――ヘルシンキの橋本薫(ヴォーカル/ギター)とおとぎ話の有馬和樹(ヴォーカル/ギター)による対談を敢行。音楽シーンのなかでもなかなか比較対象が見つからない2組の個性や、それぞれにとっての〈オルタナティヴ〉について、たっぷりと語ってもらった。

★Helsinki Lambda Clubが切り拓く〈ニューオルナタティヴ〉という気運とは? Analogfish下岡と語る、初作『ME to ME』の背景

★結成16年を経て掴んだ〈おとぎ話らしさ〉とは? 有馬和樹が語る、本当に作りたい音楽を気負いなく表した新作『ISLAY』

 

曲やアルバムを作ることがただ楽しい

――まずは、あけましておめでとうございます。2人にとって2016年はどんな年でしたか?

橋本薫(Helsinki Lambda Club)「2016年はいろいろとあって、アルバムを出したし、ドカッと行かなきゃいけない年だったんですけど、同時に我慢の年でもあったと思っているんです。春から夏にかけてギターの佐久間(公平)がバンドを一時離脱したこともあって活動がスムースに行きづらい部分もあったし、アルバムの評判ももっと拡がってほしいと思っていて。ただ、アルバムを出す前よりも軽やかな気持ちになれているので、2017年からの活動が楽しみになるような1年だったんじゃないかと思いますね」

有馬和樹(おとぎ話)「素晴らしいね。自分がファースト・アルバムの『SALE!』(2007年)を出した頃なんて、そんなこと絶対言えなかったよ(笑)。俺は最初のアルバムを出してから10年ぐらい経つけど、曲やアルバムを作ることがただ楽しいという感覚になっていて、仏のモードになってきてる」

橋本「僕も早くそういう状態になりたいですよ(笑)」

有馬「でも、20代のうちは世間の評価に〈なにクソ〉と思って作品を作ったほうが良いよ」

2016年作『ME to ME』収録曲“This is a pen.”
 

――いまのおとぎ話は、とても自然体で音楽を作っているようなイメージがありますね。

有馬「おとぎ話はいろいろな経験を重ねてきてたからこそ、そこまで行けたということじゃないかな。でも2016年はいろいろとありすぎて、忙しいだけで終わってしまった感じもあって。新作『ISLAY』をリリースしたことはもちろん、バック・バンドとしての活動や映画『溺れるナイフ』(山戸結希監督作)への提供曲(『ISLAY』にも収録された“めぐり逢えたら”)もあったし。でも、自分が好きなことだけをやっているよ。歳を取ると難しいことだと思うから、それができているのはすごく嬉しい。ヘルシンキにはもっとビリビリ行ってもらいたいけど」

おとぎ話の2016年作『ISLAY』収録曲“めぐり逢えたら”
 

――2016年を通して、2人はどんな音楽や映画、アートにハマっていましたか?

橋本「2016年は特に忙しくて、いつもより音楽以外のカルチャーに触れることができなかったんですけど、音楽ならホイットニーノラ・ジョーンズの最新作(『Day Breaks』)を聴いていました。『ME to ME』を作っていた頃はギター・ロックをいろいろと聴いていたんですけど、そうすると疲れちゃうんで、毎日聴けるような優しめの音楽を聴くことが多かった気がします。昔の作品ですけど、ジェイムズ・イハのファースト(98年作『Let It Come Diwn』)をめちゃくちゃ聴いたり」

ホイットニーの2016年作『Light Upon The Lake』収録曲“Golden Days”
 

有馬「へえー。俺は今年リリースされたものだとチャンス・ザ・ラッパーの『Coloring Book』にフランク・オーシャンの『Blonde』、ア・トライブ・コールド・クエストの『We Got It From Here… Thank You 4 Your Service』をめちゃくちゃ聴いていた。どれも圧倒的だったよね。あとはオールド・スクールのヒップホップやブラック・ミュージックばっかり聴いていたかな。ロックは自分の好きなものしか聴いてなかったかも。でもレモン・ツイッグスは良かったよね」

