INTERVIEW

井上銘 × 西田修大(吉田ヨウヘイgroup)、いまこそギターがおもしろい! 越境していく音楽シーンに示すギタリストの未来

井上銘『STEREO CHAMP』

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  • 2017.07.24
井上銘 × 西田修大(吉田ヨウヘイgroup)、いまこそギターがおもしろい! 越境していく音楽シーンに示すギタリストの未来

今、日本のギタリストの話をする時に井上銘という名前は避けて通れないだろう。世界的にジャズ・ギターが盛り上がっている中で、その流れに適応している数少ないプレイヤーの1人だから、というのもある。そんな彼が類家心平(トランペット)、渡辺ショータ(キーボード/ピアノ)、山本連(ベース)、福森康(ドラムス)という信頼を寄せる面々で構成された新プロジェクト=MAY INOUE STEREO CHAMPを掲げ、去る6月に新作『STEREO CHAMP』をリリースした。『STEREO CHAMP』はかつてコンテンポラリー・ジャズ的なサウンドのギタリストだった頃からずいぶん変わり、作曲科的な側面と、ジャズだけでないさまざまなサウンドを奏でることもできる、幅の広さを見せつけた作品だ。それはCRCK/LCKS、石若駿のClean Up Trio、ものんくるなど、さまざまな場所での経験から得たものを自然に形にしたものでもあるのだろう。ここではそんな井上銘と交流があり、井上の代役としてCRCK/LCKS(以下クラクラ)で演奏したこともある吉田ヨウヘイgroup(以下YYG)のギタリスト西田修大と井上との対談を企画した。井上からの信頼も厚い西田とだからこそ聞き出すことができた、ここでしか読めない『STEREO CHAMP』の全貌をお送りしよう。

井上銘 STEREO CHAMP リボーンウッド(2017)

 

押さえ方やディティールが自分の常識と違うので、まったく違って聴こえる

――二人の出会いはいつになるんですか?

西田修大「去年12月に開催された〈Mikiki忘年会〉です」

※Mikikiが2016年12月21日に開催したライヴ・イヴェント。吉田ヨウヘイgroupとCRCK/LCKS、TAMTAM、WONKが出演。柳樂もDJで参加

井上銘「西田くんたちみたいなバンド・シーンの人たちとそこで繋がった感じがありましたね」

西田「そうだね。柳樂さんが前からずっと〈井上銘がヤバイ〉って言ってたし、他の人からも同じように銘くんの噂はよく聞いてたから、会えるのを楽しみにしてたんです。銘くんの載っている雑誌とかを買ってチェックしたりしながら」

一同「ハハハ(笑)」

西田「YouTubeでチェックしたりもしてたけど実際にプレイを観るのは初めてだったから、サウンドチェックで銘くんが弾きはじめてすぐ、こんなの今まで俺がライヴハウスで聴いたことない音だよ!と驚いて」

井上「俺は楽屋で会った時の西田くんの印象とライヴ本番での様相が違いすぎて、ビックリしました。自分はステージに出ても普段とあまり変わらないと言われるんですけど、西田くんはステージに上がると、〈こち亀〉の本田がバイクに跨ったくらいの勢いで変わる(笑)」

――わかります(笑)。

井上「で、YYGのサウンドはすごくユニークだなと思ったし、(フロントマンの)吉田さんは自分をさらけ出せる人だなと思いました。自分はそう見られていないかもしれないけど、個人的にはミュージシャンはステージでさらけ出してる人が好きなんですよ。YYGは吉田さんのさらけ出し具合に女性コーラスの涼しげな要素が入ってくる。そこに西田くんのキレキレのかっこいいギターが加わって、まるですっごく愛情を込めて作られた夏野菜のスープ・カレーみたいな」

