ペルー高地の暮らしに生きる歌を、ケチュア語とユニークな音で紡ぐ人

 頭のてっぺんから宙へ放たれるような、アンデス高地特有の甲高い歌声。ユニークな音作りとあいまって前衛にも聴こえるケチュア語の歌は、じつにチャーミングで清冽だ。秩父市在住、ペルー南部アヤクーチョ県、標高約2300メートルの村で音楽ファミリーに生まれ育ったイルマ・オスノ。12歳までインカ帝国の公用語だったケチュア語だけを話し(ペルーの公用語はスペイン語)、羊や山羊、牛馬の世話をしながら歌っていたという。「いつも山の後ろに何があるのかと、ずっと山の向こうへ行ってみたかった。あの道をたくさんの人が行って帰ってこないし、帰ってくると違う人みたいになってる。センデロ・ルミノーソのゲリラ戦で、アヤクーチョはどこも怖くて酷かったから、86年お姉さんとリマに出たの。もし死んだら帰って来れないかと思うと、お母さんや村から離れるのは辛かった。そういう記憶があるんです」

 無事リマに居を移した彼女は、市場で働きながら学び、教員を務めるかたわらアヤクーチョ民俗舞踊団に4年間在籍。カーニバル音楽グループ名義では、3枚アルバムを作った。「リマに住むアヤクーチョの人で、ケチュア語を喋る人がとても少なかったんですね。子供たちはもう喋れない。だから、私がケチュア語の歌と踊りをみんなに教えてました。今回のCDの曲は、生活の中で歌っていた音楽。仕事とか祭りの伝統的な歌…面白い音楽がいっぱいあるんですが、今はペルーでもアヤクーチョでも、あんまり大切にされていない」

IRMA OSNO タキ アヤクーチョ TDA(2017)

 と、やや口惜しそうなイルマさん。そんな大切な故郷の歌どもを、通常のアンデス・フォルクローレ編成でなく、自身の表現スタイルで紹介しているところがミソ! 2曲参加のケーナ奏者以外、チューバ、ヴァイオリン、パーカッションは、アンデス音楽初体験者ばかり。録音は、楽器ごとに曲構成を色分けした線図をもとに、彼女が曲の意味と逸話、場面ごとに“牛”“手”“風”“コンドル”“虻”等のイメージを伝えて進めたそうだ。「みなさん、笑いながらやってました。遊びながら、すごく楽しみましたね」 彼女は歌(娘も1曲参加)のほか、ハサミ踊りのハサミ、小型弦楽器チンリリ、伝統太鼓ティンヤを奏でる。

 アルバム名の“タキ”は、ケチュア語で“歌”の意。その歌を授けてくれるのは、神秘の“滝”に棲むシレーナ(人魚)だ。「叔父は、夜の12時に滝に行って、カーニバルの素晴らしい歌詞、新曲を毎年作っていた人!」と聞いて、びっくり。「身近に、この音楽を感じて欲しい」とも語る。ちなみに、珍しい苗字“オスノ”は、インカの休憩所だった石の椅子“ウシュノ”に由来するそうな。伝説は、歌い手とともに今を生き続ける!

 


LIVE INFORMATION

"Presentación TAKI Ayacucho" 「イルマ・オスノ ソロ・アルバム発売記念ライブ」

○9/9(土)18:30開場/19:00開演
会場:下北沢Com.Cafe 音倉

www.otokura.jp/