チャンス・ザ・ラッパーの2016年のミックステープ『Coloring Book』収録曲“Same Drugs”
 

橋本「良かったですね」

有馬「あとは映画をたくさん観ていて『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』(2015年)とか。さっきも『胸騒ぎのシチリア』(2015年)を観てきたんだけど、それも最高だったよ。シチリアでロックスターがヴァカンスする映画で、ストーンズの曲が使われていたりして。冒頭でキャプテン・ビーフハートがかかったときは〈おお、来た!〉と思った」

橋本「僕は『シング・ストリート 未来へのうた』(2016年)は観ました。あと旧作では、『台風クラブ』(85年)を観たんですけど、すごくおもしろかったです」

有馬「展覧会だと、東京オペラシティでやっていたライアン・マッギンレーの『BODY LOUD!』が印象に残った」

橋本「僕は東京都美術館の『ゴッホとゴーギャン展』にしか行ってないですね。読んだ本だと、マルセル・デュシャンの伝記が印象的でした」

――デュシャンですか。橋本さんはもともとそういうものが好きなんですか?

橋本「僕はニューヨーク・ダダイズムやマルク・シャガールに代表されるシュルナチュラリスムなど1900年代前半の芸術が好きなんです。そのあたりのアーティストは音楽をやっている人よりも姿勢がパンクな気がして、彼らのアティテュードに影響を受けたり、共感したりすることが多いんです」

 

好きなものを正直に出した結果、そのままじゃないものになっている

――では、ヘルシンキとおとぎ話、それぞれのバンドに対してはどんな魅力を感じますか?

有馬「まだ活動を詳しく知っているわけではないけど、アルバムを聴いた印象は〈音楽を聴く耳をしっかり持っているバンドなんだな〉ということかな。最近はあまり音楽自体を好きじゃないミュージシャンが多い印象もあるから、そこがいちばん印象に残ったかもしれない」

――最高の褒め言葉じゃないですか。

橋本「嬉しいですね。それは僕もおとぎ話の音楽にめちゃくちゃ感じることなので」

有馬「俺はいま35歳だけど、自分たちの世代でまだ音楽をやっている人は本気の人が多いから、最近は本当に音楽が好きなバンドが少ないという話になることがあって。でも、Helsinki Lambda Clubは〈こいつら音楽が好きなんだろうな〉という感じがあって、そこが本当に良いと思った。たとえば、ベースの稲葉(航大)くんのプレイを聴いていても、手癖ではやっていない。音楽が好きじゃないとできないプレイでめちゃくちゃ良いんだよね」

橋本「僕らにとっておとぎ話は、作品を重ねるごとにどんどん変わっていくのに、どんな音を鳴らしても揺るぎない〈おとぎ話らしさ〉があるバンドというイメージです。それこそがオリジナリティーだと思うし、憧れますね。まだ大学の頃に“Boys don't cry”を聴いて、バンドってこれだよなと思ったことをすごく覚えています」

おとぎ話の2007年作『SALE!』収録曲“Boys don’t cry”
 

有馬「めっちゃ嬉しいな。この間never young beachとツーマンをやったときにも、(安部)勇磨がMCで、〈初めておとぎ話を聴いたときに、これまで聴いてきた音楽って何だったんだろう?と思った〉と言ってくれて。年下の人たちにそういうふうに言ってもらえる機会が増えていることは、素直に嬉しい」

橋本「おとぎ話の音楽にはエネルギーがありますよね。絵画に喩えて言えば、作っている人の聴いてきた音楽がキャンヴァスだとしたら、そこに絵の具をぶちまけてビシャッとはみ出ているような感覚がおとぎ話にはあると思う。その〈ビシャッ!〉と飛び散るような、衝動的な部分がすごい」

有馬「やっぱり、気合いを入れないと音源は作れないんだよ。だから、1曲1曲に入魂している感じが伝わっているなら嬉しい。それはおとぎ話にとってずっと変わっていないものだと思うし。いまはやるなら本気でやらなきゃ伝わらない時代だと思うから、それを感じてくれて一緒にやりたいと思ってくれたのならめちゃくちゃ光栄だよ」

