メタラーでジャズピアニストの西山瞳さんがメタルにまつわるあれこれを綴る連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。第75回はロック史上最大の名盤の一つ、ディープ・パープル『Machine Head』について。豪華盤が話題の本作を、ジャズプレイヤーの視点から掘り下げてくれました。 *Mikiki編集部

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ディープ・パープル『Machine Head』、言わずと知れた、ハードロックの金字塔アルバムですね。

50年以上前の作品ですが、今月、スーパー・デラックス・エディションがリリースされます。

DEEP PURPLE 『Machine Head (Super Deluxe Edition)』 Rhino/ワーナー(2024)

内容がすごいんです。

『Machine Head』だけで、
(1)ドゥイージル・ザッパ2024リミックス
(2)2024リマスター
(3)ドゥイージル・ザッパ2024アトモス・ミックス
(4)1974アメリカ・クアド・ミックス
(5)ドルビー5.1サラウンド・ミックス
以上5バージョンを収録。

これに加え、
(6)イン・コンサート’72
(7)モントルー’71(未発表ライブ音源)
この2枚のライブ盤が付きます。

(1)〜(5)は、いくらなんでも、やりすぎじゃないですか(笑)。

これを買う方は、もうすでに何年も『Machine Head』を隅々まで聴き込んで、枝葉末節まで覚えている方が大半だと思います。マシンヘッド勇者!

勇者でなくとも、5バージョンも一気に付けるほどの作品ですから、〈“Highway Star”や“Smoke On The Water”ぐらいは知ってるけど、アルバムを通して聴いたことはない〉という方がいらっしゃったら、これを機会にぜひ聴いてみてください。後述しますが、ジャズファンも楽しめること請け合いです。

 

私自身は、メタルを聴く前、中学の時には、このアルバムは聴いていたと思います。
なぜ聴いたのか忘れましたが、きっとB’zのインタビューで紹介されていたのではないかと思います。私の洋楽ロックの入り口は、もっぱらB’zのインタビューでしたから。私の持っているCDのライナーノートを確認すると、最後に〈1986年12月21日 酒井康〉と書いてありますね。

メタルを聴く前にも楽しく聴いていたし、高校生になってイングヴェイ・マルムスティーンをきっかけにメタルを聴き始め、イングヴェイが大好きだからという理由でリッチー・ブラックモアを聴きたいと思い、またディープ・パープルに遡ってと、常に楽しく聴いていたと思います。

 

このアルバムの私にとっての魅力は、とにかくギターとオルガンのインストタイムでした。歌よりインストの方を楽しく聴いていたし、バンドをやっていたわけでもないのに、ソロのラインが結構頭に入ってしまっています。今回リリースされたドゥイージル・ザッパのリミックスは、かなり綺麗に整頓したミックスになっていて、とても聴きやすくなっていました。

でも、改めて聴き直してもやっぱり、ギターとオルガンがソロをしている時間が妙に長い。歌ありのバンドって歌がメインのはずだと思うのですが、なんだかいびつなぐらい、インストの時間が長く感じます。

1曲目、皆さんご存知“Highway Star”の時間を見てみましょう。

イントロ 0:00-0:36 36秒
歌1番 0:37-1:17 40秒
歌2番 1:18- 1:58 40秒
オルガンソロ 1:59-3:06 67秒
歌3番 3:07-3:47 40秒
ギターソロ 3:48-5:06 78秒
歌4番からエンディング 5:07-6:10 63秒

オルガンソロ、ギターソロの入るタイミングも面白いのですが、〈インスト181秒:歌183秒〉という、歌とほぼ同じだけの時間、リスナーはインストを聴いているんですよね。

2曲目“Maybe I’m A Leo”も同じように計ってみます。

イントロ 0:00-0:23 23秒
歌1番 0:23-0:54  31秒
リフ 0:55-1:17 23秒
歌2番 1:18-1:49  31秒
ギターソロ 1:50-2:21 31秒
オルガンソロ 2:22-2:53 31秒
リフ(ドラムソロ気味) 2:55-3:16 21秒
歌3番 3:17-3:48 31秒
リフ(ドラムソロ気味)からのギターソロ 3:48-4:51 63秒

〈インスト192秒:歌93秒〉と、圧倒的にインストが長いですね。

3曲目“Pictures Of Home”は私の大好きな曲なので、こちらまで見てみます。

ドラムソロ〜リフ 0:00-0:20 20秒
歌1番 0:21-0:51 30秒
リフ 0:52-1:05 13秒
歌2番 1:06-1:36 30秒
ギターソロ 1:37-2:22 45秒
歌3番 2:23-2:53 30秒
オルガンソロ 2:54-3:38 44秒
ベースソロ 3:39-3:51 12秒
リフ 3:52-4:10 18秒
ギターソロ 4:11-5:05 54秒

〈インスト206秒:歌90秒〉と、やはり圧倒的にインストの時間が長いです。

ということで、やっぱりインストの比重がかなり大きいんですよ。

プログレ並のインストタイムですが、プログレのような、情報量が多くて聴く方もカロリーを大量消費するような読後感がなく、どの曲も滅茶苦茶キャッチーでくたびれない。そして歌の存在感と推進力が圧倒的なので、歌が入るとその求心力でぐっと歌に持っていかれて、つるっと聴けちゃうんですよね。インストの技量と強烈なキャラクター、曲のキャッチーさ、歌のスター性、奇跡のバランスのアルバムですよ。