INTERVIEW

勝っても負けてもいない人生のために歌うロックとは? シャムキャッツが投影した、恋と友情の境界で揺らめく〈愛〉の風景

シャムキャッツ『Friends Again』

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  • 2017.06.15
(左から)大塚智之、夏目知幸、菅原慎一、藤村頼正
 

シャムキャッツが6月21日(水)にリリースする新作『Friends Again』を指して、〈何の変哲もないロック・アルバム〉と形容することは、いささか誤解を生むだろうか。では、こう言い換えてみてはどうだろう。4ピースのロック・バンドとしての真髄を突き詰めた、新たな名刺代わりの一枚。そう、巧みなストーリーテリングとメロウネスで確固たる位置を築き上げた連作『AFTER HOURS』(2014年)、『TAKE CARE』(2015年)から早3年近く、溢れんばかりの実験精神を注ぎ込んだ昨年の2タイトル“マイガール”と『君の町にも雨はふるのかい?』を経て遂に完成した同作は、シャムキャッツというバンドの骨子を顕わにしたアルバムだ。

夏目知幸がエレキをアコギに持ち替え、菅原慎一はギターを重ねない――レコーディングを行ううえで、バンドはシンプルな制約をアンサンブルに課したという。その簡素さゆえに、4人が向き合って演奏している姿をありありと思い浮かべることができる。つまり、彼らが〈ファブ・フォー〉と呼ばれる所以のバンド・マジックが全編にわたって込められているのだ。と言いつつも、シングル“マイガール”で彼らが探求したライヴ感溢れるラフなサウンドというわけではない。むしろ、各パートの連なりは、リアル・エステイトを彷彿とさせる数学的とでも言うべき端正さで組み立てられており、熟孝を重ねたうえで、可能な限り丁寧に作られたと思しき作品でもある。

そして、今作における最大の特徴は、夏目知幸が主役を張ったアルバムではないということだ。菅原がメイン・ヴォーカルをとる局面がこれまででもっとも多く、特に今作中もっともアンセミックな楽曲“Riviera”が彼の作品であることは、バンドのそうしたモードをシンボリックに表しているだろう。また、ラヴ・ソングのようであり、友情を綴っているようでもあるリリックには、〈Friends Again〉というテーマが映し出されている。だからこそ、今作は一聴〈何の変哲もないロック・アルバム〉のようでいて、〈シャムキャッツという4人組そのもの〉を音像化したアルバムだ。彼らにしか鳴らしえない音楽をナチュラルなタッチで研ぎ澄ませた同作について、メンバー全員に話を訊いた。

シャムキャッツ Friends Again TETRA(2017)

シャムキャッツの強みはメロディーと4人の演奏

――アルバムを聴いて最初に感じたのは、ようやく夏目さんがバンドのプレイング・マネージャーであることを卒業できた作品なのかな、ということでした。

一同「おー」

夏目知幸(ヴォーカル/ギター)「そうそう。わかるもんなんですねー(笑)」

――4人全員がほぼ均等の位置にいて四角形を描いている――そうしたバンドの良い関係性が表れているアルバムだなと。だから、『Friends Again』というタイトルがすごくしっくりきた。夏目さんは前回のインタヴューでも、〈自分たちは友達なんだ、という気持ちで次の作品が作れたら良いなと思っている〉と語ってくれていましたよね。

藤村頼正(ドラムス)「これまでリリースしてくれていたPヴァインを離れ、去年にTETRAという自主レーベルを立ち上げたことで、自分たちでしっかり考えたり話し合ったりしながら、良い作品をどんどん作っていこうという意識を高めたんだけど、それが仕事になりすぎても良くないじゃないですか? そうなるとバンドとしての魅力や今までの感じも失われていっちゃうと思うし、バランスをとるためにも〈友達じゃなくちゃいけないな〉という気持ちが強くなってきたんですよ」

――ビジネスライクな関係になっちゃいそうなムードもあったということですか?

