メイヤー・ホーソーンとジェイク・ワンによるプロジェクト、タキシード。マスターピースとなった2015年のファースト・アルバム『Tuxedo』に続き、今年3月に発表されたセカンド・アルバム『Tuxedo II』においても、ファンク、ディスコ、ブギーなどを交えた80s趣味全開でありながら、ナウなフィーリングに満ちたサウンドを聴かせてくれた彼ら。去る4月には前作に引き続きここ日本でも歓迎されている同アルバムを引っ提げて、東京と大阪でリリース・パーティーを開催。つい先日、Billboard LIVE TOKYO/OSAKAで行われる単独公演と〈SUMMER SONIC 2017〉内のイヴェント〈Billboard JAPAN Party!〉での再来日も発表されたばかりな忙しい2人にお話を……ということで、今回はスペシャルな対談をセッティング。そのお相手は、タキシードと近しいルーツを持ち、それらを現在進行形のポップスとして仕立てているあの人――そう、NONA REEVESの西寺郷太! 本人も大のファンを公言し、取材現場にもツアー・グッズのジャケットを着て登場です。では、さっそく始めましょ!
時代に流されない2人の音楽が、トレンドになってるのがうれしい
西寺郷太「メイヤーとはBillboard-LIVEで数年前に挨拶したから2度目、ジェイクとは初めてですね。今年は僕のバンド、NONA REEVESがデビュー20周年のアニヴァーサリーで、この間ベスト・アルバムが出たばかりだから持って来たんだけど」
ジェイク・ワン「それはおめでとう!」
――せっかくなんで、ここで一曲聴いてもらいましょうよ。
郷太「お! じゃあ……“BAD GIRL”で。これは99年に出した曲なんだけど、ボズ・スキャッグスが好きで。“Lowdown”を意識して作ったんだけど」
ジェイク「すごくスムーズなサウンドだね。ハワイっぽい感じもするよ」
郷太「音楽性はあまり変わらないんだけど、このときはずいぶん声も若い(笑)」
ジェイク「NONA REEVESはどんなバンドなの?」
郷太「メンバーはドラムの小松(シゲル)とギターのオッケン(奥田健介)と僕の3人。そのほかにもプロフェッショナルなプレイヤーたちと一緒にやってるよ。NONA REEVESの〈ノーナ〉はマーヴィン・ゲイの娘のノーナから、〈リーヴス〉はマーサ・リーヴスからとった。あといま僕がやってるレーベル〈GOTOWN〉は、大好きなモータウンからだし(笑)」
ジェイク「それはグッドな名前だね!」
郷太「ここ数年のフェイヴァリットは、タキシード!」
ジェイク「ホントか?」
メイヤー・ホーソーン「こんなジャケット着てるぐらいだからビッグファンに決まってるよ(笑)」
ジェイク「Tシャツまでタキシードのやつだな(笑)」
――日本にはタキシードのファンがたくさんいますけど、そのなかに音楽的にも近い感覚を持っているミュージシャンがいるということには、どんな感想を?
メイヤー「そうだね、とにかくミュージシャンがいちばん厳しい評論家なので、そういう人から好きだと言われるのは本当にうれしいよ。自分たちだって好みがすごく厳しいし、ミュージシャンとしての視点というものがわかるので、そういう人たちから言われるのは本当にうれしいんだ」
ジェイク「LAとかでパフォーマンスしてると、オーディエンスがみんなエンターテイナーだったりすることもあるんだけど、そういう人たちを喜ばせるパフォーマンスをするのはすごく難しいんだよね。そういうことも経験しているから、ミュージシャンに好かれるっていうことの光栄さはよくわかるんだ」
郷太「僕のまわりにはタキシードのことはもちろん、メイヤーとジェイクそれぞれの活動をリスペクトしているミュージシャンがすごく多いよ」
メイヤー「それはうれしいね」
郷太「メイヤーの来日ライヴに行ったときも、ミュージシャン仲間にたくさん会ったし」
メイヤー「そういうふうに気に入ってもらえるのはうれしいし、ミュージシャンに気に入られるミュージシャンっていうのは本当に誇りだね」
ジェイク「何がすごいかって、自分たちは技術的にものすごく優れたミュージシャンというわけではないのに、自分たちより優れた人たちから評価されているということで。タキシードの作品はとにかくスタジオで一所懸命作って、スタジオでのトリックを使って出す音楽だから、テクニックのあるプレイヤーから誉められたりすると、なおさらうれしいんだ」
――タキシードもNONA REEVESもミュージシャンズ・ミュージシャンなところはありますよね。ルーツも近いところで、西寺さんとしてはタキシードの活躍が励みになることもあるんじゃないですか?