一同「ハハハ(笑)」

西田「俺、あの日のクラクラのライヴはずっと張りついて観てたんだけど、銘くんの演奏が始まった瞬間に、乱暴な言い方だけど(月見ル君想フが)Blue NoteやCOTTON CLUBの音に変わったんだよね。アーティキュレーションとか音色の質自体が。まさか自分の出演するライヴでそういうことが起こるとは思ってなかったので、ビックリしちゃって。もう終わった後に大興奮で、(井上に会いに)すぐ楽屋に走って行きました(笑)。でも銘くんもYYGの出番の後いちばんにわーって来てくれたんだよね」

※演奏技法において、音の形を整え、音と音の繋がりに強弱や表情を付けることで旋律などを区分すること。フレーズより短い単位で使われることが多い

井上「YYGのライヴに胸が高まってしまって、もうハグしたいなと(笑)。こっちも愛を返したいって感じだったんだよね」

CRCK/LCKSの2017年作『Lighter』収録曲“パパパ!”
 
吉田ヨウヘイgroup“分からなくなる前に”
 

――西田さんから見た井上さんは、ギタリスト的にどういう印象ですか。

西田「やっぱりギタリストってそれぞれに自分の音があると思うんですけど、銘くんはどのハコでも〈銘くんの音〉を鳴らせるんですね。いちばん印象的だったのはこの間2人でスタジオに入った時に、銘くんが俺のジャズ・マスターを同じアンプとエフェクターのセッティングで弾いたんですよ。そしたらまったく同じ機材なのに、一音目から俺とまったく違う音で、しかも銘くんの音が鳴っていて。ああ、ここまでの人は初めてだ、と思いました。自分の音を持っていて、それがしかもいままで積み上げてきたもので出来た音だという、確固たる感じがすごくしましたね」

井上「それは彼にも伝えたんですけど、俺もまったく同じ意見だったというか。俺のギターを西田くんが弾いたら西田くんの音がしてるから」

西田「こんなに違うんだってくらい露骨に違ったよね。銘くんのギターなはずなのに、全然銘くんの音がしないんですよ。あとは〈いまの何?〉とか〈いまのところどうやってやってるの?〉とか疑問ばかり湧いてきて」

井上「俺にとっても未知のことがいっぱいあった。自分はこれまでジャズをやってきているから、指板の見え方とかは他のジャンルを経験してきたギタリストとはたぶん違うと思うんです。どこにどの音が配置されていてとか、そういうのを理解するのは得意なんですけど、西田くんは一音出しただけで人の心をぶち抜けるヤツだなと思ったんですよ。攻撃力があるというか。そういう自分にないものを持ってるところに感動したんです。ジャズ系のギタリストはたくさん聴いてきたけど、彼はいま自分がグッとくるサウンドを出していたって感じですね」

西田「嬉しいな。ありがとうございます」

――西田さんのソロは必殺技感ありますよね。YYGの切り札というか。

井上「そうそう。必殺技を持ってるというのが」

西田「その流れで言うと、この間観た銘くんのライヴで“OLEO”をやっていた時のソロが印象的でした。結構長いソロだったんですけど、たぶんオクターバーか何かをかけてて、ちょっとPOGみたいな音がしていて。すげえ現代的だし、どうやっても自分には弾けないものだった。しかも全部メロディアスでイイんです。すごいものを観たとき――例えばジミヘンのライヴを観ても〈何それ?〉って思いますよね。ジュリアン・ラージとかカート(・ローゼンウィンケル)を観てもそうなると思うんですけど。その感じがあった」

※エレクトロ・ハーモニクスがリリースしているオクターヴァー・エフェクター

井上「それは俺も西田くんに対してまったく同じように思ってるけどね(笑)」

西田「銘くんは熱いんですよ、弾いているものが。この間新宿MARZでクラクラを観た時も、“CRCK/LCKSのテーマ”(2016年作『CRCK/LCKS』収録)で銘くんがすっげえソロを弾いていて。めちゃくちゃ複雑なんだけど、そういうものでも本当に綺麗に弾けるんです。そのうえで弾いてる様は熱い。……あといつも思うんだけど、若い時のジミー・ペイジに似てるんだよね」