夏目「うーん、そういう感じじゃないんだけど、レーベルをやりつつバンドをやると、表現者として担うソフトの面だけじゃなく、音楽を作る以外の実務的な作業――ハードの部分もやらなきゃいけなくなった。(TETRAの立ち上げ以降は)俺以外のメンバーもそういう仕事をすることが増えたんですね。でも、みんなでハード面を分担していくうえで、ソフトであるべき場所までちょっと硬くなっているな、という感じもあったんです。それが自分としては大きかったな」

――ハード面を上手く回すためには、効率化やコスパを考えなきゃいけない面がある。でも、その考えがクリエイティヴな部分にまで浸みてしまうのは、違うんじゃないかということ?

夏目「そう! さっきプレイング・マネージャーと言われたけど、それまでは俺が〈こうじゃないといけない〉〈こうしたほうがいいんじゃないか〉というのを考えすぎている気がして、それは全部取っ払ったほうがいいよなというのはあった。友達同士ってつまり全員がソフトであること、全員が勝手な個体であることだから」

――実際に〈Friends Again〉というテーマを持つことで、変化していった面は?

菅原慎一(ギター/ヴォーカル)「単純に、その言葉があるだけで結構ラクになれた面はあって。僕の場合は、この2人とは全然違って、もっと前の段階から仕事みたいになっていたんです。それは作業面の話ではなくて、同じ物事を続けていくと、ある程度次に起こることが予想できるようになっていくから。それもあって、僕はむしろ独立できたことが、友達に戻れるきっかけになった。ルーティンじゃなくなったというか」

大塚智之(ベース)「TETRAを作る前から、バンドを続けていくうえではハード面をもっと強固にしていかなければいけないという気持ちは、メンバー全員に多少あったと思うんですよ。実際にそうすべき部分もあったし、それが悪いことではないし。ハードを上手くこなすことでクリエイティヴな部分がやりやすくなった面もあり、逆にハードの部分でも柔軟な考えでやっていくという双方向での良い流れもできた。そのなかで、もっとも自分たちがしっくりくるスタンスが〈Friends Again〉だったんじゃないかな。別に〈友達に戻りたい〉とかそういうことじゃなくて、自然にそこに着いたというか」

――今作は〈Friends Again〉というテーマを言葉とサウンドの双方で具現化したアルバムになっています。そこから逆算して考えると、TETRA以降の2作――“マイガール”と『君の町にも雨はふるのかい?』は、このテーマを表現するやり方を模索していた作品だったのかなとも思えた。

夏目「そうじゃないかな。『AFTER HOURS』と『TAKE CARE』は、僕が理想形を持っていって、みんなにそれをプレゼンしてという流れだったんですよ。そこを経て、もうちょっとバンドとしてロックをやりたいんじゃないかという感触もあって、結構気を使って進めていたんですよね。かつ、周りからの期待にもアンサーを出さなきゃいけないし、何をやったらいいのかがわかんなくなっていた。で、わかんないなりにがんばっていたのが去年かな。自主レーベルでこじんまりとした曲を作っていたら、〈目の前の日常、素晴らしいよね〉というだけのバンドになってしまう気がして、そういう怖さもあったから、ヒット曲っぽいものを出さなきゃいけないというプレッシャーも感じていたし。なるべくハデなものを作らないといけない気がしていたんですよね」

菅原「夏目が〈次はギターを歪ませる〉と言っていたのをメチャメチャ覚えていますね。あと、〈魂を燃やしたい〉とも言っていたな(笑)。僕たちはオーソドックスなフォーマットのバンドじゃないですか? そのうえで、そんな普通のロック・バンドがどういうやり方で攻めていくのかを模索した1年だったと思います。音を歪ませたり、バウンシーなリズムをやってみたり、90年代のバンドをオマージュしたカラフルな絵の具を塗るミュージック・ビデオを作ってみたり。振り返ると、必死だったんでしょうね。独立して、もがき続けながらも足は止められないし、なおかつ良い曲も書かなきゃいけない。そういったところでは、夏目に負荷を担わせていたのかとも思う。個人的には、後に引いていた1年だったな」

藤村「菅原が後に引いていたというのは?」

菅原「うーん、結構バンビ(大塚)に任せていた(笑)。インタヴューもあえて僕は行かなかったし、そのへんの4人のバランスをどうすべきかを考えていましたね。あと、一回みんなにも話したんだけど〈誰に向かってやっているのかがよくわからない〉という気持ちもあった。何をしたいのかもわからないし、リスナーとして好きな音楽と自分が演奏している音楽、周囲から求められている音楽がすべてバラバラで」

夏目「それは俺も一緒だったな」

――それによって追い詰められているような瞬間もあったんですか?

