INTERVIEW

御喜美江がレンナ教会で〈バッハ平均律〉を初録音、アコーディオンのポテンシャルの高さを改めて堪能する一枚

御喜美江『J.S.バッハ(1685-1750):平均律クラヴィーア曲集第1巻、第2巻より』

(C)Marco Borggreve

13世紀に建てられたレンナ教会で〈バッハ平均律〉を初録音!

 聴き慣れている音楽が、まったく異なった装いで響く。御喜美江のアコーディオンが奏でる、バッハの『平均律クラヴィーア曲集』は、バッハ作品のもつ奥行きの広さ、そしてアコーディオンという楽器のポテンシャルの高さにあらためて気づかせてくれた。

御喜美江 J.S.バッハ(1685-1750):平均律クラヴィーア曲集第1巻、第2巻より キング(2017)

 他の鍵盤楽器に比べ、サウンドが立体的で、一人ではなくアンサンブルで奏でているようにさえ聴こえる。とくに、フーガでの声部が他の声部を追いかけている様子が実に生々しい。「アコーディオンの場合、右手と左手では、音が出るところが違うんです。中声部がステレオのように聴こえるのかもしれません」

 アコーディオンでは、短い音は弱く響き、長い音は強く聴こえる。つまり、アーティキュレーションを変えることで、強弱を作り出すという。その操作が実に自然で巧みなのだ。

 使用している楽器は、1972年製の〈ジョヴァンニ・ゴラ〉。その最大の特徴は音色だ。「きらびやかな音が出るのですが、明るい音であってもそこには陰影感があるんです。ただ明るいだけでなく」

 アコーディオンと出会ったのは4歳のとき。「若いときに歌声喫茶に通っていた父が、競争やコンクールも関係ない、愉しい楽器として薦めてくれたんです」

 バッハの音楽は、その頃から好きだった。初めて買ってもらったレコードは、カール・リヒターが指揮する『管弦楽組曲』。これを聴くために家に帰るのが楽しみだったくらいの入れ込みようだった。

 ピアノでは〈メヌエット〉を弾き、こんな美しい音楽があるのだろうかと感激した。メヌエットの意味も、まだ知らなかった頃だ。

 折にふれてバッハは演奏してきたものの、〈平均律〉を録音するのは今回が初めて。「この曲は、ごまかしのきかない作品なんです。何か変なことをやろうかと思うと、すぐ落とし穴が待っているような感じもします。一生の課題といえる作品です」

 BISレーベルでは、マショーからジョン・ゾーンやAyuoまで、幅広いレパートリーを録音してきた。今回もこれまで同様、スウェーデンのレンナ教会でレコーディングを行った。「車で森の中を走って湖に出ます。その湖畔にある13世紀に建てられた教会」は、演奏するにはパラダイスな場所だという。

 次に録音したい曲は、ヤナーチェクの《草陰の小径にて》。バッハ作品では、《パルティータ》や《イギリス組曲》に関心を寄せる。「舞曲はやりやすいんですよ。アコーディオンが生まれ育った環境に、踊りというものは欠かせませんから。でもね、同じバッハといっても、フーガの技法はちょっと……(笑)」

 


LIVE INFORMATION

Music Program TOKYO プラチナ・シリーズ第2回
御喜美江&大田智美 ~クラシック・アコーディオン 知られざる深遠な世界~

○10/6(金) 18:30 開場/19:00 開演
会場:東京文化会館 小ホール
出演:御喜美江(acc)/大田智美(acc)
曲目:J.S.バッハ:幻想曲とフーガ ト短調 BWV542/グリーグ:ホルベルク組曲/ピアソラ:オブリヴィオン(忘却)、エスクアロ(鮫)/他
www.t-bunka.jp/

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