INTERVIEW

上原ひろみが求めるのはサプライズ! 矢野顕子とのライヴ盤で実践した、限界を超えるためのアレンジ術と相乗効果を明かす

矢野顕子×上原ひろみ『ラーメンな女たち -LIVE IN TOKYO-』

私が化学反応を感じるのは、サプライズを求めている人たち

――ちなみに、アルバムのタイトルにもラーメンが入っていますし、“ラーメンたべたい”はメインの曲という位置付けなんですか?

「矢野さんのアイデアで〈ラーメンな女たち〉というコンサート・タイトルになったのが先で、メインにするどころか、もともと“ラーメンたべたい”を演奏する予定もなかったんです。でも(セットリストが)7曲まで決まったあとに、“ラーメンたべたい”のアレンジがポンッと浮かんできて。〈すごく格好良いラーメン思い付いた!〉と矢野さんに連絡して、それで急遽やることになったんです。前回やった曲はなるべくやらないようにしようと打ち合わせていたんですけど、前回とはまったく違うアレンジになるし、同じようには絶対に聴こえないと思うと言ったら、採用されました」

矢野顕子×上原ひろみの2011年作『Get Together -LIVE IN TOKYO-』収録曲“ラーメンたべたい”のライヴ映像
 

――こうやってお話を伺っていると、このプロジェクトではアレンジャーとしての役割が大きいみたいですね。

「そうですね、このプロジェクトではアレンジャーとしてフルに活躍している感じがします」

――キメも多いし、ピアノの音色やフレーズでもお互いが明確に違う感じで弾き分けている感じがしていたので、書いてあるのか、それぞれが勝手にやってそうなったのか、どっちなんだろうとは気になっていました。

「セクションによりますけど、アンサンブル・パートとして書いてあるところは、ビッグバンドの感覚にすごく似ていますね。イントロがあって、テーマに入って、そこからソロ・セクションがあって、そういう部分は自由で。そこからまたソロとソロの間にインタールードがあって、またそこでソリ・セクションになって、みたいな作りのものが多いですね」

――なるほど。オ―ルド・スクールなジャズのフォーマットでやってみたというか。

「そうですね」

――普段の上原さんはプログレッシヴで尖っている印象がありますが、今回はちょっと柔らかい感じや懐かしさみたいなものが垣間見えるのは、そのへんも関係があるのかもしれないですね。

「あるいは歌の力なのかもしれないですし、歌詞があって、その書いてある部分と自由な部分の押し引きというか、そこもすごくバランスが良かったなと思います」

――ちなみに歌い手と一緒に演奏する時には、歌詞は頭に入れておくようにしているんですか?

「歌詞は頭に入れておきたいというのはありますね。歌の意味を届けたいので、そういう意味で何度も聴いて身体に入れてやりたいと思っています」

――そもそも上原さんが歌と一緒にライヴをやる機会は少ないですよね。昨年の〈サマソニ〉では、永積タカシさんと一緒にハナレグミの“深呼吸”を披露していましたけど。

「“深呼吸”はいい曲ですよね。是枝裕和監督の『海よりもまだ深く』という映画のテーマ曲で、それをきっかけに知りました。あの日は匂いというか、すべての演出が相乗効果だった気がする。時間帯もそうだし、温度や湿度、観客の方の疲れもすべてが音楽という感じがしました」

――僕もそうですし、あの日は周りのオーディエンスが感動しているのが伝わってきましたね。上原さんの伴奏も、熊谷和徳さんのタップも良かったし。上原さんはもっと歌と一緒にやったらいいなと、みんな思ったんじゃないでしょうか。

「そうですね。自由にやらせてくれる歌手の方がいれば」

――そういう意味では、矢野さんは自由にやらせてくれる歌手ですよね。

「すごく自由に行きたいところへ行かせてくれるし、どこに行ってもびっくりされないし。矢野さんは音楽のなかに常に驚きを求めている、サプライズ大歓迎のミュージシャンなんですよね。一つの芸術フォームとして、予定調和の素晴らしさもあるんでしょうけど、私が化学反応を感じるミュージシャンというのはサプライズを求めている人たちなので。そういう意味で、矢野さんの即興性にはすごく惹かれます」

――即興性というと、例えば?

「毎回驚くんです。このアルバムのレコーディングでも、何曲かアンコールで〈すいません、もう一回やらせてください〉とお客さんに言ってテイク2を録ったんですよ。“ラーメンたべたい”のソロの部分で、テイク1ではスキャットするだけだったのが、テイク2の頃にはお腹がとても空いていたのか、ラーメンの味とかも言いだして(笑)。〈醤油もいいよね、でも、塩〉とかインプロしだしたんですよ。〈ラーメンたべたいときは〉のくだりも全部インプロヴィゼーションで、あんなのはリハから本番まで一度もなかった。よっぽど明確に食べたい気持ちがあったのか、(この曲を)最後にやったのでよっぽどお腹が空いていたのか。終わった瞬間に〈お腹が空いた〉とおっしゃってたし、それがプラスに働いたのかもしれないけど。矢野さんのそういうところがすごくおもしろかった。私、笑顔が止まらなかったです。もう、行くところまで行っちゃって!という気持ちでしたよ」

――ハハハ(笑)。

「〈ラーメンたべたい、いますぐ!いますぐ!〉とブルージーな声でシャウトするのも、テイク2だけでした。よっぽどいますぐ食べたかったのかわからないけど、そこでバトンを渡されて、私のソロ・セクションが始まったので、すごくいい形になりましたね。そういうインプロヴィゼーションは相乗効果を生み出すもので、やっぱり驚かされたら自分ももっと行こうとなるし。お互いが〈もっともっと!〉と思える関係がベストで、矢野さんはそれができる相手です」

――“ラーメンたべたい”は、お互いが盛り上がっていく昂揚感がライヴ!という感じがしますよね。ちなみに、このコラボは今後も続けるんですか?

