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MAX RICHTER
新作アルバムをリリースするたびに斬新なアプローチに挑む、ポスト・クラシカルの最重要作曲家

 テクノやアンビエントにとってクラシックは欠かせない。なんて言うと「何言ってんだ、コイツ」と思われる人もいるかもしれない。だがしかし、彼らが用いるミニマルやドローンといった手法はクラシック(現代音楽)の作曲家が編み出した新しい手法だった。それらが生み出されてから半世紀以上が過ぎ、既にクラシックと電子音楽の垣根は無いに等しい。そんな現代と古典の融合による音楽の最新形態が“ポスト・クラシカル”というジャンル。その生みの親の一人が、ここで取り上げるマックス・リヒターだ。(ポスト・クラシカルという用語を使い始めたのも彼が最初)リヒターは現代音楽の奇才ルチアーノ・べリオに師事したクラシック畑出身。ストリングス(弦楽合奏)とエレクトロニカ(電子音楽)の融合が核となるポスト・クラシカルの申し子ともいうべき境遇で学び、その道を切り開いてきた。クラシックの基礎知識(和声法)と電子楽器の再生技法を共に熟知した彼ならではの高性能な音楽は、西洋音楽の轍に沿ったものといえる。が、リヒターの評価はクラシック音楽が連綿と引き継いできた“静謐”をテクノに持ち込んだ事にこそあるといっていい。これまでスタンディングで聴くモノであったテクノをじっくりと“聴き込む”音楽に昇華させた彼のスタイルは、瞬く間にヨーロッパ中を席巻。映画『シャッター・アイランド』での音楽担当やレディオヘッドにも影響を与えるなど、今なお影響は広がりを見せている。そんな彼の最新作は、英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズンで上映されるバレエ「ウルフ・ワークス」のために書かれた音楽をまとめた1枚だ。

 ここまで読むと何やら難しそうな音楽か…と思われるかもしれないが、一度耳にしていただければ、その“人に優しい”音に癒されること請け合い。おそらく、これまで人類が体験した音楽でも、最も間口の広い音楽であることは間違いない。奥もトコトン深いが。 (渋谷店 大場健)

 

マックス・リヒター MAX RICHTER
1966年ドイツ生まれ。 新作を発表するたびに斬新なアプローチでリスナーから根強い人気を獲得する世界で最も売れているコンポーザー、マックス・リヒター。村上春樹の英訳テキストを用いた『Songs From Before』(2006)、携帯電話の着信音を変奏曲形式で作曲した『24 Postcards in Full Colour』(2008)などの作品の他、映画やバレエのシーンにも楽曲を提供するなど活躍の場は限りなく広い。