郷太「僕は80年代に少年時代を過ごして、マイケル・ジャクソンやプリンスに夢中になったんだけど、日本ではなかなかバンドでそれらのムードの音楽を追求するミュージシャンが90年代後半から2000年代にかけてはいなくて。タキシードの2人も、世の中のトレンドとは関係なく〈こういう音楽が好きなんだよね〉ってお互いの趣味の音源を交換していたという話を聞いたことがあります。時代に流されない2人が作り出した音楽がいまトレンドになっていて、みんなが夢中になってるっていうのは僕としてもうれしいんですよ」
メイヤー「国や土地によって音楽のトレンドが違う、ローカルのミュージック・シーンっていうのはあるんだけど、やはり驚くのは例えばオーストラリアなんかに行っても、ものすごいレコードを出してくる地元のDJとか、本当にびっくりさせられるような人と出会うことが多いこと。いろいろな国に行ってもその土地土地で微妙にトレンドが違うんだけど、僕たちと同じようにファンクが大好きだという人は、DJにしてもオーディエンスにしてもいっぱいいるんだよね」
ジェイク「土地によって好みがぜんぜん違って、それこそGファンクやウェストコースト・ラップとかをプレイするとすごく喜ばれるところもあるかと思えば、ディスコっぽい音のほうが好まれたりする土地があったり、そういうおもしろさはあるよね」
――その点、日本のファンやDJはどういう印象ですか?
メイヤー「やっぱりコレクションしはじめたらとことんやるという、そういう姿勢を感じる人が多いね。ジャズであれファンクであれなんであれ、とにかく徹底してコレクションしてるなって思うし、(音楽を)ものすごく丁寧に扱って、大事にしているのがよくわかる」
ジェイク「自分の才能や趣味に誠心誠意込めてやっているのをすごく感じるね。それはもう仕事を一所懸命やるという部分だけじゃなく、趣味だろうがなんだろうがとにかくやるかやらないかをすごく徹底してる。以前、横浜にローライダーのショウを観に行ったときに、本場LAよりもカッコ良いショウをやっていたのにはびっくりしたし、レコード・ショップも同じで、アメリカの店よりも良いものを集めてる。そういうのが日本だなって思うね」
――いわゆる〈ヲタク〉というやつで。
ジェイク「自分たちもまさにそういうタイプだから、日本に来るとすごく居心地がいいんだよ。徹底主義者というところも合ってるし、昨日もメイヤーとそういう話をしていて。オレたちってヲタクだよなあって(笑)。とくにレコードに関しては、同じレコードを持っていてもオリジナル・プレスにこだわるとか、そんなにお金を使う必要もないのにって思われるようなところに使ってしまうし、同じ盤を持っていても買ってしまう。いまはmp3でいいという人もたくさんいるけど、自分たちはそういうところにこだわっちゃうんだよね」
郷太「アメリカとか世界中でCDやパッケージがなくなっていっているなかで、日本もレコード・ショップが激減していて。ただ、タキシードって日本ではパッケージで売れたと思うんですよ。アナログもそうだけど、持っていたいという衝動に駆られる作品というか。僕がこうしてジャケットを物販で買ったのも、ほしいって思ったからだし(笑)。それは2人がすべての〈物作り〉に愛着を持って作っているからなんじゃないかなって思うんだけど」
メイヤー「そうだね、ヲタクだからそういうところにこだわるんだよね(笑)」
郷太「で、僕らはそれが欲しくなる、と(笑)」
メイヤー「じゃあ、ずっとこの調子でやり続けなきゃね」