――橋本さんにとって理想的な活動をしているバンドのひとつ、ということですよね。

橋本「そうですね。それに、こんなことを言うと失礼かもしれないんですけど、ヘルシンキはめちゃくちゃ不器用なバンドなんですけど、おとぎ話にもそれが滲み出ていると感じるんです」

――両バンドに言えることだと思いますけど、やりたいことに正直な感じがあります。

橋本「そうですね。僕はおとぎ話の〈奇を衒っていないのに、傍から見るとひねくれたものに見える〉ところもすごく好きで。実際、奇を衒ったりはしていないですよね?」

有馬「全然してないよ。最初のアルバムの2曲ぐらいは衒ったかもしれないけど(笑)。あの頃は銀杏BOYZのツアーの前座で出ていたから、銀杏BOYZのファンの人にも気に入ってもらえる曲を書く必要があった。でも、そういうことをたまにやるとおもしろいよね」

――お互いの音楽を聴いて、共通する部分や違いを感じるところというと?

有馬「似ているところはないんじゃないかな? ヘルシンキがおとぎ話に似せようとしているところってないでしょ? 俺たちも、最初の頃は誰かに似ていると思ったことはなかったし」

橋本「そうですね。でも好きなものを正直に出した結果、そのままじゃないものになっているという部分は共通しているのかな、と僕は勝手に思ってます」

――さっきの〈音楽が好きそう〉という話に通じると思うんですが、それぞれの好きなカルチャーがオマージュのように盛り込まれている部分は共通しているかもしれないですね。ヘルシンキで言うと、『ME to ME』の6曲目“Morning Wood”の〈あいつは総理 boring lorry, baby〉という歌詞は、音だけ聴くとオアシス“Morning Glory”の〈What's The Story Morning Glory?〉にしか聴こえない。

橋本「あれは完全にそうですね(笑)。僕らはそうした遊びを入れたがっちゃうんです」

『ME to ME』のトレイラー映像
 

――おとぎ話で言うと、最新作『ISLAY』の“DREAM LIFE”にはビートルズの“I Feel Fine”などいろいろなフレーズが挿入されていて、ニヤリとさせられます。

有馬「俺たちがそういうフレーズを入れているのは、サンプリングしているみたいな気持ちからかな。バンドをやっていると、〈あの音楽っぽい〉と言われることがあるけど、〈いやいや、サンプリングだし〉と言うと楽しくなってくるというか(笑)。それっておもしろいし、今回のアルバムではやらないともったいないなと思って。ヘルシンキの場合は〈遊ぶ〉というよりももっとストレートにやっているイメージで、清々しいよね」

おとぎ話の2016年作『ISLAY』収録曲“JEALOUS LOVE”
 

橋本「確かに、邪念は全然ないです。むしろ〈ここに入れたら気持ち良いじゃん〉みたいな感覚。それがオマージュになるかパクリになるかはセンスの問題だと思うので、おもしろいのか/そうじゃないのかということは考えて選り分けますけどね」

――どんなふうに曲が生まれることが多いんですか?

有馬「俺は友達と話をしているときのようなカジュアルなテンションのときに、鼻歌で作っていくことが多いかな。日常にないものから着想を得るタイプではないんで」

橋本「僕は本当にバラバラですね。ただ、自分の日常にないものから着想を得ることも楽しいけど、基本的に〈グッとくる感覚〉を大切にしているんで、そうすると僕も日常の延長線上にあるもののほうが響いてくるんです。恋愛で心揺さぶれることもあるし、他のバンドの良いライヴを観たりすると〈自分も良い曲を作ろう〉と思ったりするし」

――話を聞いていると、お互い近からず遠からずという良い距離感を感じますね。

有馬「近すぎたら一緒にバンドをやっていると思うし(笑)。対バンをするにしても、近すぎるバンドとやってもおもしろくないと思うんですよね」