「私はそのつもりでいます。矢野さんは〈体力が続く限り〉とおっしゃってました」

――たくさん練習する必要があるでしょうし、大変ですもんね。

「でも矢野さん、どんどん声が出るようになっているんですって。歳を取れば取るほど。そんな話、聞いたことないですよね。〈どんどん声が出るのよ、上の音域がどんどん出るのよ〉って。やっぱり矢野さんは普通じゃないです」

――進化しているんですね。それこそ、アンソニー・ジャクソンやサイモン・フィリップスも、上原ひろみに鍛えられて、あの歳で進化している感じがあるじゃないですか。

「いろんなものをもっと吸収したいという気持ちを持っている人と一緒にやりたいし、そういう仲間が集まるから、一緒に進化していけるような人が多いなとは思いますけど。私が鍛えているわけでは決してないですよ(笑)」

――ちなみに、トリオ・プロジェクトと矢野さんとのデュオ以外で、今後やろうと思っていることはありますか?

「今年は新しいことをやります。コロンビア人のハープ奏者、エドマール・カスタネーダとかなりの本数をデュオでやります。こんなハープ、聴いたことないって人です。私も初めて観たときは開いた口が塞がらなかった。最初はモントリオールのジャズ・フェスで同じステージになって、彼がオープニング・アクトだったんですけど本当に感動して、本番後に〈一緒に演奏したいね〉みたいな話をしていて、連絡先を交換したんですよ。その後、NYのブルーノートで私が1週間公演をやった時に、彼にゲストで参加してもらって何曲か一緒にやったんですけど、なんでこれまで一緒にやらなかったんだろうと思うくらいに運命的なものを感じて。彼は演奏のエネルギー・レヴェルがすごく高い人なんです、一音入魂タイプというか。本人が言うには〈一緒にやっているメンバーの魂レヴェルを引き上げることがいつも難しかったけど、ひろみとやる時はその努力がまったくいらない」ということらしくて。音楽をやっているときのエネルギー・レヴェルが、お互い高いんだなと」

エドマール・カスタネーダのソロ・パフォーマンス映像
 

――エネルギー・レヴェルが高い人と相性がいいというのはわかります。上原さんとよく共演されているタップの熊谷和徳さんもエネルギー・レヴェルが高いですよね。

「熊谷くんはランナーズハイみたいなのがあるから、やっているうちにどんどんエネルギー・レヴェルが高くなっていくというか」

――〈サマソニ〉のアンコールで、永積さんがサビの〈あと一歩前に〉というフレーズをずっとシャウトさせられ続けて、熊谷さんはひたすらタップやらされて、この人たち大丈夫かなと思いました(笑)。

「不思議ですよね、私がやらせているわけじゃないのにそういう印象になっていて。私はずっとバッキングしていただけで。やっていたのは熊谷くん自身なんですけど。なんで、私がやらせているように見えちゃうのかな(笑)」

――むしろ上原さんは、ガンガン煽っているように見えましたけど。

「ああ、煽ってるのかもしれないですね、気付かないうちに。ニコニコしているんですけどね、でも笑顔が悪魔だとか言われるんです(笑)」

――でも楽しそうで、やり切った感もあって、本当にすごいライヴでした。そういえば、矢野さんもエネルギー・レヴェルが高い人ですもんね。

「〈ラーメンな女たち〉のライヴが終わったあとも、矢野さんはすごく元気で。もう一回公演できるんじゃないの、とおっしゃってました」

――上原さんには天然の煽り力があるのかもしれないですね。矢野さんの過去の音源を聴いていると、クールというか静かなエモーションがある印象なんですけど、上原さんとやっているときはすごく開放感があって、矢野さんのなかでも上原さんとのデュオは特別なんだろうなという気がしました。

「私が一緒にやる方は、みんなそういう感じの相乗効果があるのかもしれないですね。〈ギリギリまでやる、限界のその先へ〉みたいな感じがみんなあるから。私が煽っているわけではなくて、相乗効果だと思いたいんですけど(笑)」

 


矢野顕子×上原ひろみ TOUR 2017 ラーメンな女たち
4月15日(土) 静岡市民文化会館 中ホール
4月16日(日) 大阪・フェスティバルホール
4月18日(火) 東京文化会館 大ホール
4月19日(水) 東京文化会館 大ホール
4月21日(金) 福岡・ももちパレス
4月23日(日) 愛知県芸術劇場 大ホール
4月25日(火) 東京・昭和女子大学 人見記念講堂 (追加公演)
4月30日(日) 札幌市教育文化会館

ARABAKI ROCK FEST.17出演
4月29日(土・祝) みちのく公園北地区「 エコキャンプみちのく」

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ポール・マッカートニー