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サンダーキャットの官能的でシルキーな歌声に注目! ケンドリック・ラマーやファレルが参加した新作『Drunk』を紐解く

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  • 2017.02.22
photo by Eddie Alcazar

 

ソング・オリエンテッドな新境地に踏み込んだ傑作!

 偶然とは思えないほどのタイミングで、昨年末から今年頭にかけて、超絶技巧を誇るベーシストの傑作が相次いで届けられた。まず、シャクティの打楽器奏者、セルヴァガネーシュを迎えて制作された今沢カゲロウのソロ作。次に、スクエアプッシャーことトム・ジェンキンソンがバンド編成で生演奏を突き詰めたショバリーダー・ワンのアルバム。そして、この度紹介するサンダーキャットの待望のフル・アルバムだ。いずれもジャコ・パストリアスからの影響を滲ませる饒舌なベース・プレイを得意としながらも、テクニックをいたずらに見せびらかすようなことはせず、パッケージとしてのクオリティを考え抜いた作品になっていたのが印象的だ。ずば抜けたスキルを持ちながらも、決してワンマン・プレイに走ることなく、豊富な音楽的ヴォキャブラリーを駆使した総合力で勝負しているところが、3作品に共通する。

 話をサンダーキャットことスティーヴン・ブルーナーに移すと、まずは彼の華麗なる経歴を語らずにはいられないだろう。世界的なジャズ・ドラマーのロナルド・ブルーナー・シニアを父に持ち、兄のロナルド・ブルーナー・ジュニアロイ・ハーグローヴと共演した他、カマシ・ワシントンのバンド・メンバーとして活躍中。彼自身、高校生の頃からスイサイダル・テンデンシーズリオン・ウエアというまったくジャンルの異なるバンドをかけもちし、また、スタンリー・クラークのツアーに帯同するなど、ベース・プレイヤーとして非凡なところを買われていた。スタンリーのピッコロ・ベースに想を得たであろう、コンプレッサーの効いた軽めの音は今や彼のトレードマークともなっている。

 そんな彼にとっての転機は、ケンドリック・ラマー『トゥ・ピンプ・ア・バラフライ』やフライング・ロータス『ユー・アー・デッド!』、カマシ・ワシントン 『ザ・エピック』といった名盤に参加したことだった。2015年末にリリースされた『ザ・ビヨンド/ホエア・ザ・ジャイアンツ・ローム』はそうしたレコーディングの余波を受けたという作品だった。ハービー・ハンコックをゲストに迎えた同作は、シンガー・ソングライター然とした風情を見せており、ミニ・アルバムながら本作の予告編的意味合いを持っていたように思う。

THUNDERCAT Drunk Brainfeeder/BEAT(2017)

 果たして届けられた新作 『ドランク』はサンダーキャットの官能的でシルキーなヴォーカルが前面に出た、ソング・オリエンテッドなつくり。ヒップホップやフュージョン、R&B、コズミック・ソウルなどが入り混じったエクレクティックな構造は変わっていないが、これまでで最も“歌”の比重が高い作品となっている。彼流のソウルAORとも言えるシックで洗練された楽曲の数々は、“ビート・ミュージックを通過したマーヴィン・ゲイ”あるいは“ヒップホップのタイム感を体得したカーティス・メイフィールド”とでも呼びたくなる。

 ケンドリック・ラマー、ファレル・ウィリアムス、フライング・ロータス、マイケル・マクドナルドケニー・ロギンスウィズ・カリファ、カマシ・ワシントンなどゲストは豪華。国内盤にはマック・ミラーが参加したボーナストラックを含めた計24曲が収録されている。だが、最も成長を見せたのはサンダーキャット自身のヴォーカルで、ゲスト陣のラップや演奏に負けじと存在感を放っている。

 一方、個性的なベース・プレイヤーとしての側面は分かりやすい形では表出していない。饒舌なソロを聴かせる場面は減った、といってもいいだろう。だが、小節を自由にまたぎながら歌と張り合うその演奏のポテンシャルは、いささかも勢いは衰えていない。ジャコ・パストリアスやポール・ジャクソン櫻井哲夫からの影響を消化したプレイは、自由闊達に歌のバックで駆け回り、楽曲のニュアンスにふくらみと奥行きをもたらしている。

 冒頭で述べたように、卓越したベース奏者でありながら、その技をあえて誇示しないサンダーキャット。その代り、ヴォーカルを中心に据えたオトナの音楽を聴かせてくれている。『ドランク』はまたしても新たな領域に踏み込んだ金字塔的作品と言って差し支えないだろう。

 


LIVE INFORMATION

THUNDERCAT presents “DRUNK” JAPAN TOUR
○4/27(木)18:30開場/19:30開演 会場:恵比寿 LIQUIDROOM
○4/28(金)1stステージ 開場17:30/開演18:30 2ndステージ 開場20:30/開演21:15 会場:名古屋 BLUE NOTE
○4/29(土)18:30開場/19:30開演 会場:京都 METRO
○4/30(日)18:00開場/19:00開演 会場:Conpass (大阪)
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