菅原「いや、そうじゃないかな。むしろ、それは楽しかった」

夏目「躁状態っていうか。やれることも技術的に増えているし、やりたいことも増えているし」

――確かに、シャムキャッツが昨年リリースした2作で提示した8曲は、パワフルなロック・ナンバーやリズム面で挑戦した楽曲もあれば、フィル・スペクター的なサウンドを志向したポップソングもあればと、音楽的な方向性は見事にバラバラでした。あの散らかり方を躁状態とは言い得て妙だなと。

夏目「フフフ(笑)。逆に今からあれをやれと言われてもできない」

大塚「ああなったとしか言いようがない(笑)」

藤村「みんなでひたすら掻き混ぜていた感じはあるよね」

『君の町にも雨はふるのかい?』収録曲“洗濯物をとりこまなくちゃ”
 

夏目「あの作業を経て、あんなに散らばったからこそ、逆にバンドの骨がどこにあるかを掴めたような気がする。ブレないところが見えてきた」

菅原「ブラしまくった結果ね(笑)」

大塚「この柱は大丈夫だった、みたいな」

――その柱とは?

夏目「うーんとね、その柱だけで作ったのが『Friends Again』なんだよね。家で言うと、骨組みだけで出来ていて、過度な装飾がなされていない状態。各々がどんな演奏をしているかが目に見えて、メロディーがすごく伝わる。柱とはそこのことかな。海外に行ったのも結構デカくて、〈音楽って言葉が伝わらなくても演奏とメロディーだけで十分強いんだな〉とわかった。それが、はっきり出るものを作りたいなというのは、『君の町にも雨はふるのかい?』のツアーをしている最中に思ったんですよね。シャムキャッツの強みはメロディーとバンドでの演奏なんだと気づいた」

※シャムキャッツは2016年10月に台湾と韓国公演を行った

菅原「今回、アンサンブルを作っていくうえでのテーマは、オーヴァーダビングをしないということ。だから、演奏している様子が見える作品になっていると思います。そのぶん、個々のプレイヤーのクセがめちゃくちゃ出ていて、ぱっと見は柱が1本立っているだけに思えても、凝視すると〈この釘の打ち方、めっちゃ独特だわ〉〈このニス塗りはこだわっているな〉とかそういう感じ(笑)。その意識は“マイガール”のときからあったんだけど、まだどこで具材を買ったらいいかをわかっていなくて、〈とりあえずAmazonで買うか〉って状態だったんですよ」

大塚「そのたとえ、わかりやすいの(笑)?」

――ハハハ(笑)。夏目さんが『君の町にも雨はふるのかい?』ツアーの話をしてくれましたが、同ツアーのファイナルにあたる今年2月3日のLIQUIDROOMでのライヴは素晴らしかったです。シャムキャッツのそれまでのタームをすべて包括するパフォーマンスだったと思うし、ようやくこの人たちは前に進めるんだなと思って、すごく感動したんですよ。

夏目「去年は、作品作りにおいてはとっ散らかっていたんですけど、ライヴはずっと充実していた気がする」

菅原「してたね。僕もLIQUIDROOMが終わったとき、今言ってくれたことと同じ感想を持ちました。次も良いアルバムが作れそうだなって、漠然と思えた」

――あの日のライヴでは、オーディエンスから『AFTER HOURS』『TAKE CARE』のシャムキャッツを求められなくなったという印象を受けたんですよ。

一同「あー」

菅原「自分たち自身もしばらく『AFTER HOURS』と『TAKE CARE』に引っ張られていたと思う。それは別に悪い意味ではなく、やっぱりセットリストに“AFTER HOURS”や“GIRL AT THE BUS STOP”は入れたいんですよね。でも、乱暴かもしれないけれど、僕はバンドがやりたいことに毎回お客さんが100%で付いてこなくてもいいとも思っているんですよ」

夏目「俺もそう思う」

菅原「〈シャムキャッツ、また違う感じできたね〉とよく言わるけど、それくらいのペースでやっていくのが健全なのかなって」

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