写真提供/COTTON CLUB 撮影/米田泰久

スティングの音楽を支えてきた名ギタリストが放つECM移籍第1弾

 音楽の世界では時として、ビッグ・アーティストの名伴奏者として親しまれたミュージシャンが、ソロ・アーティストとしてさらなる高みに昇り、大輪の花を咲かせるというドラマティックなことが起こる。エラ・フィッツジェラルドの伴奏者として活躍した後、稀代の名ピアニストとまで讃えられるようになったトミー・フラナガンや、ビリー・ホリデイを支えた後に、独自の音楽を築き上げたマル・ウォルドロンらはその最たるもの。そして今まさにその劇的なステップを踏み出そうとしているのがドミニク・ミラーだ。

DOMINIC MILLER 『Silent Light』 ECM/ユニバーサル(2017)

 世界的名声を誇るスティング・バンドのギタリストとして1990年から今日に至るまで四半世紀以上に亘りサポートを続ける傍ら、1995年からソロ・アーティストとしても活動を開始。そして今年4月に、その11枚目となるアルバム『サイレント・ライト』が、世界最高峰の音楽レーベルであるECMへの移籍第1弾として発表された。スティングから〈色彩感豊かな音の建築家〉と讃えられる彼の美しく豊穣な音楽が溢れるアルバム。その源となるものは何なのだろう。

 「私がアルバム制作でいつも心掛けているのが、写真を撮るようにして、その時の自分の内面を写し出す作品、つまり文字通りの〈アルバム〉を作り上げるということ。そして今回、私が最も強く表現しようと思ったのが〈空間〉というコンセプトです。親しい友人と夕食を共にしながら交わされる穏やかな会話。そこに流れる静かな間合いを楽しむようなイメージ。そんな素敵なひとときを私のギターによって表現し、その音の〈空間〉の中でリスナーのみなさんとコミュニケイトしようと考えたのが今回の『サイレント・ライト』というアルバムです」

 ミラーが語るように、今回の作品を聴いていると、多様な音楽的要素を持つ彼のギターの音が優しく耳から流れ込んで来て、頭の中でさらに広がっていくような心地好さを覚える。

 「私の音楽のバックグラウンドには、クラシック音楽やロック、ブラジル音楽、そしてケルト地方やアイルランド、スコットランドの民謡など様々なものがあります。それらの影響を具体的な形で表現したのが、敬愛するバーデン・パウエルに捧げたオリジナル曲“バーデン”や、スティングが作曲した美しいバラードをカヴァーした“フィールズ・オブ・ゴールド”などの曲。特にスティングは約30年間、活動を共にしてきた私にとって音楽の師とも言える特別な存在。“フィールズ~”は、彼に対する感謝の気持ちを音で表現したものです。私の音楽的メッセージをリスナーのみなさんにも共有していただけると嬉しいです」