井上「これ、俺にとっては地球にある言葉のなかでいちばんの褒め言葉です(笑)。73年のマジソン・スクエア・ガーデンでのライヴのジミー・ペイジに似てるって言われたら、1週間めっちゃがんばれる(笑)」

レッド・ツェッペリンの73年のマジソン・スクエア・ガーデンでのライヴ映像
 

西田「最初にクラクラを観たときにそう思って、その後銘くんと話してたときにツェッペリンが好きだと聞いて。その話で超盛り上がったよね」

井上「中学校の頃とかに憧れて好きになったものって別にまねしてるつもりがなくても、例えばしぐさや風貌とかが似てしまったりすることってあるじゃないですか。たぶんそれもちょっとあると思うんですよね」

西田「髪形も似てますもんね。あとステージに立ってない時の柔和さとか。ジミー・ペイジって実は柔和な表情をしてるんですよね」

井上「ああ、柔らかいですよね。それこそ、マジソン・スクエア・ガーデンでのライヴとかはたぶん(観客が)数万人はいますよね。俺がもしそんなにたくさんの人の前に立ったら慣れていたとしてもやっぱりテンションが上がっちゃうと思うけど、ジミー・ペイジは超リラックスしているんですよ。ジュリアン・ラージとかもそうだと思うんだけど、自分の理想としては気持ちは高まってても常に手元はリラックスしてたいんです。この間ジャズ・ギタリストの中牟礼貞則さんとも演奏中に力んでしまうことについて話していたんですけど、中牟礼さんは71年か72年のツェッペリンの日本武道館でのライヴに行ったそうなんです。そこでジミー・ペイジが“Heartbreaker”という曲のギター・ソロで、バッハの曲とかを交ぜながら弾いたらしくて。中牟礼さんは〈間近で観てたけど、あれだけのこと(ハードなリフやチョーキングをプレイした直後の繊細なアルペジオ)をやってるのに一切チューニングが狂ってなくて、すごく力が抜けてた〉とおっしゃっていましたね」

西田「ステージと普段が変わらないって話がさっきあったけど、ジミー・ペイジもそうなんじゃないかと思う時がありますね」

――ところで先日、井上さんの代わりに西田さんがクラクラのライヴに出演していましたが、どうでしたか?

井上「さっきスタジオに入ったと言ったのは、実はこの日のためだったんですよ。クラクラは譜面に書いてあることと結構違うことも多いから、実際会ってギター弾かないとと思って」

西田「その時撮った“Get Lighter”の弾き方をおしえてくれる動画もありますよ(笑)。でも銘くんのように弾くのは本当に無理だと思いました。そのぶん自分のベストを尽くそうという気持ちで本番はやれたので、すごく良かったですけどね」

井上「それはメンバーも言ってました。俺の弾いてる原曲の感じを大事にしてくれて、なんとコピーしてくれていたし、それでいて西田くんらしさを出すところはしっかり出していて、その塩梅がすごく絶妙だったと」

CRCK/LCKSの2017年作『Lighter』収録曲“Get Lighter”
 

西田「銘くんのギターは、複雑に聴こえるプレイよりも、一聴しただけだと普通っぽいリフがヤバかったりする。例えばクラクラのファーストだと“簡単な気持ち”のリフがフル・ピッキングだったりするんです。あれをフル・ピッキングでああいうふうに弾くのはすごく難しいんですよ。オーソドックスなことをしているように聴こえても、押さえ方やディテールが自分の常識と全然違ったりするので、サウンド的に全然アプローチが違って聴こえるんです。そういう難しさがあるから、それこそ銘くんの動画がなかったら無理でしたね。あとは技術的に難しすぎて、まったくできないものももちろんあります(笑)」

井上「俺もよく間違えます(笑)」

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